Stand by

猫宮噂

傍観者のレゾンデートル

世界とおれとの間には、きっと二次元とのそれよりも厚くて越えがたい壁がある。何故か? 野暮なことは問いなさるな。おれがそう在りたいと望んだからに決まっているだろう。


ではおれの話をしよう。ん? なんだって? 今までも十分語っていると。いやいや待ち給え。こんなのは序の口も序の口、スタートラインに立ってもいないどころか会場入り前、アニメで言うならばプロローグ前のCMみたいなものだ。もしこのままアニメを楽しみたいならそう、チャンネルはそのまま。

では改めておれの話をしよう。とはいえそう固くなる必要はない。おれはただの一般人だからな。重たい過去もなければ、哀れな命運を背負う訳でも無く、崇高な使命がある訳でもトラブルに巻き込まれやすいわけでもない。其処に居るだけ、人畜無害。ちょっと言葉を使うのが好きなだけで、謂わばモブキャラの権現と言ったところだ。外見はまあ好きに想像するといい。特に見目麗しいわけでもなければ、殊更見れぬほどの不細工と言う訳でも無い。貴殿らの無い脳みそを振り絞って想像した「何処にでもいそうな誰か」。それがきっとおれの姿だ。

では、そんなおれが何故、こうして意味のない独り語りをつらつらと述べているのか──おやおや、そんな顔はしないでおくれ。

さておこう。彼の高名な劇作家、ウィリアム・シェイクスピアはこう言ったという。曰く、「All the world's a stage, And all the men and women merely players.《この世は舞台、人は皆役者》」。素晴らしい言葉だ。彼の語る言葉は詩的でありながら鋭く、端的でありながら美しく、当時の世界の在り様を謳っているから好きだ──と、それは置いておこう。どうにも好きなモノの事になると語りすぎるのはよろしくないな。さて、この世は舞台だ。悲劇か、喜劇か、愛憎劇か、それはその時その時代、主人公如何によって変わるだろう。謂わば群像劇とでもいおうか。さて。では、舞台とは

──そう、舞台には観客が必要だ。軽食を貪り、優雅に飲み物を堪能しつつ、その世界にのめり込みながらも決して手出ししない、手出しができない傍観者。そういう存在が舞台を眺めて、初めて其処で舞台が完成する。

さ、察しのいい諸君は気付いたろう?つまりそういうことだ。


詰まる所、おれ──洲岸満スギシミツルはそういう役割を担うだけのただの傍観者である。

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