第2話「異世界での生活」08

「別に毒が入ってる訳じゃないんだから……そう警戒しなくても良いのに」


 手元にある丸薬を眉間に皺を寄せてまで睨んでいたのがバレていたようだ。

毒じゃないのは雰囲気的には分かるが、得体の知れない物を口に入れる、体内に吸収させるという事が恐怖を感じさせる。だが、ここで恐れていては何も出来ない。意を決して、勢い任せに口の中に放り込む。


「……」


 無味。これが一番分かり易いだろう。ただ、口の中に入れると薬が溶け、若干粉っぽく感じるが味は無い。舌が痺れるような感覚も無ければ身体が痛くなったりという変化も無かった。これで良いのだろうか。昴は口の中に残っている少しの粉っぽさを唾で飲み込むと首を傾げる。


「これで何が……?」


「何だと思う?」


「んー……」


 目の前に座るユーリエルが今度は眼鏡を掛け替え、昴を直視。これには一体どういう意味があると言うのだろうか。分からない時はネタに走るのも悪くは無いだろう。


「……服が透けるんですかね?」


「そんなのがあったら是非とも欲しいよ。お金を出してでも買うね。死に物狂いでもね」


「お師匠様……」


「じょ、冗談に決まってるじゃないか! 何て事を言わせるんだい!?」


 隣に居るアンリがユーリエルから数歩下がったように見える。まさかこういう事になるとは予想もしていなかった昴だったが、特に罪悪感などは感じない。他人のあたふたする姿は見ていて面白いからだ。自分でもあまり良い性格だとは思えないが。


「コホン……これは適正検査だって言っただろう?」


「言いましたね」


「さっきの試験薬を飲んで、この眼鏡を通すとその人への加護が見る事が出来るんだ」


「加護……そういやレイもそんな事言ってた気がする……」


 確か月の加護、とかいうものだ。正直なところ八割以上頭に入ってこなかったので覚えてすらいないのだが、人それぞれだと言っていた、かもしれない。相当曖昧だった。


「個人の精神にはそれぞれ色が宿っていると言われています。それを、加護を可視化するのが、この適正検査なんですよ」


「はぁ……加護っていうのは色で分かる、と?」


「簡単に言うと、そういう事ね」


「ふぅん……」


 良く理解していないようだ。それもそうだろう。知っている事が当然であるように話されても、当人が知らなければそれは暖簾に腕押しのような状態なのだから。


(何だろう……オーラ的な? そういう感じ?)


 一応解釈しようとはしているのだが、如何せん知識がない。それにやはり実感が湧かない。


「そして、見えた色とこれを照らし合わせて方向性を決めていくんだ。本来であれば入学が決まった時点でこれをやってから所属を決めるんだけど……あの人が全部すっ飛ばしたから順番おかしくなっててね」


 ユーリエルは本を叩きながら愚痴を零す。あの人とはやはりこの学院の一番偉い人間の事だろうと容易に想像がつく。そう言えば試験やらも免除してやる、と言っていたが、そのツケがこれなのか。


「まあ見えるようになるまで少し時間が掛かるから、せっかくだから色々と説明してあげるよ。結構田舎から来たんでしょ?」


「田舎……? あぁそういう……」


  きっとそういった設定でここに編入されているのだろう。昴の本当の出身地である海門市はそれなりに都会だとは思っているが、異世界については口外するなと言われている。ここは口を合わせておくのが良いだろう。


「是非ともお願いしますよ先生」


「うんうん。その勉強熱心なところはとても良い。長くなりそうだからアンリ君も座りなよ」


「あ、はい。良いんですか?」


「もちろんさ。ボクだけじゃ細かい部分を漏らす可能性があるからね……それじゃあまずは、月の加護の話からしていこうか」

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