⑤呉沼葦枝→舞園梓パート「い、行くってどこにですか?」

◇キャスト◆

呉沼くれぬま葦枝よしえ

花咲はなさき穂乃ほの

錦戸にしきど嶺里みのり

梟崎ふくろうざき雪菜せつな

宇都木うつぎ歌鋭子かえこ

舞園まいぞのあずさ

ワン

大和田おおわだ慶助けいすけ

泉田いずみだ涼子りょうこ

如月きさらぎ彩音あやね

清水しみずしげる

―――――――――――――――――――

 三回表が終わり、ベンチへ帰った筑海高校ナイン。

 経験者の花咲はなさき穂乃ほの錦戸にしきど嶺里みのり、そして梟崎ふくろうざき雪菜せつな以外の部員たちは、相変わらず緊張の面立ちだ。宇都木うつぎ歌鋭子かえこが漂わす厳粛たる空気から、すぐにも脱却したい気持ちが見て取れる。

 その中でも、先発投手の呉沼くれぬま葦枝よしえは特に項垂うなだれていた。現在は、監督用折り畳み椅子に座る歌鋭子から指摘を受けている。


「三回で三失点……。気合いが足りないんじゃないのか?」

「はい、監督さん……」


 目前から飛び襲う歌鋭子の尖った眼差しを避けるよう俯き、葦枝はか細い返事を鳴らした。練習試合とはいえ、先発投手にのしかかる圧力で呼吸がしづらい。



『ぅちが、みんなの足を引っ張ってる……』



 罪悪感までもが、葦枝の心を圧迫していた。二回表ではゼロで抑えられたものの、失点回数の方が多いここまでの内容だ。新設の笹浦二高をあなどっていた訳ではないが、予想を超える自身の弱さに痛覚が走る。歌鋭子に告げられた通り、気合いが足らないのだろうが。



『恐い……』



「呉沼……まずは顔を上げろ。人の話を聞く態度じゃないだろ?」

「は、はい! すみません……」

 咄嗟に面を上げると、やはり監督の鋭い睨みが視界を埋める。全身に電気が走り、冷や汗が頬を通り過ぎ、瞳の奥からも流れ出そうだった。


「呉沼。お前は決して、弱い選手じゃない。だからワタシは、お前を先発で起用したんだ」

「あ、ありがとうございます……」


 評価を受けるも、葦枝の表情が明るむことはなかった。むしろ多大な緊迫からの解放を願うのみで、グローブを備えた左手に水分を覚える。


「……」

「強くなれ、とは言わない……。強くれ、呉沼」

「は……はい!」


 無理強いに微動の返事を送ると、歌鋭子の視線が現在攻撃中の打者に渡った。

 結局葦枝は晴れないまま遠ざかり、大切なグローブと共にベンチへ着席した。疲れた訳ではないのに、肩をガックリと落として。


「……」

「落ち込まないでね、呉沼さん。ナイスピッチングだから」

「花咲、さん……ありがと」


 主将の穏やか声には振り向けたが、穂乃がネクストバッターズサークルに向かった後には、葦枝の顔は再び下がり落ちてしまう。今度は背を丸め、頭を抱えるまでに。


『そんなことないよ、花咲さん……ぅちは、ダメダメだよ……ホントに』


 結果こそ求められる勝負の世界では、メンタルの弱い自分など求められていない気がした。穂乃から貰ったせっかくの言葉も、効力を発揮しないまま空気に溶けていく。



『迷惑だよね……こんなピッチャーじゃ……』



 空気に酸素が含まれているはずが、窒息しそうなほどに過呼吸が近づく。肩身が狭いどころか、世界からも拒絶された錯覚に陥ってしまう。



『――何やってるんだろ、ぅち……。何も、変われてないじゃん……グズッ』



 変化しやすい四月の天から、ついに春雨が膝元に浸る。情けなさと弱さが、不安定な大気を誘う。やがて雨雲を発生させ、注意報も呼び掛けられる事態まで迫っていたが。



――「えいっ!」



 瞬時、うなじから冷えた触覚が走る。


「チュギャッ!! ……っ! 嶺里、雪菜……」


 驚き立ち上がった葦枝は背後を振り返ると、なぜか片手に板氷を握った捕手の嶺里と、紙コップを握るマネージャーの雪菜が並んでいた。二人とも揃って明るい表情で、特に嶺里は眩しいくらいに笑っている。


