第2話「異世界での生活」09
「三つの月にはそれぞれ意味があるとされているのは当然の知識だけど、どうしてそう呼ばれているのかは知っているかい?」
端から知っている前提で話をされても困るのだが、昴も三つの月があるのは分かってしまっている。そこで加護についても何らかの説明を受けていたはずなのだが、知らない単語が飛び交っていて理解するには遥かに及ばなかった。だから全力で首を横に振る。
「これは分野で言えば歴史の話になるんだけど……昔、この国では大きな戦争があったんだ」
「戦争、ですか」
「そう。大陸全土を焼き尽くすような大戦争だったらしい。色々省くけどその時に活躍したのが三英雄って言われてて……」
「三英雄。ほぉ」
「興味無さそうだねぇ……まっいいか」
言いながら本を開く。そこにはいくつもの円と、文字が書き込まれている。推測するに色と適正の表となっているものだろう。ユーリエルはまずその中から一つを指差す。
「エリュイ。真っ赤な髪が特徴的な喧嘩っ早い大男だったらしいね。良く絵にされるのも屈強そうな筋肉達磨だよ。ボクが苦手な人種だね」
「お師匠様それはちょっとどうかなと……補足すると、赤い月の加護……つまりエリュイは勇気と力の象徴って言われてるから戦闘学や魔法学の中でも特に攻撃的な方向性が多いの」
「そうそう。君が知っているのは……そうだね、“炎の魔女”と呼ばれてる彼女とかセルディ君かな。ものの見事に戦闘学専攻だよ。教師としてはちゃんと勉強もしてほしいなぁ」
言われて二人の顔を思い出す。確かに喧嘩腰な部分はその攻撃性の部分を色濃く映しているのだろう。それならばこの世界の人間はほとんどそうではないか、と勝手な思い込み。
(性格が強く出るのか……?)
もし仮にそうだとするのなら、もしかしたら自分も赤い月のエリュイとかいうものなのかもしれないと昴。少々思ったのはそんな物があるのならちょっと恰好良いな、と。
「続けるね? 次は青い月。アズール。彼は知略策略に長けた戦略家だったらしいね。青い鎧がお気に入りだったって聞くね。この人は絵にされるときは長身で髪が長い感じかな」
「って事は……なんかこう、頭が良い感じですかね?」
「そうだね! 例えばボクみたいに! でもボクの場合完全な青じゃなくて、青基準の黄混じりだから……」
昴の勘の良さに喜びつつも何やらボソボソと口の中で呟く。首を傾げながら昴は手元の本を覗く。
(なるほど……三つが大きくあってそっから色々組み合わせがあるのか……何がなるほどなのか分からないけど……)
ここで昴はある事に気が付いた。色の濃淡まで含めたらかなりの組み合わせになるのではないだろうかと。そうすると見分けるのに相当な時間が掛かりそうだが。
「でね、アズールは優しさと知性の象徴って言われてるから主に総合学とか商学の頭を使う学科に多い傾向があるの。そして最後がここにあるゲイル」
何故か落ち込んだまま動かないユーリエルにすかさずアンリからのフォロー。その細い指で示されたのは黄色い円。これはどういった性質なのか。
「魔法使いのゲイル。神の教えに従ってさっきの二人と一緒に戦乱を鎮めたって伝えられてる魔法の天才ね」
「なる、ほど……?」
魔法の天才、そう言われると昴の中で想像するのは大きな爆発を起こしたり雷を落としたり。とても派手なイメージだ。しかし彼女の口から放たれたのは別のものだった。むしろ正反対である。
「治癒魔法とか強化魔法が得意だったみたいなの。だからゲイルは生命と……」
「創造! ゲイルは魔法使いの他にも鍛冶職人としての一面も持っていたと言われているんだ!」
急に元気を取り戻したユーリエルがアンリの見せ場を奪って言った。どうしてここで元気になったのかは定かではない。
昴はここまでの説明でおおよそ加護による配属が理解出来た。つまりゲイルの加護がある者は――
「工学と……魔法学っすか?」
「その通り! 色の濃さと混ざり具合、本人の希望でそこは分かれていくね」
「おぉ当たった」
自分の口から自然と魔法という単語が出て来たのが不思議でならなかったが、きっとその内慣れるだろう。
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