第1話「パラレルワールド!?」35
――その夜の事。昴は広い一室に招かれていた。
さすがにこの程度ならばこれから食事なのだと判断出来る要素が見当たる。
何故かやたらと長いテーブルに、一定の間隔で飾られた花瓶や照明、ましてやフォークとナイフと思しき食器が置かれているのだ。
そして昴は何故かその中央で、更にレイセスの隣、明らかに上座であろう場所に座る事を強要され、居心地が悪そうではあるが大人しくしていた。
「こういう、レベルの高そうな場所とは今まで縁が無くて非常に落ち着かん……」
「そうですか? 私は広くて落ち着きますよ」
その横では慣れた様子で――これは当たり前なのだが――レイセスが微笑みながらこれから出されるのであろう食事を待っている。
さすがと言うか、改めて現実離れした空間だと感じた昴。そして向かい側にはヴァルゼが一人。
どうやらここに座れること自体が恐れ多いものらしく、昴がサシャを誘ってみると全力で拒否――もしかしたらまだ嫌われてるんじゃないかと疑っている――されてしまった。なのでこの空間には昴を含めた三人、使用人らしき男女が六人と部屋が余計に広く感じられる程だ。話し声も良く通る。
「牢の中と比べるのはアレだけどやっぱり豪華なんだろうなぁ」
すっかり牢屋の飯を食べることに抵抗を持たなくなってしまったらしい自分に妙な感覚を抱きつつも、やはり腹が減っては何とやら。これからどんな物が目の前に出されるのか楽しみになってきたようだ。
「それはそうだ。だが、この城の牢屋の飯は他のどこの物よりもまともだと聞く。現にあれはあれで別に調理しているのだからな」
目の前では、鎧を外し、黒を基調に金で刺繍が施された服装に着替えたヴァルゼが腕を組みながら一人頷いている。さすがはこの城の事を熟知している人間だ。そんな事情も知っているとは。
「ちなみになんだけど……他所はどんな感じなんだ……?」
「姫様の御前故に言葉を選ぶが……簡単に言うと余り物やらだな。食えるだけまともだと言う所もある」
「そんな辛い場所が……」
「恵まれた牢獄だったってか……だとしても二度と入りたくねえな」
自分から聞いてみたは良いが、思った以上に深刻な問題だったらしく場の空気は見事に暗くなってしまった。興味本位も怖いものである。
「違う世界のことなんてまったくわからんけど……これでまた、自分の足が着いてる場所が今までとは違うって実感出来たよ。目新しいのが良いのか悪いのか……だけどせっかく“ここ”に居るんだ。知らなきゃな、色々と」
「スバル……」
「その事なんだが、スバル。質問と、提案がある」
その落ち込んだ雰囲気を裂くように、ヴァルゼの一際真剣な声色が響く。ちょうどその頃に良い匂いも届けられ、昴はどっちに集中するべきか判断を迷ったが、食欲を抑えて耳を傾けた。
「異世界という物は、本当に存在するのか?」
一層強い眼差し。疑っている訳ではないのだろう。そこには微量な警戒心と好奇心が混ざっているように感じられた。
「信じがたいんだろうけど……いや俺も正直まだ完全には信じられないしこれは全部夢でいつか覚めるんじゃないかって思ってるけど……在るよ。証拠は俺だ」
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