第3話「人形の誇り」25

 棟の中、もとい部屋の中は随分と雑多で、それでありながら整頓はされている。整然、とまでは言えないが乱雑とも言えない。表現するのなら騒がしい、煩い、だろうか。騒音が出ている訳ではないのだが、視覚的な問題だ。並べられた机や本棚、何に使うのかわからない工具らしき物、煙か水蒸気かを噴出している円筒形の何か。部屋の奥の方には梯子か掛けられ、簡単な二階を作り出しているようだ。


「……ここで、お待ちください。呼んできます。すぐ戻りますので」


 三人が通されたのは部屋の片隅、他の場所よりかは静かで綺麗な空間。吊られた明かりには煌々と燃える炎。形は電球にも似ているが、しっかりと中身に炎が見えている。周りにもスタンドライトのような照明が設置されているお陰で明るさは十分だ。


「ここ丸々使ってるのか……なんつー部屋だよ……」


「実験棟自体使わないからな。工学でも一箇所空いてりゃ足りるって聞いたしな」


「そうなんですか? 確かに工学科は人数が少ないらしいですけど……」


「あ、あー……三科までしかないから聞いた、っす」


「セルディさん、無理して敬語じゃなくても……」


 昴はひたすら周囲を見渡しながら何か面白い物は無いかと捜索中、セルディはレイセスとの距離感を理解出来ずに居るのか相当ぎこちない。これはこれで見ものではあるが。


「ってかさっきの人じゃないんだな」


「今更か。グンは男だ。てっきりオレはさっきの女の人見て驚いてるのかと思ったが……誰だか知らねえし」


「な、なんだよレイその目は……」


「なんでもないですよー」


 どうやら先程の女性の事を話題に出すとレイセスの機嫌が変わってしまう事を察知した昴。なるべく口を噤もうと心に決める。

 待つ事体感数分、奥から声が近付いてくるではないか。セルディの言うように男の声。野太く、どこか野暮ったい篭った声だ。


「まったくどこの誰かと思えばクレイのとこの長男坊じゃないか……残念だが何を言われようとも統合されてやる気はないぞ。それに私は跡取りではあるが、まだ決定権は父上にあるのだが?」


 頭を掻きながら現れたのは随分と太ましい男だった。全体的に大きいのだが、半歩後ろに立つ女性のせいで余計に太く見えてしまう。彼がグン・クリージュなのだろうか。


「何の話だよ。別に用があるのはオレじゃねえ」


「なんと。それは失礼した。どちら様だろうか……いや見た記憶があるぞ」


 肉で細くなってしまったらしい目を更に近づけて昴へと向ける。そうしながら人差し指で自身のこめかみを叩く仕草。


「ああ、そうだ。最近話題の編入生だな。あのモルフォ坊に喧嘩を売り、対フェノン最終兵器になり、“炎の魔女”に気に入られ……おっと? これは何やら厄介事の臭いがするぞ?」


 このグンという男、随分と饒舌だ。そして何よりも聡い。

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