「ハハハッ!! 葦枝のリアクションかっわい~い! ねぇもう一回やってもいい?」

「へ……?」

「もぉめなさいよ、はしたないたわら女子め。葦枝も困ってるでしょ? てかその氷、どっから持ってきたのよ?」


 実家が米農家の嶺里を、秀才な眼鏡を光らせる雪菜が呆れた様子で抑止していた。性格が不一致な二人だが、長き付き合いで培った絆で結ばれている仲である。それは中学生時に出会った葦枝も知っている関係で、自然と涙が止まるほど見とれていた。


「二人とも……」

「はい葦枝。ピッチャーなんだから、水分しっかり摂らなきゃダメよ?」


 するとまずは雪菜から、スポーツドリンクが入った紙コップを手向けられた。言われるがままに口へ移すと、甘さ控えめな味が喉をゆっくり通っていく。


「……ありがと、雪菜。わざわざ持ってきてくれて」

「マネージャーだから、これぐらい当たり前よ」

「ねぇ、葦枝!」

「嶺里……っ! ち、近い……」


 今度は打って代わり、嶺里の高らかに笑顔が目前に迫る。額を直に合わされ、葦枝のサンバイザーのつばが上がってしまう。しかし、なぜか心地好さを覚え、先ほどまでの呼吸の荒れが嘘のように晴れていく。



「大丈夫だよ、葦枝……」



 嶺里の静かな吐息が、口元に優しく当たる。そして次の瞬間、葦枝の頭に手のひらを添えられる。



「――葦枝をひとりになんか、あたしらが二度とさせないからさ……エヘヘっ!」



「――っ! 嶺里……」

 嶺里の一言が、葦枝の内側を確かに包んでいた。おおらかに優しく、少しの傷も癒してくれるように。


「嶺里の言う通りよ、葦枝。まだ試合は、始まったばかりなんだから」

「そうそう! 三点ぐらい、あたしが返して見せるからさ!」

「雪菜、嶺里……ありがと……グズッ」


 二人がいてくれたからこそ、自分はこの空の下に向かうことができた。

 そして二人がいてくれるからこそ、自分は今ここで光を浴びることができている。

 苦い過去を抱く葦枝は目視で確認すると、つい溢れた涙を拭き取る。


『ぅちだって、変わりたいんだ……』


 一方で試合は進行し、筑海高校の攻撃が終了――この回も無得点だった。

 これから四回表の守備が始まる、筑海高校サイド。展開的には笹浦二高ペースだが、改めて立ち上がった葦枝は一度深呼吸し、不安定だった心を整える。



『もう……嫌だもん……』



 理想の結果が出ていないことには、焦りが少なからず宿っている。が、葦枝は恐れながらも、プレートへ駆け向かった。ショートから応援してくれる穂乃にも返事をしながら、投球練習を行う。そして、嶺里と雪菜から頂いた機会を、感謝という二文字で胸中に刻み込んで、四回表に挑む。



『――もう引きこもりは、絶対に嫌だもん!』



 オドオドとしながらも、凛々しく構えてみせた投手――呉沼葦枝。懸念が完全に拭いきれたとまではいかないが、僅かな勇気を振り絞って中盤戦に臨んだ。



 ◇それぞれの想いたち◆



 舞園まいぞの家。

 笹二と筑海の練習試合が進む一方で、舞園まいぞのあずさは自宅リビングのソファーで横たわっていた。現在父母は外出中のため、緑の庭から室内を見つめる愛犬――ワンとの留守番を任されているところだ。


『何やってんだろ……ウチ


 朝ご飯を済ませ、普段から身に付けるジャージにも着替えた今、もちろん眠気など全く無い。しかし、左腕で両目を覆い続けるばかりで、自ら視界に闇を取り入れていた。現実から逃れようと、悪足掻わるあがきを示すように。


