警察
すると、入り口の呼び鈴が鳴った。達夫が洗い物をする手を止めて、京を手で制して、玄関ののぞき穴から相手を見ると、相手は警官だった。達夫はびっくりして後ろに下がって尻餅をつき、這って移動して京の耳元で囁いた。
「警察だ」
京もびっくりして声を出しかけたので達夫は急いで京の口を押さえた。達夫は京の耳元で囁いた。
「頼む。風呂場に隠れていてくれ。できるだけ音は立てるな」
京は頷き、浴室に入った。達夫は京の靴とおもちゃを風呂場に隠して、急いでドアを開けた。そこにいたのは知り合いの警官の東 祐介だった。祐介は笑顔で言った。
「こんばんは」
達夫も笑顔を作り言った。
「こんばんは」
祐介は言った。
「お元気そうですね」
達夫は頭をかいて言った。
「おかげさまで…その、今日は何の御用ですか?」
祐介は笑顔で言った。
「実は近隣住民の方から、留守中の河野さんのお宅から物音がするとのお話がありまして」
達夫は動揺を抑えつつ言った。
「何の事でしょうか」
祐介は笑顔で言った。
「彼女かご家族など、こちらにお住まいではないですか?」
達夫は真顔で言った。
「いませんよ。ずっと自分一人です」
祐介は首を傾げて思った。
(誰もいないのに音楽が聞こえるわけがない…)
祐介は訝しみながら言った。
「あの…音楽はどうやって聞いてます?スピーカーですか?ヘッドホンですか?」
達夫は言った。
「基本スピーカーで、近所迷惑になる時間はイヤホンですね」
祐介は言った。
「仕事で部屋を空けている時に音楽がかかっているなんてことは?」
達夫は言った。
「ありませ…ん」
達夫は思った。
(あ…そうか、京のやつ、俺のいない間に音楽聞いてたってことか…まずいな…どう言い訳しよう)
祐介は思った。
(何か隠してるなこれは)
祐介は言った。
「うーん。ちょっと部屋を調べさせていただいてもいいですか?」
達夫は内心ドキリとしながら言った。
「ど…どうぞ」
(やばい…やばいな…京の隠れてる風呂場だけは見せたくない…)
祐介は部屋の中を物色して言った。
「達夫さん、ずっと1人で生活されているんですよね?」
達夫は恐怖を悟られないように答えた。
「はい」
祐介は訝しみながら言った。
「どうしてフォークが2個も流しに置いてあるんですか?」
達夫は内心震え上がりながら平静を保ち答えた。
「今朝の分と夜の分ですよ」
「ふーん…」
祐介は首を傾げながらまた部屋を物色した。 祐介は言った。
「達夫さん何か隠してますよね?わかりますよ」
達夫は震えを止めながら答えた。
「な…何がでしょうか」
祐介は言った。
「あれ、どう説明するつもりですか?」
祐介の指差した方を達夫が見ると、そこには洗濯して干していた子供服があった。達夫は目を瞑って思った。
(も…もうダメだ…隠しきれるもんじゃない!)
すると風呂場から京が出てきて言った。
「達夫お兄ちゃんを責めないであげてください!」
祐介は表情を緩めて言った。
「誰だい?君は?」
京は言った。
「私は河野京、達夫お兄ちゃんの妹です!」
祐介は訝しんで言った。
「随分歳の離れた妹さんだね?しかも河野さんに女兄弟がいるって話は聞いたことがなかったけど」
京は言った。
「…実は私、達夫お兄ちゃんとはお母さんが違うんです…」
祐介は眉を寄せて言った。
「…隠し子か。でもなんでその妹さんが今頃…」
京は腕をまくって言った。
「…これを見てください」
そこには青アザや傷跡がいくつもあった。祐介はさらに眉を寄せて言った。
「ひどいな…」
達夫は言った。
「おい!京!それは…」
京は言った。
「私、河野の家に最近連れて来られて、虐待を受けていたんです…」
祐介は言った。
「河野の家というと、実家かな?」
京は頷いて言った。
「はい。そうです。それで、時々帰ってくる達夫お兄ちゃんには可愛がってもらえたんですけど、他の人には…」
祐介は言った。
「…虐待を受けていたわけか」
京は泣きながら言った。
「私…達夫お兄ちゃんしか頼れなくて…なけなしのお小遣いでお兄ちゃんのところまで逃げて来たんです」
祐介は困り顔で達夫に言った。
「どうしてもっと早く言わなかったんですか」
京は涙目で言った。
「私が、口止めするように言ってたから…」
祐介は困って言った。
「うーん…家庭の事情に警察がでしゃばるのもなあ…確かにひどい虐待だけど…河野さんが育ててらっしゃるんですよね?」
「え…!?は…はい」
達夫は苦笑いで答えた。
(どうしようなんかおかしな話に…京のおかげで最悪の事態は避けられたけど…)
祐介は眉を寄せて言った。
「河野さんの家に戻すのもおかしいし、だからって子供を今頃河野さんの家に預けた親を頼るわけにもいかないし…やっぱりここは達夫さん頼りになっちゃうよなあ…うん…事情を知っていながら無責任だけど…」
京は涙ながらに言った。
「私、達夫お兄ちゃんのところにいたいです…」
祐介はしばらくうなっていたが何かを決めた顔で言った。
「よし、わかった。達夫くん、がんばって育ててくれよ?君だけが頼りなんだから」
「は…はい」
達夫は苦笑いしながら答えた。祐介は京に微笑みながら敬礼して去っていった。
「ふぅ…」
達夫はどっと疲れたという感じで椅子にどすっと座った。
「京…ありがとうな…お前のおかげで助かったよ…」
京は恥ずかしそうにして言った。
「いえ…助けてもらっているのは自分の方ですし…」
達夫は疲れた顔で笑って言った。
「いやあ京は子役俳優になれるよ。すごく演技が上手い。頭もいいじゃないか」
京は恥ずかしそうに顔を伏せて言った。
「私…ただ夢中で…」
達夫は京のところまで歩いてきて京の頭を撫でて言った。
「ありがとうな」
京はまた恥ずかしそうに達夫を上目遣いで見上げていた。達夫は家事をしながら険しい顔をして何かを考えていた。達夫は夜、アパートを出て公衆電話から電話をかけた。
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