こんな夢をみたんだ
いろ
本編
朝起きると、僕の口からでる言葉は全て英語になっていた。
その日は寝坊をしてしまったから、慌てて時計を見て言った。
「もうこんな時間かよ!」
朝ご飯を準備している途中だった母さんに向けて言った。
「朝ご飯いらないから! いってきます!」
登校中に会った近所のおじさんにした挨拶。
「おはようございます」
みんなみんな、英語で言っていたことに気付く余裕がなかった。
多少習ったとはいえ、自分の知らないはずの英文をすらすらと使いこなし、流暢な発音で英語を喋っていたことに違和感を感じる暇もないほどに僕はいそいでいた。
時計の針は八時二十七分をさしていた。八時半からショートホームが始まるから、本当にぎりぎりの登校だった。
「おはよ、今日はめずらしく遅刻すれすれだったなー」
おはよう、久しぶりに寝坊しちゃったんだ。そう返事を返そうとしたところで、僕はようやく異変に気が付いた。
自分が英語を話していることに気づき、僕は困惑する。どうして日本語を話したつもりなのに、英語を話しているのか。焦って口からこぼれた「なんだこれ」も「どういうことだ」も、すべて英語で口からこぼれる。
なんというか、わかりやすい非日常的展開であればもっと慌てふためいてマンガの主人公みたいな反応ができたところだったけれど、意味のわからない中途半端な異変のせいで、僕はただただ困惑することしかできなかった。
なんか変なもの食べたっけ、と自分の行動を振り返ってみたけれど、僕は寝坊してしまったから朝ごはんは食べなかったし、水も飲まずに着替えだけして走って学校に来たのだ。きっかけとして思い至る節が一つもない。
あまりに突拍子もない出来事に黙って考え込んでいると、そんな僕の目の前できょとんとした表情をした友達と目があった。
僕は仕方なく、バックのなかからタブレット機をだしてそこに字を打ち、友達に事の異常性をうったえた。
『日本語が喋れない』
「はぁ?」
友達は「何を言っているんだこいつ」とでも言いたげな表情だ。
『気がついたら口からでる言葉が全部英語に』
そうやって文字を打ち込んでいる途中の僕に、友達は呆れた声で言った。
「日本語と英語の発声切り替えの調子が悪いんじゃないの」
は?
「お前、ロボットのくせに寝相悪いんだろ? スリープモード中にまた壁とかに頭ぶつけたんだろ」
『ロボット?』
「おいおい、発声機能だけじゃなくて記録装置もいかれちまったのか?」
友達の〝人型第三世代少年モデルJ-154〟端末名リョウは、不思議そうに首をかしげて言った。
「俺たちはロボットだろ?」
そうだ、僕はロボットだった。
だったら、発声言語のモードを切り替えればいいだけの話じゃないか。
「そうか、僕はロボットだった」
そう呟いた言葉は、たしかにその耳、口に慣れ親しんだ日本語だった。
「っていう夢を見たんだ」
「なんだよそれ」
「ロボットが見る夢に相応しい、意味不明な夢だろ?」
こんな夢をみたんだ いろ @iro16
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