『今頃、試合やってるのかな……?』


 ソファーすぐ手前のテーブル上には、サンバイザーと共に笹浦二高の試合用ユニフォームが鎮座ちんざしている。しかし、背番号“11”があえて隠されるよう折り畳まれていた。恐らくは母――舞園まいぞの瑞季みずきが配置させたのだろう。

 梓にとっての、トラウマ的な数字が一切見えないように。



『ゴメン、みんな……。それに、先生も……』



 元バッテリー仲間の篠原しのはら柚月ゆづきがデザインした、白の胴回りに青を取り込んだユニフォーム。初見で惚れ込む程の出来映えで、今すぐ纏いたいと思った昨晩が事実である。が、現在は拒否反応を示している姿勢も否めない。この神聖たるドレスは、自分自身に着る資格などないよう感じるまでに。



『誘ってくれたのに、行けなくて……』



 練習試合にだって、参加したいとも思った。しかし、ひたすらに恐かったのだ。悲惨な過去が鮮明にフラッシュバックしてしまったが故に、田村たむら信次しんじによる再起のきっかけを無視する今に至ったのだ。責任感の欠片もない自身の行いには、腹立たしい程に情けなかった。



『――やっぱりウチは、ダメダメだ……』



 庭のワン太も眉を潜めながら黙り、時計の指針音だけが、孤独少女の空間を染めていくところだったが。



――ピーンポーン……。



 一つの音色が奏でられ、梓に起立を促した。

 舞園家内にインターホンが響き渡り、梓はゆっくりと通話口を手に取る。


「はい?」

 [お、おはようございます! えっと……]

 [舞園梓様に荷物が届いてま~す!]


 緊張と楽しげな高音を奏でた、二人の女声が耳に届く。どうやら宅急便配達者だとわかるが。


ウチ宛に……? は、はい、わかりました。すぐ向かいます」


 不思議と眉間に皺を寄せながら、静かな玄関へと向かった。父母からは何も聞いていなければ、最近何か購入した覚えもない。

 一体誰からの荷物なのだろうかと、梓には疑心が増す中、靴を履いて玄関の鍵を開け、扉をゆっくりと押してみると。


「はい? ……ッ!!」


 刹那、見開いた梓は息を押し殺し、目前の訪問者へ驚愕を顕にした。


「よぉ~お嬢ちゃん……」


 なぜなら、先程のインターホンからの声主とは程遠い男性が待っていたからだ。背が高く筋肉質な体型で工事系作業着を纏い、口元には煙草たばこらしき白棒が加えられている。そして黒いサングラスのせいで、眉間の皺が余計に恐ろしく見えてならない。


『な、なに、この人……』


 恐怖で両脚の震えを見せた梓は、無論この場から離れたかった。しかし現在は自宅、且つ両親さえ不在。唯一の頼りとなるワン太も吠えない。



『……か、帰ってもらわなきゃ!』



 ならば己が声を挙げなければいけない。怖じ気づきながらも覚悟を固めようと、梓は一度固唾を飲み込む。玄関前の威嚇的な奇怪男性が去るよう、勇気を振り絞って声を鳴らしてみるが。



「――せ、セールスは、御断りしてますので……」



「……」

「あ、あの……煙草、落ちましたよ……?」

「……お前、よくこの見た目でセールスだと思ったな……」

「はぁ……?」

 梓の一言は、確かに男の勢いを静めることができた――というよりかは、呆気に取られた様子が否めず、ポトンと煙草を落とすほど開口させていた。改めてよく観察すると、なぜか火は着いていない。更によく見てみると、プラスチック性の白い棒だった。飴でも舐めていたのだろうか。


「……てか、どちら様ですか?」


 間違えた覚えがない梓は改めて男に疑問を投げた。すると空気を変えるように咳払いし、顎髭を強調する下目遣いで微笑する。


「お嬢ちゃん、ちょっと来てもらいたいんだ。うちのボスが、是非ともお嬢ちゃんに会いたいんだとよ?」


 ドスの効いた低い声の男が親指を道路へ向け、梓の視線を指示した。見えたのは、塀外に停まった白いワンボックスカーで、助手席には確かに人影が映っている。

 しかしその現実が、梓の表情を更に強張らせた。


『間違いない、不審者だ……誘拐だ!』


 今更ながら気づいた梓は、すぐにドアを閉じようとノブを引くが。


――バシッ!!

