第13話

 /拾弍


 世界は、崩壊を始めてから七日目。

 その時、カイネは目覚めた。


「……生き、てる?」


 自分の腕を見る。手を握って、開いてを繰り返す。

 足を見る。右足を持ち上げ、下す。左足を持ち上げ、下す。

 軽くジャンプする。普通に、ジャンプした。


 どうやら、身体に特に異常は無いようだ。


 相棒を探す。周りを見渡すと、すぐに見つかった。ただ、粉々に粉砕されていた。

 相棒を見つけると同時に他のものも見つかった。イーリアの死体だ。ただ、頭だけだ。身体は、それがイーリアのものなのか分からないほどに損傷していた。

 他には、多くの血痕や、崩れた城、イーリア以外の死体も沢山あった。


 哀しく、なった。

 泣きたく、なった。


 そして、全部壊したくなった。誰かからそうしろと言われているようだけど、それだけじゃない。これは僕の本心だ。

 この国を。

 この世界を。

 全部壊して、無かった事にしたくなった。


 この世界に生を授かり、勇者として活躍してきた。危険な魔物の討伐、魔族との戦争、多くの戦いをした。

 その暮らしの中には、多くの友がいた。戦友も、親友も。勇者という地位なだけに、将来の妻もいた。

 ……イーリアだ。……僕の将来の妻は、イーリアだ。一目惚れだった。一目見た時から、ずっと一緒にいたいと思ったんだ。けど、今目の前には、イーリアだったものが、転がっている。そんな世界になど、居たくもない。


 この世界を見る限り、もうどこにもない。

 この世界にはもう、幸せなど皆無だ。

 だから、壊したくなった。


 けど、どうしてもしなくてはいけない事があった。これは僕にとっては義務の様なものだ。

 この世界に生を授かった、ならば、この世界の最後の声を聞き届けなくては。

 僕を選んだ、この世界の、声を。


『僕は今からこの世界を、壊す。だから、最後の声を、聞かせてくれ』


 世界に語りかける。

 本当は、聞きたかっただけ。答えを期待などしていなかった。

 だが、声は確かに僕の耳に届いた。


『……──ごめんね──……』


 世界の声は、確かに聞き届けた。

 後は、壊すだけだ。


「ぎきぎ?! テメェ、何してやがる?!」


 そんな時、何とも懐かしい声がした。

 エンヴェンス・ネーバだった。タルテトの外壁の上でこちらを睨む。その瞳は、何で生きているのだと言っていた。

 それにしても、話すの得意になったんだな。けど、もう終わりだ。


「答えろぉぉぉッ!」

「……さよなら」


 僕はイーリアの頭を左手で持ち上げ、胸に抱きしめた。そして、涙を一粒、イーリアの頬に落とした。

 イーリアは最後に、何を言おうとしたのだろう。

 いや、その答えはもう、どこにもないか。


「糞がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 突撃してくるエンヴェンス・ネーバ。

 ……遅い。

 僕はそれを左足で蹴り上げ、勢いを完全に殺す。同時に、エンヴェンス・ネーバの五臓六腑を粉砕させる。

 空中でもがくエンヴェンス・ネーバに、渾身の右足の蹴りをかます。エンヴェンス・ネーバはソニックブームを発生させながら上空に飛んでいった。その衝撃で空にあった雲は一つ残らずどこかに消えた。


 邪魔な奴はいなくなった。


 僕は右腕を持ち上げ、呪文を唱える。

 それは魔線術とは全く違ったモノ。だが不思議と、以前から知っている様な感覚で扱えた。


「……世界を、滅せ。終焉(エンド)」


 右腕を空にかざすと、突然空に巨大な剣が現れる。その剣は全てが黒に染められ、まるで影から作られたかの様なものだった。

 大きさは大体、タルテトからダルメトまでも距離と同じ位だろうか。つまり、数キロという長さの剣である。


 それが空に、合計でで現れる。世界は巨大な剣に囲まれている形となる。お陰で、空を見ると殆どが黒で染まっている。


「……撃て」


 そしてそれを、一斉に星の中心に向けて放った。

 その直後、世界は崩壊した。

 所謂、超新星爆発の様なものを起こして、崩壊した。

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