第3話「人形の誇り」26
「それで何をしに来た? ここに来るという事はそれなりに私の知識が必要であるからだろう? 何を知りたい?」
随分と上から目線ではあるのだが、ここは気にしない方が賢い選択だろう。
こういう性格の人間なのだろうし、もしかしたら年上なのかもしれない。だが初対面で上から目線で居られるのは癪なので、敬語は外そう。
「あー……人形について。主に核を探り当てる方法などなど」
「ふむ。襲撃騒ぎの件だな?」
「…………」
正解ではあるのだが、言い淀む昴。恐らくその態度に加えて隣に居るレイセスの反応も含めて見ている。にんまりと顔を綻ばせながら言う。
「図星のようだ。まあ良い。メルタ、茶と菓子を適当に。椅子と机は……長男坊頼む」
「なんでオレが……」
「一端の貴族が女性に重い物を持たせるのか?」
「……自分でやるって選択肢はねえのな。相変わらずひねくれてやがる」
「褒め言葉をありがとう。人形ばかり見ていると人間性というモノを見失うのでな。ああその棚の後ろに一式揃えてあるから人数分、頼むぞ」
グンが指示したのは付き添っていた女性、メルタと何故かセルディ。メルタは当然のように従って元来た道を戻っていくが、セルディは渋々という感じである。しかし従っている理由がわからない。
「さて準備が終わるまで時間も勿体無い。どこまで知っているかは定かではないが、何を言えば良い? 人形の簡単な壊し方か?」
「それは核ってやつを壊すのが手っ取り早いって聞いた。だけど場所がわからねえなって話」
「そうだな。見ただけでわかるように作ってしまえば人形としての尊厳を損なってしまう」
似たような話をモルフォからも耳にした。だからこそここに来てみたのだが、やはり一発で核を見つける方法は無いようだ。
「人形としての、尊厳……ですか?」
ふと気になった文言を、首を傾げながら口にするレイセス。
「ええそうですよ、どこぞのお嬢様。あなたのような可憐な方には重苦しい話では御座いましょうが、何卒ご容赦を」
「は、はあ……」
恭しく一礼するグン。まったくこの男の人間性を掴めない。レイセスが王女殿下であるという事は認識していないようであるし、あくまでも貴族然とした対応なのだろうか。昴には到底理解出来ないのだが。
「あれだろ、基本は戦闘用に作ってあるから簡単に見抜かれる訳にはいかないって」
「お、椅子助かるぞ。そして補足も。さすがだな」
「知ってて当然だろ。オレはな」
「そう。セルディ氏が言うように人形は元々は戦闘に特化した代物。人間に代わって戦わせようという物だ。自分の手を汚さない卑怯者と取れなくもない」
よいしょ、と小声で言いながら椅子に腰掛けると悲鳴を上げるかの如く軋む椅子。壊れないだろうか。昴とレイセス、そしてセルディが並び、用意された机を挟んでグン、空いた椅子はメルタの分だ。
「巷に出回っているのは勿論性能や価格は落とされているが、使えない訳ではない人形たち。主にクレイ家を筆頭に護身用として販売されているな。だからこそなかなか壊れない。壊れないように作ってる。しかし私はそんな人形は嫌いだ」
鼻に届く甘い香り。メルタが指示された通りの茶と菓子を持って来てくれたのだ。
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