「――っ!?」


 男の大きな手のひらで止められ、無理矢理にも再開させられてしまう。


「おい、お嬢ちゃん。かわいい顔しといて、やることはなかなか酷いなぁ」

「か、帰ってください!! ……け、警察呼びますよ!!」

「警察かぁ……もう二度と聞きたくねぇ言葉だなぁ」

「はぁ? ……んなッ!!」


 すると男が片手で完全に開き、梓は勢いあまって膝をついてしまう。まともに立ち上がれないほどの恐怖に襲われ、ただ不審者を黙り見上げるばかりだった。


「……」

「さてと……おい出番だ!」


 すると男の視線が庭の方へ向かう。どうやら他にも手下がいるようだ。梓も震える瞳で焦点を変えると、やはり同じく黒サングラス、加えてマスクを着用した二人組――長い髪型からは女性だとわかるが。


「久しぶり~ワン太! 見ないうちに大きくなったね~」

「くぅ~ん……」

「フフフ、そうかそうか。元気で何よりだよ」

「人懐っこいのね! わたしも触っていいかしら?」

「どうぞどうぞ。良いよね、ワン太?」

「ワン!」



『か、飼い慣らされてるんですけど……』



 素早い尻尾振りを見る限り、頭を撫でられるワン太のこころよさが、飼い主の梓にも観察できた。あそこまで元気な舌出しは、久しぶりに見た気がする。


「いつまで遊んでんだよ!? 出番だつってんだろうが!!」


 しかし男が和ましい空気を引き裂くように叫び、元の恐怖が還り戻る。


「あ、了解で~す」

「へいアニキ! じゃあまたね、ワン太」

「ワン!」


 ワン太との別れを告げると女性二人組はすぐに玄関前に辿り着く。恐らくは、インターホンで話した女性二人でもあるだろう。しかし配達物は手に無く、挙げ句の果てには両者に囲まれる。


「んじゃあ、うちは背中にしますね」

「わかったわ。わたしは脚ね」

「はぁ!? ……ッ!! ちょ、ちょっと!!」


 梓の両脇下に両脚が、それぞれの女性に押さえられた。このまま身を運ばれてしまうのだろうかと、おぞましい予想が浮かんでしまう。


「さてと、お邪魔しま~す」

「――ッ!! ちょっと!! なに勝手に上がってるんですか!?」



 一方の男も動き出し、靴を脱いでリビングへ向かっていく。誰もが認める不法侵入だ。


「……お~あったあった」


 法浸入した男は何かを見つけ、手に持って戻ってくる様子が推察できた。金品や父母の大切なものならば困ると、梓は男の姿を確認しようと試みる。

 しかし、それどころではなかった。


「な、何するんですか!? 離してください!!」


 二人の女性によって、梓の全身が持ち上げられる。空中状態が更なる困惑を煽り、てんやわんやの事態まっしぐらだ。



「止めろ止めろ!! こんなの犯罪だ!! こんなの許される訳がない!!」



 自然と出る言葉を必死に叫び、何とか脚をばたつかせる。が、無駄な抵抗に等しかった。このまま誘拐されてしまうのだろうか。



『誰か、助けて……』



 どこに連れてかれてしまうのだろうか。実際に起きてしまった緊急事態に心が乱れてならない。もはや抗う余力が弱まっていく梓が、恐怖で諦め掛けたそのときだった。



「大丈夫だよ、梓」



 ふと耳元で鳴らされた女声に、梓は振り向く。サングラスは掛かったままだが、マスクを下げて口元を公にした姿から、不審者の内一人の顔立ちが確認できた。



「へ……も、もしかして……」



 見覚えのある髪型。

 聞き覚えのある声質。

 そしてサングラス越しに垣間見えた目の形から、梓は正体をさとる。



「――りょ、涼子りょうこ先輩!?」



 瞳が大きく開くと同時に、全身の震えが消え去った。なぜなら梓の両脇を掴む者が、一つ歳上の先輩――泉田いずみだ涼子りょうこだと認識したからである。安心感さえ与えてくれる存在だが、なぜ彼女がここでこのようなことをしているのか、全く理解できなかった。


