第3話「人形の誇り」21
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――この日何度目の移動だろうか。“知る”という目的を果たすために昴とレイセスは新たな場所を目指していた。
「実験棟、ね……行くのは初めてだな。何があるんだ?」
昴が口にした実験棟が次の目的地。窓の外にはうっすらとオレンジ色の夕焼けが差し込んでいるではないか。この行動に移ってから結構な時間が経過しているという事。まだこれといった進展がないのが残念で仕方が無い。
「ええと、あの場所はほとんど何もないんです」
「空っぽ? あんなに広そうなのに?」
「そうなんですよー。勿体無いような気もしますけど」
建物の形を言うのなら、昴の世界では体育館に似ているだろうか。屋根が丸みを帯びているので半円に見えてしまうかもしれないが、実際にはそうではない――という情報は然程重要ではないのだが――。
「へぇ……物があると実験が出来ないとかなのかな」
「恐らくは……でも私も二回程しか入った記憶がないので今は変わっているかもしれないです」
「授業でも使わないのか……」
何の為にあるのか良く分からない場所である。そのような場所へ向かう目的はただ一つ。モルフォの話に出て来たもう一人の人形遣いとやらに会いに行くのだ。変わり者故に気をつけろ、とまで言われた。この世界の血の気の多さからして嫌な予感しか覚えられない昴ではあったが、それでも情報は情報と無理に言い聞かせて足を向けているのだ。
「どんな方なんでしょうね?」
つい溜め息を吐いてしまった昴に対して小首を傾げながら聞くレイセス。オレンジ色の陽光を受けて光る髪と、その可愛らしい仕草に、ふと意識を奪われそうになってしまう。いきなりどうしたのだ、と自分に驚きながら腕を組んだ。
「……グン・クリージュって言ったっけな。あの生徒会長に変わり者、だなんて呼ばれてるくらいだからまともでないのは確かだ、うん」
グン・クリージュ。それが名前らしい。詳しい事は聞かなかった――聞き流していたのかもしれない――が、クレイ家とはまた違った人形遣いの家系なのだとか。何が違うのかまでは秘密らしい。人形遣いというのは秘密事項が多いようだ。
「まあなるべくなら穏便に済ませたいんだけどなぁ……」
建物が近付いてきた。もう少しで実験棟に到着する。しかし、ここで疑問が一つ。
「棟がいっぱいある……」
正確な数はわからないが、窓越しに見ていても屋根が複数。つまりはそれに対応する棟があるという事である。非情な事にこの世界には電気が無い。雷という魔法体系としては存在があるし知られていない訳ではないのだが、それを動力源として生活の要に使用していないのだ。
「いっぱい、ありますね……」
「冗談だろこれ……さすがに当てろだなんて無理だぜ?」
無謀な挑戦を叩きつけられ頭を抱えてしまう。いったいどうしたら良いのだろうか。何か打開策は――
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