映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の感想

※本近況ノートには映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』のネタバレが記載されておりますので、閲覧にはご注意ください。


【ネタバレまでのカウントダウン】


10












「ドラクエの映画、VRオチらしい」


……友人からその話を聞いた時、私は耳を疑いました。


国民的RPG『ドラゴンクエスト』の映画化。

しかも、原作はあの『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』。


それだけに、その出来栄えに期待と不安を抱いている人は少なくなかったと思いますが……何を隠そう、私もその一人でした……、VRオチとは聞き捨てなりません。


VRオチとは、映画で描かれる世界は現実のものではなく、バーチャルリアリティー……仮想現実の世界での出来事だったというオチのことです。


それのどこが問題なの?

そもそも、映画だって作り物でしょ?

それに、ゲームが原作ならピッタリじゃないの?


……ゲームに慣れ親しんでいない方は、このように思われるかもしれませんが、ゲームが好きな人、ドラゴンクエストを実際にプレイし、楽しんだことがある人にとっては、とても納得できるようなオチではなかったと思います。(理由は後述)


VRオチの話を聞いた私は、まさかそんな……とは思いましたが、そう言えば、インタビュー記事において、監督自ら大きなオチがあることを明かしていましたし、Twitterで見かけた感想も考慮すると、あり得ない話ではないと判断するに至り、「やっちまったな……!」と、ただただ、驚き、呆れるばかりでした。


……ただ、冷静になって考えてみると、一口にVRオチといっても、そのアプローチの仕方、表現の仕方は色々あるはずです。


なので、その真相は自分の目で確かめるしかないと、今朝、観に行ってきました!


その結果……ただのVRオチではなく、ゲームとゲームを愛する人を全否定するかのような内容で、呆然としながらスタッフロールを眺めていた次第です。


それで……一体、何から書けばいいのか、本当に難しいのですが、とにかく、頑張って前に進みたいと思います!


まず、誤解のないように言っておきたいことは、本作は面白い作品でした。

これまでも、また、これからも色々なことを書いていきますが、本作は面白いと言って良い出来栄えの作品だったということは、認めざるを得ません。


グラフィック、音楽、シナリオ、声優、どれをとっても、エンターテインメントとしては十分に評価できる、面白い作品だったと心から思います。


ただ、もう一度観たいとは思いませんし、誰かにお勧めしたいとも思いませんし、この先の人生において、あれは面白い作品だったと懐かしむこともない、上映時間の間だけは楽しめるといった類の、面白さだったように思います。


……以上で感想を終わらせてもいいのですが、ゲーム好きとしてはこのまま黙って終わらせることのできない作品でもあり、少なくとも、本当にゲームが好きな人だったら、まず作ることのできない作品だったということは、断言できます!


なぜなら、ゲームが本当に好きならば、原作に忠実であるにしろ、そうでないにしろ、原作に対するリスペクトが感じられるようなシーン、台詞を用意するはずですし、何より、本作の世界がVRゲームだったというような、ゲームを否定するようなオチには決していなかったと思うからです。


……ここで、実際に映画を観た方は「別にゲームを否定していないのでは?」「むしろ、肯定していなかった?」と思われるかもしれません。


では、本作の終盤を簡単に振り返ってみましょう。


主人公リュカの息子、勇者アルスが天空の剣を投げつけたことで、大魔王ミルドラースの復活が阻止された……と思いきや、世界はリュカを除いて停止。


そこに現れたのは、VRゲームに送り込まれたコンピューターウィルス。


ウィルスはリュカに世界の真実を明かすと共に、自分をVRゲームに送り込んだ送り主の動機とメッセージをリュカに伝える。


動機は「ゲームで遊んでいる人が嫌いで嫌いで仕方がないから」


メッセージは「大人になれ」


リュカはウィルスの力により、現実世界へひき戻されそうになる。


だが、リュカは消されようとしている世界を強く肯定する。


作られた世界かもしれないが、自分にはもう一つの世界なのだと。


リュカはアンチウィルスのスラリンの力を借り、ウィルスを倒す。


世界は元通りになり、リュカは妻のビアンカ、アルス共に凱旋する。


リュカは現実に戻ることが近づくが、決してこの世界を忘れないと誓う。


「僕は忘れない。勇者だったことを」


……確かに、一見するとゲームを肯定しているように見えます。


ただ、問題なのは、ここで描かれている「リュカ」=「プレイヤー」の心情が、実際にゲームを好きな人の心情とは、大きくかけ離れていることにあります。


私はオンラインゲームFF14が現実の縮図であるとか、もう一つの世界であると言うことはありますし、大切なことの多くはゲームで学んだという自負もありますが、それでも、本当の意味でゲームの世界が実在すると思っているわけはありません。


