間一髪セーフ

 ある男がとある地下街の中を早足で歩いていた。


(うう、ヤバイ。漏れそう)


 そう。男は腹を押さえて我慢しながらトイレを探していた。


(たしかこの辺りに……あ、あった!)

 距離にしてあと数メートルといった所に、男子トイレの看板が見える。

 男は心の中で叫び、安堵した。


 だが


「あの、ちょっといいですか?」

 見た感じは二十代前半位、ビジネススーツ姿で手にクリップボードを持った女性が男に声をかけた。


「すみません、ちょっと急いでますので」

(今キャッチセールスの相手してる場合じゃねえんだよ!)


 おとこはにげだした!


 しかしまわりこまれてしまった!


「あの、お時間取らせませんので」

「いえ、だから急いでますので」


 おとこはにげだした!


 しかしまわりこまれてしまった!


「あの、ほんとお願いします!」

 彼女は必死になっている。

 もしかしたらノルマが達成できないとかで困っているのかもしれない。

 しかし男はそんな事構っていられない。


「いえ、こっちもホント急いでますので」

 

 おとこはきょうこうとっぱをこころみた!


 だがおんなはおとこのうでをつかんできた!

「ほんとお願いします!」


 プチッ!


「じゃかあしいわゴルァー! こちとら漏れそうなんじゃー!」

 

 おとこはおたけびをあげた!


 おんなはおどろき、すくみあがっている!


「うおおおー!」


 おとこはすかさずトイレにかけこんだ!



 ジャアアーー!



「ふ、ふう……間一髪セーフだった」

 そう言った男の顔は清々しかった。

 

 そして男は家路についた。





※ 作者の実話。

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