②清水夏蓮→東條菫パート「……何だかあたしたち、似てますね」

◇キャスト◆

清水しみず夏蓮かれん

東條とうじょうすみれ

菱川ひしかわりん

東條とうじょう椿つばき

東條とうじょうさくら

東條とうじょう百合ゆり

東條とうじょう蓮華れんげ

東條とうじょう陽太ひなた

東條とうじょう養波やなみ

東條とうじょういちご

―――――――――――――――――――

 スーパーの買い物を終えた菫と凛、そして夏蓮らは横に並び、東條家へと広い歩道を進む。車の訪れがほとんどない橙の景色は穏やかで、放課後遊んでいた少年少女たちも自宅へ帰ろうと足早な頃だ。

 ところが、菫と凛の間で進む夏蓮だけはどうも苦しそうだ。


「うぅ、うぅ~……くぅ~……」

「清水先輩、そんなに無理しなくても……」

「だいじょ~ぶ~……袋二つぐらい、わたしはだいじょ~ぶだから~……」


 まだ一歳満たない赤子の蓮華を背負いつつも心配する菫から苦笑いを、また凛から冷ややかな表情を受ける。

 敷き詰められた大きなレジ袋を運びながら、本日の練習よりももだえていた。自宅まで運ぶと自分の意思で決めたは良いものの、出発してから眉間のしわが取れず歩幅も狭いままだ。


「くぅ~……うっふぅ~……」

「か、片方持ちますよ。あたし、平気ですから……」

「平気~! わたしも、平気だよ~おうお~」

「顔に書いてないんですけど……」


 寡黙かもくな凛の突っ込みも受け、購入したフローラルシャンプーが入ったスクールバッグまでも肩に背負い、一つ上の先輩として胸を張ろうと試みる。が、張るどころか前傾姿勢になるばかりで、猫背が反って小さな背中をより強調していた。


「うぅ~……と、東條さんは、あとどれくらいなの~?」

「も、もう少しです。あそこの角を曲がればすぐです、けど……」

「あとも~少し~……だったら、余計に平気です~」

「敬語になっちゃってるし……」


 ショートラフとポニーテールに挟まれたふんわりボブには、もはや弾力もせかけている。部活動の練習で最も嫌いな筋トレすら頭によぎるが、諦めない気持ちを幼い胸に秘め、最後の踏ん張りを見せつけようと左角を曲がる。


わたしだってもう、高校二年生なんだから~はぁ~あぁ~』


「……し、清水先輩?」

「ふ、ふぁい?」


 何とか首だけ曲げて確認してみた。気がつけば、立ち止まった二人の一年生と距離を取っていたが、すると菫と凛がそろってそばの一軒家に指差す。


「あたしん、ここですよ」

「ここに東條家って書いてあるのに……」


 どうやら行き過ぎたと理解し、目的地に無事たどり着いたことで少女の微笑みがよみがえる。


「ご、ゴールだぁ……グズッ……ゴ~ルだぁ~~!!」

「し、清水先輩!? どうしたんですか!? 手痛めました!?」

「感極まっちゃってる……」


 相変わらず凛の引け目が続く中、突如泣き出した夏蓮には菫も驚く。

 なかなか泣き止まない二年生には表情がくもり、一年生の悩ましい眉が浮かんでいた。どっちが歳上なのか、どっちが上級生なのか、もはや見た目からも中身からもわからずじまいな光景だった。


「グズッ……良かった、良かったよ~お~」

「……あの、もし良かったら、うちで少し休みませんか? きっと運んで疲れてらっしゃるだろうし……どうせなら、夕飯ぐらい食べてってくださいよ」

「ゆ、夕飯……?」


 御飯の話になった刹那せつな、涙が止まった夏蓮の小顔が上がる。確かに空腹がいなめず、よくここまで御腹が鳴らず済んだものだった。


「い、良いんですか……?」

「もちろんです! 荷物運びの御礼、早速させてください!」

「……じ、じゃあ、ごちそうになります!」


 菫に対する敬語が浸透しているが、一応先輩の夏蓮はこころようなずき、二階建て一軒家の門をいっしょにくぐった。一応、先輩なのだが。



『あ、そういえば、東條さんって七人家族だったけ。どんな感じなんだろ……?』



 ふと思った一人っは疑問符を頭上に浮かべ、玄関を早速覗いてみた。垣間見かいまみるよう顔を隙間に移すと。



――ビュン!


