「描写練習」1
食卓の椅子でわざわざ正座をする我が家はちょっと変なのかも知れないが、ならぬものはならぬとばかり、そういうもんだと理解している。先祖代々そうなんだ、と言われたらぐうの音も出ないものである。合掌。
「いただきます!」
声は大きくはっきりと。これもまた、そうなんだと決めつけられた我が家の家訓。いいか、『家訓』と書いて『かくん』じゃなくて『かきん』なのだ。会津においてはそうなのだ。何故かなど知らない、そういうものだからそうなのだ。
箸は右手で持たねばならない。合掌より先であってもならない。なぜかって? そういうものだからだ。まず両手はフリーでなければならない。両手の節と節をしっかり合わせて、親指は右が上だ。あらゆる物事に感謝をこめて、腹の底から力を込めてのいただきますだ。その後、おもむろに箸を取る。
そして左手で、スタンバっている母の手から大盛りによそわれた茶碗を受けとるのだ。このタイミングを一秒でも狂わせてはならない。なぜなら、アツアツのご飯をよそった茶碗の薄い側面も当然の帰結でアツアツになるからだ。受け渡しの必然で側面を持たざるをえない母がキレる前に、これを受け取らねばならないから、一連の動作はスムーズかつ流れるような美しさを求められるのだ。
受け取った茶碗は水平かつ、位置取りは胸のやや上方をキープすべし。上過ぎては食いずらく、下に行っては首が90度を向くことになるから気をつけろ。背筋はのばし、足が痺れようとも崩してはならない。上半身を若干前かがみにすれば食いやすいのだが、それは我が家の禁じ手だ。ここは逆張りを行う。そう、反らすのだ。ふんぞり返るように背骨を伸ばせば、腕も自然に上へと上がる。美しく見える。その勢いにまかせて掻きこむべし!
「行儀が悪い!」
痛い! 箸で手の甲を殴られる事も我が家での日常だ。茶碗に口を付けてはならない。箸でつまんで口元へ運ぶべし。……濡らしていいのは箸先三センチ。我が家の厳然たるルールだ。
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