第1話「パラレルワールド!?」03
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昴の両親は健在である。ただ、仕事が仕事なだけに、家に帰って来られるのは正月と盆のみ。そもそも今現在国内に居る事すら怪しいのだ。
(……言葉が通じねえってのは痛手だよなあ。まあとりあえず、飯はあの人が何とかしてくれるだろ)
少女と言葉が通じないため、身振り手振りで説明をしなければならない。昴なりにはかなり頑張っているつもりである。それを少女が理解しているかどうかは定かではないが。そうこうしている内にオフホワイトの家が見えてきた。その家と自分を交互に指差して自分の家である事をアピールしてみるが、伝わっているのだろうか。そう思いながらいつも通りに――否、若干の緊張感を伴って扉を開く。
「た、ただいまー」
少女を手招きして家に入れる。日本の家が見慣れていないのか、不安そうに家の中を見ていた。見ず知らずの人間の家に入るなど恐怖でしかないのは当然である。
昴が帰宅の一声を掛けて暫くすると、玄関近くの一室からパタパタと軽い足音が耳に届く。
「お帰り、今日は遅かったね。何かあった――」
「あ、あー何と言うか結果的に人助けになってしまった訳で……サツ……警察とか行くのも個人的には好ましくないと言いますかね?」
部屋から出て来た淡いピンク色のエプロン姿をした女性。来栖 のどか(クルスノドカ)。昴の親戚で、栄養士学校に通っている。学校が近いとの理由もあり、両親不在の昴の面倒を任されていた。
「スバル君は……そういう子が、好みなのかな?どっから攫ってきたの?」
「好みとか攫ったとかそういうんじゃなくて!いや、確かに綺麗だなとか思ったけど……でもさ、言葉も通じない子、放っとけるかよ?」
のどかを怒らせてはならないというのが先に出てしまい、つい本音を口走ってしまった。ここ一週間は飯抜きで過ごさなければ、と昴が思っていると、のどかの口から予想外の返答が。
「スバル君に人助けをするなって言うのは無理なことだしね……仕方ないから今回は許してあげましょ」
「ホントか!?そいつは助かるよのどかさん!」
「とにかく、この子の面倒は任せて、スバル君はご飯食べててね。明日早くに警察に行って親御さん探してもらわないと……今すぐにでも連絡しておくべきなんだと思うけど……うーん……まっ一日くらいホームステイさせても罰は当たらないよね!」
昴とのどかの会話を不思議そうに聞いていた少女。昴は少女に向き直り、笑顔で親指を立ててみせた。
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一人、食事を終えた昴はリビングにてソファに寝っ転がっている。のどかが少女を連れて風呂に行ってしまったため、風呂が空くのを待っているのだ。
聞きたくて聞いているのではないが、シャワーの音が余計に響いている。そんな気がした。
「ドア閉めたのか?あの人……」
こうも耳に入ってしまうと、いらぬ想像をしかねない。昴も男子なのだから。
何故テレビを点けないのかと聞かれれば昴はこう答えるだろう。
電気代がもったいない、と。昴はのどかが居なければ実質上、一人暮らし。三ヶ月に一回の仕送りだけではまともな生活が出来たモノではない。食事こそどうにかなっているが、家計は常に赤字。故に昴自身もアルバイトを幾つか掛け持ちしているのだ。今日は偶々休みなだけで、明日からはきついアルバイトと辛い授業が待っている。
「感想文も書かなきゃダメなんだよな……さっさと終わらせて……寝れるといいけど……」
恐らく、今夜は自分の部屋では寝られないだろう。そうしないと少女が寝られる部屋が無いのだ。一日くらいならソファでも大丈夫だと思う昴。
「なんにせよ、感想文を終わらせる。話はそれからだ」
鞄から筆記用具、原稿用紙、借りてきた本を取り出す。適当にページを捲り、ネタになりそうな部分で止め、とりあえず目を通し、自分の思ったことを文章へと組み立てていく。
自分でも驚くぐらいに手が進んでいる。気が付けば原稿用紙一枚を残すところあと少しとなっていた。
「おお、意外とやれるもんだな。この調子だと終われるんじゃないか?さすが俺ってな」
ペンを一旦置き、伸びをする。時計の指し示す時刻は午後八時。遅くても十時前には終われるだろうと踏み、再び書き始めようとしていると、奥の方から笑い声が聞こえてくる。
「スバル君!私名前覚えてもらっちゃったよ!」
何やらハイテンションなのどか。いつの間に風呂から上がったのだろうか。年頃の男子が居るというのも気にせずなかなかの薄着である。
しかし昴ものどかの格好には慣れているようで冷静に答えた。
「そういえば、まだ名乗ってなかったよな……あー俺は諸星 昴。名前の方が呼びやすいと思うよ」
自分を指差し、伝わるかどうか名乗ってみる。
少女は、小首を傾げて考える素振りをしてから口を開いた。
「ス、バ……ル?」
おぼつかない発音ながらも、しっかりと昴の名前を口にした少女。これには昴も嬉しそうだ。
「お、伝わった……そう。昴だよ」
「え?何でスバル君の時は一発で覚えちゃうの?私の時はかなり練習したのに」
「発音のしやすさじゃないっすか?もしくはその土地に似たような発音が無いとか」
思い付きでそれらしい理由を作る。のどかも多分納得してくれるはず。
「ノドカ……スバル――」
最後の方は何を言っているのか分からないが、きっとお礼をしているのだろう、とそんな気がした。その直後だ。
「え?」
少女の体は揺れ、そのまま床へと一直線。
「ちょっと、大丈夫!?」
「えっなに、どうした!」
何の前触れもなく少女が倒れたため、慌てて近寄る二人。しかし、それもすぐに安堵の溜め息へと変わった。
「な、何だ寝ただけかよ……」
「……仕方ないわね。スバル君、ベッドに運んであげてくれる?」
「一応確認の為に聞くけど、俺の?」
「当然よ。他には私の分しか布団ないし……あ、変な事しちゃダメだからね?」
「しないよ……」
お姫様だっこの形で持ち上げた少女の体は、見た目通り軽かった。
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