第6話

 /伍

 

 ようやっと、街に着いた。だがそこは阿鼻叫喚の地獄ではあったが、怪我しているものなどはいなかった。

 違和感を感じる。この街には魔族共が乗り込んできたはずだ。なのに、人間族を何故殺さないのだろう。普通、殺しながら進行するのが魔族ではないのか。


 なんだ、何かがおかしい。


 よく見ると、空を鳥型の魔族が飛んでいる。更によく見れば、家の屋根の上を人型の魔族が走る。その目は血走っていて、確かに人間を見ている筈の目だった。なのに、その瞳は人間を見ていない。まるで、探しているようだった。


 足に力を込め、空に向かって跳躍する。地面に小さな陥没。地上から数百メートルの位置まで飛び上がった頃、街を見渡すと、矢張り街中に魔族はいた。だが、どの魔族も“何か”を探しているようだ。

 僕が空を飛んだ事でびっくりしてこちらを睨んだ魔族もいるけど、今は無視した。そしたら相手も無視した。正直これには、心底驚いた。


 空中を漂っている間、街を見渡し続けたらあるものを見てしまった。崩れた家。その下には子供と、その母親と父親らしき人がいた。つい僕は手を伸ばすが──間に合わないとすぐに気付いた。そもそも空中にいる為、落ちる事しか出来ない。空気を蹴って移動する事も可能だけど、それは街を壊してしまう可能性もある為に、街中では使えない。勇者の欠点だ。高い能力は、地形を容易に変形させてしまう。それで守るべき街を壊してしまったら、

 どうしようもない。ごめんと心の中で呟いた。が、その時。


 魔族が人間を助けていた。


「え」


 魔族が魔線を練り上げ、崩れかけの家に向かって炎を放った。そして、家の残骸を跡形もなく吹き飛ばした。

 ……──何で。

 魔族と人間族は戦争中だった筈だ。なのに、何故魔族は人間を助ける。なんで、なんで、なんで。


 ……あれ?


 その時思い浮かんだのは、あるニュース。それは我々人間にとっては最悪のニュース。

「魔王出現」

 このニュースがあったのは、つい数週間前。戦争が始まったのは五年前。そう、魔王が現れる以前から戦争は起こっていた。

 それからだった。違和感を感じたのは。


 魔王出現からは、魔族の進行が目に見えて少なくなっていた。週一で阿保みたいに襲ってきていた魔族が、今では月一で襲う様になった。それに、進行する魔族の数も以前に比べて少なくなっていた。

 魔王が現れた事によって慎重になったのではと言うのが、タルテトの考えだったが、もしかするとそれは間違いかもしれない。


 もしかすると、魔王は戦いを望んでいないのではないか?


 それでもちゃんとした理由にはなる。進行の回数が減ったのは、魔王が戦いたくないから。数が減ったのは、戦いたくない魔王を信仰する者達の分減ったから。

 まさか、とは思ったけど、そうとしか考えられない。もしそうでなければ、人間を助ける筈はない。


 その時だった。タルテトの中心に位置する王城が爆発したのは。


 あれ、まさか、まだあの中には……。


 僕は、地面に着地した。そしてその直後、走り出した。王城に向けて。

 景色が後ろに流れる。次の瞬間には、僕は王城に飛び込んでいた。

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