第4話先が読めるか読めないか
ある作品を前にした時、それがどんな内容なのかは気になるだろう。では、それは、読んでいる時に、作品の先が読めるか読めないかということと同じだろうか。
先の読めない展開とか、二転三転とかと作品が評されることもある。それは読み手の期待を煽るためのものだろうか。読み手は、その煽りに反応して期待するのだろうか。
そうであるとするなら、読み返すという行為は意味を持たないことになる。忘れたから、再読してもまた楽しめるのだろうか。40年くらい経過していればそういうこともあるだろう。だが、もっと短い時間幅の中でそうなるのだとしたら、ちょっとおかしい。真面目な話として、検査が必要だろう。
このことから、先が読めるか読めないかは問題ではないことがわかる。先の読めない展開とか、二転三転という評は、どう考えても書き手も読み手もかなり軽く見た評でしかありえない。それは、一読したなら古本屋に売ってください。ゴミに出してください。燃やしても結構です。そういう評だ。あるいは読み手に対して、どうせすぐ忘れるでしょと言っている評だ。
もちろん、みなさんは大学の時に使った教科書は、遅くても卒業するときには売るか捨てるかしているだろう。なぜなら、そんな教科書はもう使わないし、読み返す理由もないからだ。記憶に問題がないのなら、小説でも同じだろう。再読する理由もないし、必要もない。
さて、ではここが問題になる。あなたのすべての蔵書が、一個の三段のカラーボックスに収まってしまうのなら、あなたの読書についての認識と行動には何の齟齬も生じない。では、三段のカラーボックスに入れたら少なくとも10個くらいになる場合を考えてみよう。なぜ、たとえその程度だとしても、残しているのだろうか。もし、先が読めない展開といような煽りに惹かれて買っているのだとしたら、あなたの認識と行動には齟齬がある。残しているという行動の理由が説明できない。
そのように残しているのだとしても、記念として残しているのかもしれない。それは一個のカラーボックスと実質的に同じだろう。だが、もし、あなたがそれらを再読するのだとしたら、認識と行動にはっきりとした齟齬があることになる。記憶に障害がない限りは。
おおむねであったとしても先が読めるにもかかわらず再読する。なぜだろう。少なくとも、先が読めないなどの煽りどおりではない。
初めて読む時と再読では求めるものが違うという指摘もあるだろう。まさにそこが問題だ。それはそのまま、先が読めない以外の何か期待するものがあるということだ。
先が読めないなどの評がなされたなら、書き手は怒らざるをえない。もちろん、あなたが商業作家で、そういう煽りを受け入れているなら、それで構わない。先が読めない以外には何も期待されるものはそこにはないと認めているのだから。その場合、一読の後に捨てない読み手にこそ怒らない場合に、矛盾が生じる。なぜ取っておいて欲しいと思うのだろう。取っておいて欲しいと思うなら、先の読めないなど以外の何かを期待しているのでなければ、それを説明できない。ならば、先が読めない以外の何かがそこにあると思っているはずだ。
先が読めない以外の何かがある。そこが出発点だ。
その何かがある。書き手であれ、読み手であれ、その何かがあることを期待する。そこが出発点だ。
だとするなら、先が読めないのは、どれだけ大きく見積もろうとも演出の一部であるはずだ。先が読めないの一言で評されてしまう以外の何かがまずあるはずだ。
だとするなら、先が読めないことを前提に書くのはおかしい。それはほんの一部であり、大部分ではないはずだからだ。
だとするなら、先が読めないことを前提に読むのはおかしい。それはほんの一部であり、大部分ではないはずだからだ。
だとするなら、先が読めないことを前提に創作することを勧める創作論はおかしい。それは、少なくともあなたにとって、ほんの一部であり、大部分ではないはずだからだ。
だとするなら、先が読めないことを前提に創作することを勧める創作論を受け入れるのはおかしい。それは、少なくともあなたにとって、ほんの一部であり、大部分ではないはずだからだ。
ならば、先を読めることをこそ前提に書かなければならない。先が読めることを前提にしてこそ、書き手としてであれ読み手としてであれ、あなたが何を期待しているのかが見えてくるはずだからだ。
そして、あなたは子供の頃、同じ本を何回も読んだはずだ。ならば原体験としての物語に、先を読めないことを期待していたなどということはありえない。
展開の魅力というものがあるとしても、それは先が読めないことと同義ではありえない。
あなたが書き手であり、先が読めないと煽りや評を入れられたら、あなたには怒る以外の行動はありえない。
あなたが読み手であり、先が読めないという評をしたのなら、それは書き手への最大の侮蔑でしかありえない。
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