第3話

第3話「人形の誇り」01

*****



「は? 勉強? ……してるに決まってるだろ。俺みたいのが食いつくにはこうでもしないと無理なのよ」


 試験前、勉強はしないのかと騒ぎ立てる友人に向かって放った一言だ。していてもしていない、と言う人間も居るが昴は違った。他人を欺いて点数を取ったところで意味はなく、自分のやった事でしっかりとした目に見える結果を出す事に意味があると考えているからだ。だからこそ落ち着きを払い、最後の数分を有意義に使っている。


「ま、俺がお前に負ける訳ねえけどな」


 自信があった。努力した量だけは。他の誰よりも多いと。



*****



 出るなと強制されて大人しくしていられる程昴は真面目ではなかった。これはあくまでも気分転換だ、そう言い聞かせ――試験が上手くいかなかった事への逃避なのかもしれないが――誰にも気付かれないようにそろりと教室の外へ。異様に静かな廊下。人気はない。


「スバル……本当に行くんですか……?」


「あれ!? レイも付いて来ちゃったのか?」


 そんな身勝手な行動をしようとしている昴の後ろに付いて来たのはレイセスだ。本来であれば彼女のような身分も高い人間はこのような成績面に危険を伴う遊びに同行させてはならないのだが。


「これ一度出たら入れないんです……」


「マジで? ……おぉマジで硬いわ何これ。あっあれだろ防御魔術! この前教科書で読んだぞ」


 爆発から生徒を守る為に使われたのは高度な防御魔術だった。自分でも触ってわかるようになってしまった事に苦笑する。出る際には何ら硬い感覚が無かったのだが、廊下側から扉に手を伸ばすと鋼鉄のような感触。そしてこの防御魔術、現在昴が叩いて感心しているように、出る事が可能だが入る事が不可能なのだ。まさに鉄壁の守りと言ったところか。


「すげえな。魔法って便利」


「あの、それで、これからどうするんですか? 中には戻れませんし……きっと見付かったら怒られてしまいますよ?」


「あーその時はその時に考えるよ。どうせテストは一時中断だろ? だったら面白い事しなきゃもったいないぜ。それに閉じ込められるの好きじゃないし」


「うぅ……嫌な予感しかしないです……」


 昴は抜け出す事に慣れているようだが、勿論レイセスにはそんな経験はない。心配や不安ばかりが先行してしまっているのだろう。

 それを察した昴は言う。


「まあ大丈夫だって。何かあっても俺が守ってやるよ」


「スバル……!」


「……出来る範囲で、な」


 格好つけて言ってはみたものの、面白さは重視したいがなるべく危険な真似はしたくない、というのが昴の本音だ。だからこそ、自分の手に余るような状況であったら誰かしらに手を貸して貰わねばならない。余程の事がない限り。何も起こらないのがベストだが、爆発があって何も無い方がおかしいだろう。

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