第1話「パラレルワールド!?」14

 渡された制服に袖を通すと、どうやら生地が高いのかとても気持ちが良い。着ていても一切の不快感が無い、とでも言えば良いのだろうか。


「サイズもぴったりだし、いつの間に測ったのかは知らないけどな……そういうなんか、あんだろきっと……」


 寝ている間にされた、とかであればこの城の警備体制に問題があるのではないかと疑いの念が現れる。似たような状況で投獄されていた身としては余り良い気分ではない。


「んーネクタイな……緩めで良いか」


 知り合いの誰さんかみたいに制服をきっちりと着ようとは全く思わないので、青っぽいネクタイは適当に。シャツもボタンは全部締めない。

成績的には良い方、ではあるのだが素行やら何やらを見ていくとクエスチョンマークが浮かんでしまうような生徒なのが昴である。


「だらしないとか言われてもこれが俺のスタイルだからな……てきとーてきとー。まっ言われたら直すか……」


 着替え終わり、扉を出るとそこにはリリスが立って待っていてくれた。さすがに道に迷ってレイセスまで遅刻するとなれば大変だからだろう。

 扉を後ろ手に閉め、待っていてもらったことに対しての礼を口にする昴。


「わざわざ悪いね。何から何まで世話になっちまってさ……」


「こ、こちらこそ夜分に色々測らせていただいて……っ!」


「……」


「さ、さあ! スバル様、早く行かないと遅刻してしま――」


 不穏な言葉は聞き流そうとしている昴の腕を乱暴を引っ張って歩き出そうとした途端だった。リリスの体が不自然に傾いたように見えた。勿論腕を掴まれていた昴も巻き添えになる形で。


「くっ……! そんなあり得ないイベント的な事が起こる訳が……ない!」


 頭の中に思い浮かんだのは女の子が下に倒れ、手を付く位置がマズくなるというアレだ。男子としては嬉しかったりするはずだが、あくまでもここは城内だ。

何が起こって牢屋に戻されるかわからない。だったら相手を地面に落とさないようにすれば良いではないか、とそこに思考が辿り着く。

浮遊感のある体を、持ち前の運動神経を生かしてぐるりと捻る。


「ってぇ……!」


 見た目に反して動き易い服装らしく、制服の割には機敏に動けた。問題はその後。早く動いたせいでリリスが倒れ込むよりも先に地面へと激突してしまったのだ。確かに行動としては正解だったのかもしれないが、昴は一つ失念していた。リリスはどうにも鈍くさいということを。


「きゃ――!」


「……っ!」


 どうやら手遅れだったみたいだ。判断も行動も、正しかった。しかしどうやってもイベントは起こってしまうらしい。気付けば倒れた昴の上にリリスが乗るような形に。リリス顔の位置は昴の胸の辺り。かわいい女の子にこんな状態で上目遣いで見上げられて、もちろん赤面しない訳が無い。


(それに……何か柔らかい物が……!?)


 正直、マズい。人に発見されるのは勿論宜しくないのだが、この状態でお互い何のアクションもなく見つめ合っているのが何よりも危険。

腹部に感じる妙な温かさ。否、熱い、のかもしれない。


「ちょ、とりあえず退いてくれないか……?」


 その一言を捻り出すのが精一杯だった。名残惜しいと少し――ほんの少しだけ思ったが、ここはしっかり退いてもらわなくては。


「ぁぁ申し訳ありません! 今すぐ退きますので!」


 言ってもぞもぞと動くとまた腹部の辺りに柔らかい衝撃が何度と与えられてしまう。 ……今はこの感触を楽しむのも良いかも、と率直に思ってしまう高校生男子だった。


「怪我とか、してない?」


 若干目を逸らしながらではあるが最低限聞いておくべき質問を投げる。対するリリスも俯いたまま首を縦に振るのみだ。


「うん、なら良かった。そして何も無かった。俺は何も知らない」

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