対峙
次の日、達夫は京を連れて電車に乗った。京はきょろきょろしていたが特に何も言わず、達夫の後についてきていた。だが、電車を降りると、どこへ向かっているかがわかったのか、不安げな顔を覗かせた。豪邸まで着くと京はびくびくとしていた。
京は達夫を不安げに見上げていたが、達夫は無言で京の頭を撫でた。豪邸のチャイムを鳴らすと、男性の使用人が対応してくれ、京を見て、達夫を通した。建物までたどり着くのに時間がかかるほどの豪邸だった。建物に入っても広く、そこの一室に通された。そこには少し顔に老いの色があるものの妖艶な魅力のある微笑んでいる女性と、むっとした顔をした初老の男性がいた。女性を見ると京は達夫の後ろにくっついてぶるぶると震えた。女性は微笑んで言った。
「はじめまして、誘拐犯さん。どう呼んだらいいんでしょうねえ」
「河野達夫…」
初老の男性が言った。達夫は目を見開いて戦慄した。男性は言った。
「君のことを色々調べさせてもらったよ。家庭の問題で色々困っていたらしいね。弟くんを助けるために多額のお金が必要だったわけだ」
達夫は手の震えを抑え込みながら言った。
「京さんを誘拐して申し訳ありませんでした…」
男性は葉巻に火をつけ、くゆらせながら言った。
「別に謝る必要はない。妻が言っただろう。その子は厄介者なんだよ」
女性は鬼のような形相で京の髪の毛を引っ張って腹を拳で殴って言った。
「こいつめ!あれほど買い物の帰りにはまっすぐ帰れと言っただろうが!」
達夫は京の手を引き、女性から引き離して京の盾となった。京はさらに強く震えて頭を抱え、座り込み、ごめんなさいごめんなさいと繰り返していた。達夫は言った。
「やめてください!まだ子供ですよ!?」
女性は憤怒の顔で言った。
「うるさい!そいつが悪いんだ!こいつが出来たせいで
京は震えながらごめんなさいごめんなさいと繰り返し、座り込んでいた。達夫は眉根を寄せて言った。
「たとえどんな事情があろうと、子供に罪はないでしょう!?当たっても何の解決にもならないですよ!…とにかく、今日は他でもない京さんについてのお話をしに来ました」
達夫は思った。
(京を連れてきたのは間違いだった。これほどとは…認識が甘すぎた…)
震えている京も含め4人はソファーに座った。達夫は言った。
「京さんを正式に譲り受けられないでしょうか」
京は震えながら涙目でそのまま達夫を見た。女性は微笑んで言った。
「願ってもない話だわ。まさか誘拐犯が子供に情をかけるとはねぇ…ひょっとしてもう手を出したのかしら?だから欲しくなった?」
達夫は憎々しげに言った。
「いいえ。京さんに手を出すつもりなんてありません!」
女性は唇を歪めて笑って言った。
「あらあら、ムキになって。ちょっとした冗談じゃあないの」
隆は言った。
「そう若者をいじめてやるな。お前の悪いクセだ」
女性は微笑んで下がった。隆は言った。
「今の妻である
達夫は眉根を寄せて言った。
「あなたは実の父親なのに娘が虐待されていても守らず、子供を育てることも放棄するんですか!」
隆は葉巻を吸って、煙を長く吐いて言った。
「…あんた、なんで少子化は止まらないと思う。医療技術が進み、治らない病気やケガも減り、出生率は上がったのに、なぜ少子化は止まらないか」
達夫は怪訝な顔をして、しばらくしてから不機嫌そうに言った。
「…国民にお金がないからじゃないですか?」
隆は言った。
「まあそれもある。だが、大きな理由はそれじゃない」
隆は葉巻を吸い、煙を深く吐いて笑って言った。
「結局それは子供が面倒だからだよ。子供なんてのは捨てにくいゴミのようなものだ。欲望のままに生きていれば自然と出来てしまう。」
達夫は眉を寄せて言った。
「人間はゴミじゃない!」
隆は言った。
「ゴミだよ。ほとんどがゴミだ。使えないゴミ。ほとんどが利用価値のあるゴミか、ないゴミのどちらかだ。ゴミに変わりはないんだよ。私たち経営者はそんなゴミをいかにリサイクルして価値を生み出すかをいつも考えねばならない」
達夫は顔をひきつらせて言った。
「経営者はゴミじゃないんですか?労働者はゴミだと?」
隆は言った。
「経営者もほとんどがゴミだよ。ある意味労働者よりやっかいだ。だが、利用価値はある事も多い。」
達夫は言った。
「あなたはゴミではないと?」
隆は笑って言った。
「ああそうだ」
達夫は顔を歪めて言った。
「私はあなたが嫌いだ」
隆は言った。
「好かれようとは思っていない。だいたい君はそもそも誘拐犯だ。好かれたいなどとは思わないさ」
達夫は言った。
「…なんで京を疎ましく思っていたなら、施設に預けたりしなかったんですか。虐待を受け続けるより遥かにマシだったのに!」
隆は笑って葉巻を吸い、煙を吐いて言った。
「大企業の社長をしている者が子供を捨てるのは印象が悪いじゃないか」
達夫は眉根を寄せた。隆は葉巻を吸い、煙を吐いて言った。
「それに、ちゃんと育ったら他の会社の子供と結婚させるつもりだったのさ」
達夫は拳を固く結んで言った。
「あなたは…あなたって人は…!」
隆は言った。
「陽子、席を外してくれるか。」
陽子と呼ばれた女性は微笑みながら部屋から出て行った。隆は言った。
「別に私は責任を全て放棄するつもりはないよ。京の養育費は出そうじゃないか。親権はあんたにやってもいいがね」
達夫は苦々しい顔をした。隆は笑って言った。
「金がいらないわけはないよな?弟の命を救うためにも、金はいるに決まっているからな」
達夫はソファーから降りて土下座して言った。
「…お願いです。養育費、前借り出来ませんか?」
隆は高笑いした。達夫は頭を床につけて言った。
「お願いです!京さんは責任を持って育てますから!」
隆は言った。
「悪いな、返ってくるアテのない金は貸さないことにしてるんだ。他をあたるんだな」
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