「やっぱり、怖かったよね……ドッキリとはいえ、ごめんなさいね、舞園さん」

「ど、ドッキリ……?」


 するともう一方の、両脚を掴む女性もマスクとサングラスを外し、梓に素顔を顕にする。



「え!? 如月きさらぎ先生!?」



 数学の授業担当者である教諭――如月きさらぎ彩音あやねだった。苦笑いを見せて謝罪をするも、疑問だらけの梓には響かずじまいだ。


「もぉ~アニキさんがドッキリなんて考えるからですよ?」

「しれ~っと呼んでっけど、オレはお前のアニキじゃねぇっつうの! てか、お前がやろうっつったんだろうが!」


 今度は涼子が、梓には見知らぬ男性を呼び止める。


「ゆ、ユニフォームとサンバイザー……」


 まず目に映ったのは、手元に笹浦二高のユニフォームとサンバイザーが握られた姿だった。先ほどリビングから持ち出したのは、どうやらこの二品のようだ。

 すると男はサングラスを外すと同時にため息を溢し、気怠そうながら自身を名乗る。



「――はじめましてだな、お嬢ちゃん。オレ大和田おおわだ慶助けいすけ。お嬢ちゃんの学校の、ボスの元教え子なんだ……」



「学校のボス……え!? じゃあ、あの助手席の人って……」

 改めて停車に目を向けてみると、タイミングを合わせるように窓が開き始めていた。助手席の者は予想と合致していたが、梓はかえって驚愕の目を開いてしまう。



「やっぱり、夏蓮かれんのおじいちゃんだ……」



 親友の清水しみず夏蓮かれんの祖父、また笹浦二高の学校長――清水しみずしげるだ。穏やかな笑顔で手を振り、歓迎しているように窺える。

 結局のところ、不審者など一人もいなかったことに気づけた梓。誘拐の二文字が消えて、一先ず安堵の呼吸を漏らす。しかし、なぜ四人が家まで訪れたのか、理由がわからなかった。依然として宙を浮かされた状態も不可解ならずにいると、彩音が沈黙を破る。


「さて、時間もないから、さっさと行きましょっか?」

「い、行くってどこにですか?」

「決まってるでしょ。ねぇ泉田さん!」

「えぇ!」


 彩音に話を振られた涼子は嬉しそうに相づちを打つと、空中のまま首を傾げる梓と目を合わせる。キラキラと輝く、栄光の未来を見据えた瞳で。



「――行くのよ、ソフトボール場! みんな、梓のこと待ってるからっ!」



「そ、ソフトボール場……練習試合ってこと?」

「そっ! さぁ強制送還だぁ~! レッツゴ~!」

「ちょっ! ンナァ~!!」


 楽しげな涼子と彩音がついに動き出し、梓の全身が自宅から離れていく。どうやらこれから、現在練習試合中の笹浦総合公園に連れていかれるらしいが。


「先輩!! それに如月先生も!! 一回止まってください!!」

「フフ! まぁまぁ気にしないで梓。離して落としたりしないから」

「いやいや、そういうことじゃなくて!!」

「普段真面目な梓の、そういう困った顔、なんか見慣れてないから好きだなぁ」

「柚月みたいなこと言わないでくださいよ!!」


 誘拐ではないが、連行に変わりなかった。

 冷や汗を流し続ける梓と、対照的に楽しそうな表情を見せる涼子が会話をする中、“虹色スポーツ”と書かれた車に運ばれていく。



『急過ぎるでしょ!! まだ、心の準備が……』



 当初向かう予定ではなかった戦地へ向かうのだ。困惑にまみれながらも、涼子と彩音から解放されることなく、梓は後部座席へと強制的に送還される。抜け出したいあまりだったが、ワン太からは静かに見守られ、慶助の運転で発車してしまった。

―――――――――――――――――――

   一 二 三 四 五 六 七 計

笹二|1|0|2|…| | | |3|

筑海|0|0|0| | | | |0|


ランナー無し

 B○○○

 S○○

 O○○

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