⑤舞園梓パート「あぁ! 今日ココから、是非よろしく!」
◇キャスト◆
―――――――――――――――――――
――「「「「ありがとうございましたァァ!!」」」」――
もちろん、途中参戦した
『……負け、たんだ』
今回行われた練習試合の結果は、九対十の点取り合戦に至り、終盤の逆転劇を経た筑海ソフト部が勝利。しかし現在では、浮かれた様子が誰一人からも観察されず、次期主将候補としてまとめる
その一方で、
『……
皆から一歩遅れて進む梓の視界には、個々で躍動したものの肩を落とす選手ら九人の後ろ姿、
『
ふと目前の景色から逸らし、歩む動作すら辛さを覚えて立ち止まってしまう。戻るべき一塁ベンチという場所に、恐怖を感じたからだ。期待に応えるどころか、皆の足を引っ張ってしまったがために。
それも、敗北という結果にまで、引き摺り込んでしまったが故に。
『――みんな、ゴメン……まずはそう言わなきゃ』
喉が
そう思った梓が、苦い顔を上げたときだった。
――「やったぁ!! みんなで試合ができたよ~!!」
「か、
放とうとしていた負の気持ちは、主将の
「やったやったぁ!!
「……」
――「なんじゃそりゃあ!!」
「叶恵……」
すると、左手に湿布を張った闘将――
「
「いや~そうだけど~……でも、嬉しくて!」
「ドMか!! 負けて喜ぶとか、キャプテンの自覚あんのかッ!!」
笑顔を止められない主将が怒濤の副主将に説教を受けていると、今度は二人の間に
「あ~れぇ~? 去年ってぇ~、何対何だったんだっけぇ~?」
「ギグッ……」
「そうだよ叶恵! 去年の一対二十五のコールド負けと比べたら、全然成長してるじゃん!!」
「
一人叶恵だけが怒号を上げ、夏蓮たち三人が笑みを灯し続けていた。善くも悪くも音が確かに再誕し、梓の視界に色が戻りかける。
やがて一塁ベンチには春の陽が照らし始め、徐々に穏和な雰囲気が拡がっていく。より煌めきを誇る、場を和ませるような笑顔で
「へへ! なんだかんだ、ソフトボールも楽しいスポーツじゃねぇか。ボールぶっ飛ばした時は、スッゲェ気持ちよかったしよ!」
無邪気に笑ってみせる
「さすが唯先輩っす!! バリかっこいいっす!!」
「唯とミスズンってホント仲良しにゃあ! このまま結婚しちゃえばいいのに~」
「けっ、ケックォン!?」
「バーカ、何言ってんだよ? 女と女じゃできるわけ……ん、美鈴?」
「唯先輩の“行ってきます”……唯先輩に“行ってらっしゃい”……唯先輩と“行ってきます”の……ティュ~」
「み、美鈴どうした!? 頭から湯気出てんぞ!?」
顔を真っ赤に染めた下級生の美鈴を、先輩の立場である唯が焦って心配し、一方きららが静かに微笑んでいた。
それは、残る一年生三人組――
「いや~、メイってホントに上手いんだね! 攻撃も守備も、あたし見ててビックリしたよ!」
「Thank you 菫!! これでワタクシ、今日のHero間違いなしデスネ!! お立ち台はどこデスカ?」
「ヒーローインタビューなんかあるわけないでしょ……」
大奮闘したメイを欠かさず非難した凛には、菫も思わず苦笑いで二人を包む。
「……でも、凛もスゴかった! だからあたしの中では、二人ともヒーローだよ!」
「エヘヘ……ありがと、菫」
「Waoh!!
「だから無いってば……」
「アハハ~……」
元気絵図を取り戻しつつある、新生笹浦二高女子ソフトボール部。経験者も未経験者も相変わりない、明快な表情が簡単に見て取れ、梓も一人静かに見守ることができた。
『みんな……』
自身が抱いていた不安の暗闇は、少しだけ取り除かれた。結果で落ち込んでいるかと思ったが、どことなく楽しそうで幸いだ。
ところが、誰からも話を振られなかったことで、今度は妙な孤独感を覚えてしまう。
『みんなは優しいから、
気を
梓は部員たちそれぞれの笑顔を見届けながら思っていたが、ふと顧問の信次と目が合い静止する。場の雰囲気と一致した、校内でよく見かける童顔スマイルを前面に見せられ、決して孤独の身に仕向けられていなかったことを教わる。
「――ハハハ! みんなで、負けちゃったね!」
「みんな、で……」
梓に向かって鳴らされた台詞は、他の部員たちにも聞こえる音量だった。現実を逸らすことなくハキハキと響かされたのだが、不思議と心が軽く感じた気がする。
「先生の言う通りだよ!
