夢ネタ参加

『ユール、君の作業手順は少しばかり、手荒いと思われます。危険を考慮し、慎重にも慎重を重ねるつもりで行動する事が、君には求められています。』

 インカムから流れてくる人工音声が注意らしき言葉を綴った。

 デブリに爆薬を取り付け、遠隔で起爆させれば進路が変化する。そうやってステーションやコロニーに接近する宇宙ゴミに対処するのが、子供たちに課せられた仕事だった。

 デブリは進路を邪魔する障害であったり、突入してくる危険物であったり、時には修理のための材料になったりもする。ステーションとコロニーまでの区域には無数のデブリが数えきれないほどで、毎日がこのゴミたちとの格闘だ。

 宇宙空間でぽつねんと漂い、指示に従っての作業をこなすだけなら、子供にも十分にこなせる。サーフボードのような形をした移動用ユニットが、何処からとなく近付いてきて、作業を終えた当番の子を回収する為にぴたりと横へ着いた。これに掴まるだけで、勝手にステーションまで運んでくれる。

 ユールと呼ばれた少年は、不服げな顔をした。移動ユニットには掴まろうとしなかった。彼は、仲間たちのうちでは一番の年長者だ。


「ねぇ、カシス。」

 ユールが問いかけた相手はマシンだ。ずっと彼らが成長する間中、共に成長してきたと自称するコンピュータ。

「そろそろ教えてくれてもいいだろ? 自立発育型だなんて言って、本当は嘘だろ? 僕らに本当の事を隠す為に、何も知らないフリなんかして……。ねぇ、どうして地球は滅んでしまったの? どうして僕らの傍には他に誰も居ないの? 他の人は何処へ行ってしまったの? 僕らは、何処から来たの?」

 矢継ぎ早の質問に、コンピュータ・カシスはただ沈黙していた。

「答えて、カシス! 僕には他に、真実を知る方法はないんだ。君の中にしか、情報は残されてない。」

 宇宙に漂うデブリは時折、彼らの住処を脅かす。人類が打ち上げたおびただしい数の衛星は、ほとんどが回収もされぬまま、ゴミと化して漂う。大きな衛星が近付くたびに、撤去する作業をこなさねばならない。

『ユールは本日、10時52分を持って18歳になります。』

「そうだよ! けど、そんな事を聞いてるんじゃない! 答えて、カシス!」

『現在時刻は地球時間、10時50分23秒。』

「僕が18になったら、そしたら教えてくれるっていうの? そう言いたいんだね?」

 カシスの明確な返答は無かった。けれど、ユールは勝手にそう思いこんだ。

『現在時刻は、10時52分00秒。おめでとう、ユール。君はこの瞬間に、成人したんだよ。』

「ああ、そうだね。ありがとう。で? 答えを教えてくれるんだろう?」


 その日以降、ステーションではユールの姿が見えなくなった。

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