第3話
「……どうして、こんな事になったんだろう……」
寮内に与えられた自室のベッドに横たわり、暗い天井を眺めながら奉理は呟いた。
この鎮開学園には、初等部から大学部までが存在する。各部に在籍する全ての児童、生徒、学生が例外無く学園の敷地内にある寮での生活を定められており、敷地を出る事ができるのは卒業、または学園を退学処分となり、在籍の資格を喪失した場合に限られる。
勿論、滅多な事が無い限り、貴重な生贄候補を簡単に退学処分とするはずがない。また、生徒達の学費や生活費は全て国庫で賄われている。経済的な理由から退学をする事ができる者も、いない。つまり、生徒の数が減る時と言えば、生贄として差し出された時、という事になる。
そして、余程の災害でもない限り、基本的に差し出される生贄の数は一度につき一人か二人。毎日のように誰かが生贄にされるような事も無い。言うほど、在籍者の数の減りは早くないのだ。
一学年の人数は他校と比べて決して多くはない。しかし、それでも小学校一年生から大学四年生まで、十六学年分の人数が過ごすとなれば、相当な敷地が必要となる。
初等部の児童は、約三十畳の面積に二段ベッドを二つ設置した部屋に四人。中等部に進学すると、半分ほどの広さに二段ベッドを設置した二人部屋に。高等部になれば同じ広さの一人部屋を与えられ、更に大学生にもなれば部屋の片隅に給湯設備がつくと言う。
無償で教育を受ける事ができ、衣食住にも困らず、この広くはない国でそれなりのスペースを居住空間として与えられる。よく考えなくとも、恵まれた話だ。
なのに、ちっとも喜ばしくも誇らしくも思えない。それはやはり、己が、いつ人間としての権利を奪われ、死の淵に送られるかわからないからなのだろう。
「本当に……どうして俺、こんな事になっちゃったんだろう……」
もう一度呟き、記憶を巡らせる。こんな時に思い出すのは、いつでも同じ。今からおよそ一年前、奉理が、中学三年の時の事だった。
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