第14話考証・設定
雑感1で書いた、半端な考証はしない方がいいという話。
考証も設定も大切。それにはだれも異論はないだろうなとおもいます。
では、考証とか設定はどういうことなのか。
まず、考証も設定も、「知っていることから始まる」ということを言っておきます。こう書いただけだと、やはり異論がある人は少ないだろうと思います。ですが、「知っていることから」を甘く考えるのはやめてください。
考証と設定のおそらく最高の部類のものは、トールキンによるものです。彼は文献学者でもあり、そっちの古文書や伝承に、そもそものはじめから興味をもっており、知っていました。上で「知っていることから始まる」というのは、この段階のことを言います。まぁ、「ミドル・アース」という名前だって「ミッド・ガルド」の訳だったりしますし。
ハードSFの著者で研究分野に関連した作品を書いている人も何人もいます。「知っていることから始まる」というのは、その段階のことを言います。
この基準に立つ限り、多くの人が、「考証や設定をできる地点にはこれっぽっちも近づいていない」ということがわかるでしょう。つまり、そもそも考証も設定も、そんなことをすること自体が不可能な状態です。
そしてこれが重要なことなのですが、読む方も考証や設定をするのと同程度の知識があることが前提になります。ですが、多くの人はその状態にないでしょう。
では、それによってどういうことがおきているか。雑感1に書いたヘリのように、マヌケなことになります。それによって、マヌケが書いたものをマヌケが喜んでいるという、とてもよろこばしい状況がもたらされています。読み手にすれば自分にわかる範囲のものが多く供給されるわけです。書き手もそれでなりたつ。理想的な需給関係、バランスだと思います。
以前、twitterでこんなことを書いたことがあります:
SF風味超強め: 読者の知識を引き上げる。
SF風味強め: 読者には案外理解できない。
SF風味中程度: 半可通が書き、半可通が突っ込む
SF風味弱め: SFの概念にすらひっかからない
なお、注意として書いておくと、SF読みは星新一の作品はSFとは見ません。それは「星新一の作品」と見ます。それだけではなく、何かがSFだという見方はそもそもしません。「誰の、何と言う作品か」という見方をします。つまり、SF読みの頭の中にはSFという「ジャンル」は存在しません。
それはそれとして、twitterの話にもどると、SF風味に限らずいいとこ「中程度」で書き手も読み手も満足しているように思えます。もちろんそれはカクヨムのような投稿サイトにおいて顕著なのでしょうが、商業でもまぁだいたいそんなところです。多少「強め」寄りにはなっているかもしれませんが、その程度です。
それとも書き手が「中程度」で、読み手は「弱め」かもしれません。もしかしたら両者が「中程度」であるよりも、もっと理想的な関係かもしれません。
ついでとして書くと、「SF風味強め」のどこかに、「これはSFっぽい」と思うかどうかの境界があるのだろうと思います。
冒頭に戻ります。この条件を満たすこと、あるいは近づくことは無理だと思うかもしれません。なら、さようなら。文盲まで戻ったほうが幸せじゃないですか?
さて、考証や設定というと、今はないんだろうけど、「時刻表トリック」というものがありました。目をつけた人については、「おもしろいことを考えたな」とは思います。ですが、「それで何なの?」とも思います。
時刻表トリックを例に出したのは、それが案外ここで扱うのにいい例だとおもうからです。というのも、考察や考証というものを思い描いたとき、トールキンふうのものを思い描くより、時刻表トリックに近いものを思い描く人が多いのではないかとおもうからです。
トールキンふうの化物級の知識を持ち、そしてその知識から再構成する人ってどれくらいいるでしょうか。
それよりも、ちまちまデータを見ていって、「あ、これ使える」という人の方が多いのではないでしょうか。あるいは具体的に書くと、ちまちまwikipediaをみて、「あ、これ使える」という人。それでは体系化された知識は身につきません。バッラバラのIndex Card (5x3カード、情報カード)の束があるだけ。一枚を引き抜いても他のカードはついてきません。体系化というひも付けがなされていませんから、当然そうなります。
この二つが両極端と言えるのかはわかりませんが、考証や設定をするという条件においては両極端に近いでしょう。時刻表トリックからさらに外れると、それはもう考証も設定もないと言ったほうがいいでしょうから。
さて、推理ものが好きな方はすでにお気づきかもしれませんが、ホームズは「考証も設定もない」部類に入ります。もしそうは思わないという方がいたとしたら、ドイルの書き方によるものなのかもしれません。
まぁ、雑感っぽいまとまりに欠けるものとなりましたが、考証や設定をするのも、そういうのを読むのも、まずは知識があってからの話だということです。
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