第23話 太陽と夜の塩
六大主神が一柱、太陽の神バンチャティ。
神々の盟主、神の中の神、あらゆる神の頂点に立つ存在。
月の女神を妻として、光と闇の神々の争いに終止符を打った存在でもある。
そんな輝ける存在たる太陽神だが、かの神にはもう一つの側面があった。
その名は夜の神。
数百年に一度、太陽が妻たる月に多くの光を与え、その光を失う日がある。
いわゆる金環日食と呼ばれる現象だ。
この現象は別名を黒い太陽と呼ばれ、光の存在である太陽の神が闇に属する存在、夜の神と呼ばれる由縁でもあった。
太陽の神の妻である月の女神が夜の神の妻と言われる原因もそれである。
光の存在であるにも関わらず闇の存在でもある。
この二面性によって太陽神は二つの属性を手に入れる事に成功した。
それこそが太陽神が主神といわれる由縁だ。
光の神々も闇の神々も彼の命には従う。それは古の神々の戦争において敵対する闇の主神を打ち倒し彼の力を奪ったからだとも言われている。
太陽の神バンチャティは通常太陽神としてのみ顕現する。
だが今回は夜の神としての側面も同時に顕現していた。
それはつまり、二つの神格の顕現によって町の加護が二倍になるという事だ。
更に言えば奉納品も二倍になる。
◆
恐らく今回の奉納品の質と数が原因だったのだろう。
うっかり手にはいった最高級の食材で作った多くの奉納品は、神の中の神の光と闇の側面を引き出してしまった。
はっきりいってめったにある事ではない。あってたまるか。
おかげで新アルフレイム領には月の女神の神殿だけでなく太陽の神の神殿まで出来てしまった。
大人の都合という奴である。
加護が増えるのは良い事だが、その分奉納品の質と量を維持し続けなければいけない事と、周囲のやっかみやちょっかいが心配だ。
今後起こるであろう面倒事に対して頭を抱えていたら、なんか陛下から領主就任の祝いの品が非公式で届いた。
絶対玉座で笑い転げてるに決まってる。
あと、どうでもいい事だが俺が領主になった事が原因で、上の兄二人が実家の後継者争いを始めたとか。
ホントどうでもいい話だ。
何やらいろいろな事が怒涛の様に広がっていく感じだ。
お願いだからこれ以上面倒事は起きて欲しくないものだ。
まぁ、そんな事は知った事ではないと近く問題の方からやって来る事になるのだが。
◆
太陽の神が二重顕現された事が原因で、この町には太陽の神の神殿も建てられる事となった。
初回の奉納は月の女神の神殿で済ませてあるので太陽の神の神殿としては大きく出遅れた感じだな。
そんな太陽の神殿からある依頼が舞い込んできた。
新たに建てられた領主の館、その応接間には太陽の神殿の使者が来ていた。
「初めましてアルフレイム男爵。私は太陽の神殿アルフレイム領支部、支部長のレオン=ジーと申します。どうぞお気軽にレオンとお呼び下さい。畏まってじーさんと呼ばずとも結構ですぞ」
そろそろ初老にさしかかろうという年頃のレオンさんは、何故かじーさんという単語に力を込めて主張した。
まぁ、本人がそう言うのだからそうさせて貰おう。
「こちらこそ初めましてレオンさん。アーク=テッカマー=アルフレイムです」
お互いに軽く頭を下げて挨拶をする。
「さて、早速ですがアルフレイム男爵様は炎塩と言う物をご存知ですか?」
「炎塩? いえ、聞いた事がありませんね」
「炎塩は文字通り燃える塩です。太陽の欠片とも言われ、強力な浄化の力を持っております」
なるほど、除霊アイテムかな。
以前の怨霊騒動があったからその関係での依頼かな?
といっても俺は酒を作るのが仕事なんだがなぁ。
「それは除霊用の品と言う事ですか?」
言外に専門外ですよというニュアンスを込める。
「いえ、確かに炎塩には除霊効果もありますが、炎塩の真の力は土地を清める力です」
「土地を?」
塩で土地を清める? 除霊と何が違うのだろう。
「炎塩の浄化の炎は汚染された土を焼き、毒や呪いを打ち消す事が出来るのです」
ほお、ソレは面白い。
使い様によっては危険な毒を持った魔物退治やそうした魔物に汚染された土地の大規模な開発が出来るんじゃないか?
けど、それだけ有用な物であるというのに、炎塩と言う名は聞いた事も無いぞ。
「言いたい事はよく分かります。しかしそれには理由があるのです」
だろうな。何か理由でも無ければ、それだけの品を放っておく意味が無い。
「実は炎塩は夜の神に仕える者達しか所持を許されないのです」
夜の神と言うと、太陽神バンチャティ様のもう一つの顔の事だよな。
「夜の神と言うのなら、太陽の神に仕える貴方がたも所持できるのでは?」
どちらも元をたどれば同じ神に仕える者なのだから問題ないと思うのだが?
「確かに外の方にとってはそう見えても仕方有りません。ですがそうも行かないのです」
レオンさんが語るには、太陽の神は光の属性で、夜の神は闇の属性である為、半ば別の神として崇めているのだとか。
そもそも複数の側面を持つ神は少ないので、その辺りは当人達にしか分からないこだわりと言うか、しきたりの様な物があるのだとか。
「実は、我が太陽の神を祭る神殿に大規模な土地の浄化依頼が来たのです。なんでもゾウニンと言う猛毒を持った魔物が森を荒らしまわり、何とか退治はしたものの飛び散った猛毒の体液の所為で生者の近寄れぬ土地となってしまったのだそうです」
それで土地を浄化できる炎塩が必要なのか。
けどそれなら俺の所に来ずに直接夜の神の神殿に行けば良いのでは無いだろうか?
という疑問を直接ぶつけて見ると……
「ええ、まぁ、その通りなのですが……なんでも神殿間の炎塩の流通には規定があるらしく、規定以上の量の炎塩の流通は禁じられているのです」
それで俺を介して炎塩を得たいという事か。
「アルフレイム男爵はかの怨霊事件を解決に導き、此度の奉納では太陽の神と夜の神の二重の加護を得るという快挙を成し遂げました。これは誠に素晴らしき事。そのアルフレイム男爵が求めれば 夜の神の神殿の者達も嫌とは言えますまい!」
なるほど、そこに行きつく訳か。
「あと、私共が依頼したというのは内緒にお願いいたします」
セコいぞおっさん。
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