第一声に主将の夏蓮が苦笑うと、再び会話路線が繋がる。
「だァァかァァらァァ!! それでもキャプテンか!! エラーをもっと心から反省せい!!」
「フフ。自ら怪我しにいくことも、
「ウッ……」
「アハハ!! アタシも、最後のタッチ遅くなっちゃったし! ……まぁいっか!!」
「「良くはないでしょ!!」」
主将の自覚を煽る叶恵と、別視点で先発投手を追い込む柚月が、理由無しに開き直ろうとした咲を怒鳴れば。
「あたしも打球溢しちゃったし……牛島先輩、カバーさせてしまい、ゴメンなさい! 今度はしっかり掴みます!」
「オレのことは気にすんなよ東條! コッチだって、悪送球しちまったし……悪かったな美鈴。今度はちゃんと、美鈴の胸しっかり狙うからよ」
「う、ううううちの、胸!?」
「全くもぉ~。みんなしっかりするにゃあよ!! このきらら様みたいに
「Oh my god……そう言えばワタクシも、焦って周りに指示が出せてませんデシタ……これではママに怒られてしまいマス」
「わたしも。声を出さなかったことも、エラーの一つだよね……ところで、植本先輩はちゃんと声出してたんですか?」
「ニャプゥ゛ッ!! ……リンリンの視野はどうしてそんなに広いのにゃあ~……」
「ウフフ。どうしてでしょうねぇ」
己にも非があったことに気付いたメイをきっかけに、凛が得意気なきららを論破し砕かしていた。
負の連鎖など毛頭見つけることができず、正比例の傾きこそ顕在なチーム雰囲気だと言える。俯いて後退する背など
「――だから梓ちゃんも、みぃ~んなといっしょだよ!」
主将のたった一言からは、多大な真心を感じ取った梓。刹那的に驚き固まってしまい、周囲の部員たちにも暖かな瞳を向けられ緊張した。が、すぐに微笑みで返し頷く。
『みんなは優しいから、確かに
改めて部員たちの優しさ本来の意味を見つけ出し、見えない思い遣りを聞こえない想いで呟く。
『――
孤独感ではなく、連帯感を抱くべきだったのだ。勝敗どちらであれ、気持ちを揃えて行う競技こそ、ソフトボールなのだから。互いの手と心を繋ぎ、
『
それは言うまでもなく、傷の
――もちろん梓も、最高の絆で結ばれた仲間たちと共に。
『負けて終わりじゃない……負けた後、次に備えなきゃいけない……諦めちゃ、いけないんだ……』
「……あ、あのさ……」
不意に訪れた目頭の熱さに、梓は震え気味の声で皆を振り向かす。堪えようとすればするほど瞳が潤み、視界も不鮮明だ。が、見回した一人一人の顔をしっかりと捉え、最後には頬も上げられた。
謝罪よりも大切な一言を探し当て、仲間を想う真心から放つ。嬉し涙であることも伝達させるように。
「――ありがと、みんな!」
チームの顧問として、また担任としての嬉しさを笑顔で示した、田村信次。
白い歯を剥き出しにし、ガッツポーズのように右拳を向けた、牛島唯。
そんな
はしゃいだ様子ではなく、包むような穏和の瞳で微笑んだ、植本きらら。
互いの手を握りながら、姉妹のように無垢の笑みを向け合う、東條菫と菱川凛。
その二人の間に割って入り、苦笑いと睨みを集めた、May・C・Alphard。
怪我の痛覚も感じさせない、勇ましき表情で笑ってみせた、月島叶恵。
大きな口を更に横へ伸ばし、ニッコリスマイルでピースを型どった、中島咲。
どこか嘲笑った
そして最後に、グローブを両手で握りながら、誰よりも素直で和む笑顔を
そんな色とりどりの仲間たちに包まれた一塁ベンチ前にて、舞園梓は笑って伝えることができたのだ。健気で真っ直ぐな気持ちを、かけがえのない個々人へ。
「……あ! そうだ先生! 梓ちゃんにも、
「へ……っ! そうだね! まだやってなかったもんね!」
すると夏蓮が発端となり、何かを閃いた信次が一歩出る。
「舞園!!」
「先生……みんな……」
歓喜で叫んだ信次が中央に出ると、待ってましたと言わんばかりに部員たちから焦点を集めた。
しかし、これから何が始まるのかまでは、梓には正直わからなかった。不思議を隠せず辺りをキョロキョロと探ってしまったが、次の瞬間顧問の両腕が大きく開いたことで、快く迎えられることに気付き
笹二ソフト部内では定番となっている、例の儀式。それが今日この場で、久方ぶりに
「ようこそ!」
――「「「「笹二ソフト部へェェェェ!!」」」」――
「ちょっとみんな!? それはボクの台詞だって!!」
「うるせぇうるせぇ! テメェは引っ込んでろ!」
全文を告げたかったらしい信次を唯が
「あぁ! 今日ココから、是非よろしく!」
全部員が喜びを分かち合い、満を
苦い経験をブチ破り、直球でねじ伏せる不器用左腕――舞園梓が。
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メイ「放送席~放送席~❗❗🎤😆
次週、
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