特効薬とタイムスリップ
とある医学者が難病の特効薬を開発した。
その難病は数万人に一人の割合でかかるもので、発病後五年以上の生存率がゼロというものだった。
自分もその難病と診断されて……そう思っていた矢先にこの特効薬が発表された。
早速それを飲むとあっという間に元気になった。
あれから五年が過ぎたが、自分は元気に生きていられる。
おかげでかねてからの研究も完成させる事ができた。
本当にあの医学者のおかげだ。
難病にかかっていた誰もがそう思っているだろう。
自分は彼に何かお礼がしたくなった。
そう言えば雑誌か何かで読んだが、彼はかの難病で幼い妹さんを亡くしたそうで、その事が元で医学者を目指したそうだ。
もう二度と誰も悲しまないように、と特効薬の研究に励み、ついに完成させた。
「これだ! 過去へ行って特効薬を妹さんに飲ませれば!」
自分の研究とはいつでも容易にタイムスリップができるようになる、というものだった。
自分は早速特効薬を手に入れて過去へ飛んだ。
うまい具合に病室にいた妹さんの前に辿りつけた。
あ、向こうは突然自分が現れたから驚いてるな。
タイムスリップして来たと言って信じてくれるかな?
そう思ってると
「あれ、おじちゃんってもしかして神様? わたしを迎えに来たの?」
あ、そう思うのか?
よし、じゃあそれで行こう。
「いや、私は君の病気を治しに来たんだよ。さ、これを飲めば元気になるよ」
自分がそう言うと妹さんは素直にそれを飲んだ。
「あれ? 神様どこ行っちゃったの? もう帰っちゃったの? お薬ありがとう~」
「あれ、ここはどこだ?」
おい
「ん?」
後ろから声がしたので振り返ると
そこには大勢の人が自分を睨んでいた。
「あ、あの、ここはいったい?」
自分は声をかけてきた男性に尋ねた。
ここはあの世だよ。俺達はお前のせいで死んだんだ。
お前自身もだがな。
「へ、何故ですか!?」
お前が彼女に特効薬を渡したせいで歴史が変わっちまったんだよ。
彼が特効薬開発を目指したのは妹が難病で亡くなったからだ。
だが妹が完治してしまったので、彼は特効薬を作ろうとは思わなくなったんだ。
だから俺達は……
「そ、そんな、自分はただ彼にお礼がしたかっただけなのに」
俺もお前の行為自体はいい事だと思う。
たがな、そのせいで大勢の者が助からなかったんだぞ。
「そう言われても……あ、そうだ。自分があの時に死んだことになってるならあれは完成寸前のはずだ。あれを助手に完成させてもらえば皆助かるんじゃ?」
早速自分は助手の夢枕に立ってこの事を話した。
助手は納得してくれたようで、後にあれを完成させて過去へ飛んでいった。
そこで過去にいた自分に会い、一旦戻って特効薬をもう一つ持ってきてくれるように頼んだ。
自分はその通りにして妹さんに特効薬を飲ませた後、もう一つの特効薬を取り出し「これをお医者さんに渡しなさい」と言って去っていった。
「あ、ここは元の時代。自分も生きているな、上手くいったようだ」
あの特効薬があればそれを元にして、彼じゃなくても他の誰かが作ってくれるはずだろう。
そうすれば全員助かるんじゃ、と思ったが当たったようだ。
というより最初からそうしておけばよかった。
よく考えないでやると大勢に迷惑がかかるもんだ。
ん?
新たな記憶が浮かんできた、え?
彼は元々優れた人物だった。
あれから彼は一流大学を出て政治家になり、ついにはこの国の首相になった。
だが彼はある日気が狂ってしまい、極秘に開発させていた核兵器のスイッチを押した。
そのせいで世界のほとんどの人間が死んだ。
残っている者ももはや時間の問題。
「自分が余計な事をしなければ……そうだ!」
そして自分は過去へ飛び過去の自分に事情を話して特効薬を持っていくのをやめさせた。
世界は元通りになった。
その後自分はそれまでの研究資料をすべて焼き捨てた。
「タイムスリップは世に出さないでおこう。歴史を少し変えただけであんな事になるなら」
そしてもう二度とタイムスリップはしなかった。
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