そのため、ゲームをプレイしているからといって、自分がかつて勇者だったと本気で思ったり、それがリアルを生き抜くための糧になるということもありません。


だからといって、意味がないと感じてるわけではなく、むしろ逆で、ゲームを通じて得た経験は自身の一部、不可分なものとなっているので、そうしたことは、殊更、声を上げるようなことでもなく、ごく自然に受け入れることができています。


なので、本作の終盤でリュカが主張していることは、ゲームが好きな人ほど違和感があると言いますか、わざとらしく見えたのではないかと思います。


では、終盤で描かれのは何だったのかといえば、ゲームが好きではない人が、ゲームが好きな人はこう思っているに違いないという推測であり、ゲームが好きな人が見ても共感できない一方で、ゲームが好きではない人にとっては、ゲームが好きな人はこう思っているのかと、納得できるものだったのではないかと思います。


こうした観点で終盤を見直してみると、違った解釈が可能となります。


「大人になれ」というメッセージは、ゲームのことを好きではない大人……つまり監督自身の言葉であり、それに応じるリュカの言葉、価値観は、監督が抱いているゲームが好きな人のイメージそのものだろうと思います。


もし私が「大人になれ」と言われても「は?」としか思いませんが、リュカは律儀に反論し、その思いは勝利へと繋がります。


ただ、この勝利で倒されているのはウィルスであり、監督ではありません。


世界が継続したのは、監督がこの世界の継続を認めたからで、それはすなわち、次のようなメッセージであると考えられます。


「大人にならなくてもいいよ」


「そのままでいいよ」


……ゲームは子供が遊ぶものだという考えは、随分と古めかしいものだと思いますが、実際、こう考えている大人もまだまだ多いのだろうと思います。


さらに問題なのは、本作に登場するVRゲームのシステムです。


本作のVRゲームでは、プレイヤーは現実のことを忘れて登場人物になりきり、恐らく、クリアした時に初めて、それがゲームだったと気付くことになります。


これは、通常のゲーム体験とは全く異なるものです。


ゲームのキャラクターはプレイヤーの分身であっても、同一の存在ではありませんし、クリアした時に遊んでいたと気付くのでは、夢を見ているのと同じです。


つまり、本作のVRゲームは夢オチと言っても過言ではなく、ゲームで遊ぶことは夢を見ているのと同じことでしかない……そう受け取ることもできます。


ゲームが好きな人は、ゲームの世界から直に面白さや感動を得ています。


その世界は作られたものですが、それは映画、小説、漫画……どれも同じです。


それなのに、いまだにゲームを面白いと思う人がいること、ゲームで感動する人がいることを理解できず、これほど大掛かりな作品を作った上でも、まだ理解できていないということに、双方の溝の深さというものを感じずにはいられません。


本作は面白い作品であるとは、すでに述べました。


ただ、その面白かった要素を振り返ると、全て原作の『ドゴンクエストV』で描かれていた面白さでもあります。


目新しい要素は、その世界がVRゲームだったという部分ですが、それは原作が『ドラゴクエストV』である必要性が全くないものです。


なぜこのような作品になったかと言えば、この方が興行収入が得られるという判断だろうと思いますし、ゲームにそれほど興味のない人にとっては、原作に忠実であるよりも、こちらの方が楽しめるという算段があったのだろうと思います。


本作は面白い作品ですが、ただそれだけで、何年も、何十年も愛される『ドラゴンクエスト』にはなり得なかった……というのが、率直な感想です。


本作のドラクエ部分が良い出来だっただけに、残念でなりません。


……最後に、もう一つだけ。


本作で最も心を揺さぶられたのは、冒頭に登場した『ドラゴンクエストV』のゲーム画面でした。


そこから始まる物語は、尺もあって性急で、突っ込みどころもありましたが、最後まで『ドラゴンクエスト』として完結していたなら……言葉にせずとも、勇者だった頃を懐かしく思い出すことができたようにも思います。

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