「ブハァッ……」

「清水先輩!?」


 突発的に小さい何かが、夏蓮の顔に直撃してしまった。

 デッドボールのような痛さは全く無かったが、凛の前で思わず尻餅を着いてしまう。

 まず見えたのは、所々色がある白い紙の球だった。クレヨンの絵が描かれているようだが、何かまではわからないほど丸まっていた。


「こ、これは……」

「百合の絵……これで遊んでたんだ」

「ゆ、百合……?」


 球の紙を拾った凛に、夏蓮は座ったまま聞き返そうとしたときだ。



――「そんなっ! おれのイナズマトルネードキャノンを避けるなんて!!」

――「フッフッフ~。じゃあ次はうちの番! 必殺!! ラブリースターライトマシンガン!!」



「え゛……」

 今度は家内からとどろく少年少女の声に振り向かされる。玄関から続く廊下では小学生の男女が戦闘ヒーローごっこらしき遊びをする最中で、二人とも両手に紙の球を握っている。どうやら顔に投げてきたのは、あの少年に違いない。



――「まる~かいて~まる~っとっ!」



「あ゛……」

 また奥の部屋をうかがうと、幼稚園児服を着たが楽しげに絵を描いており、その辺りにも球が散らかっていた。きっと彼女が球の生産者で、恐らく失敗した絵を何枚も丸めたのだろう。


 玄関を開けたにも関わらず、東條家内の人間は誰一人も気づいていない。


 騒がしい様子を見せつけられた夏蓮は未だに立てず茫然だが、微動する後ろ姿の菫に視点が移り、嫌な予感を察知して耳をふさぐ。



「コラァァーーーー!! 椿!! 桜!! 百合!!」 

「げッ!! 姉ちゃんだ……」

「いつの間に……こりゃあマズイわ~……」

「あっ! 凛お姉ちゃんもいる~!! おかえり~!!」


 それぞれ異なった表情が菫に向かうも、怒りをしずめるまでは至らなかった。むしろボルテージを上昇させ、姉の怒号が更なる強靭きょうじんさをまとう。



「――散らかすなっていつも言ってるでしょうがッ!! みんなで今すぐ片付けなさい!!」



「……オギャア~!」

「あ……赤ちゃん起きちゃった……」


 蓮華が泣き出してしまったが、夏蓮にはあまりにも小さな泣き声にしか感じられなかった。なぜなら菫の叱った声に、耳を塞いでいたにも関わらず鼓膜こまくを強く刺激されたからだ。自分とは真逆に向かって放たれた声のはずなのに。



 ◇支えられて……。◆



 時刻は夜九時前。早寝早起きが原則である東條家の和室には既に布団が敷かれ、小学五年生の椿、小学二年生の桜、幼稚園年中児の百合、そしてもうじき一歳を迎える蓮華も凛と隣り合って横になる。


「凛も寝ちゃったか」


 和室を覗いた菫は、スヤスヤと眠る凛にほのかな微笑みを放っていた。

 正直、凛にはいつも感謝の気持ちがまないのだ。家族でない同級生なのに、いつも百合のお絵描きに喜んで付き合ってくれ、蓮華には毎日のようにミルクや添い寝までしてくれてる。

 一見、菱川凛という寡黙な少女は冷たい人間性だと思われるだろう。しかし根はとても優しく、か弱く幼い子にも快く接して笑ってくれるのだ。


 そのときに見せる小さな笑顔こそが、菱川凛の真の中身であり、彼女本人。


 小学生当時から付き合う菫だけが知る、大切な親友の本当の人間性である。背はとても小さい高校一年生だが、もはや理想の保育士にしか見えなかった。


「いつもありがとね、凛」


 眠っている今の凛にはきっと聞こえないはずだ。それを理解しながらも静かにささやき、感謝の意を込めて毛布を掛ける。最後に、明るいリビングと繋がる和室のふすまをゆっくり閉じた。


「……清水先輩も、遅くまで残ってもらっちゃってすみません」


 今度は台所で皿洗いをする夏蓮に、優しい微笑みと共に振り向いた。

 この前初めて出会った人なのに、荷物運びから始まり椿と桜たちと遊んでもらった。後輩なのかと椿に言われ、桜にも間違われて肩を落としていたが、二人といっしょに紙球で室内キャッチボールをしてくれた。

 楽しげに繰り広げてくれたことでお絵描き中の百合も加わり、弟妹たちはいつも以上に笑っていた。

 そして最後には、こうして家事まで協力してもらった。もはや頭が上がりそうにない、立派な先輩の一人だと心底しんそこ感じる。


「平気平気。帰りが遅くなることは、もうおじいちゃんに連絡したし。それにこちらこそ、夕飯ごちそうさまでした。東條さんが作ってくれた御味噌汁に肉野菜炒め、とってもおいしかったよ!」

「それは良かったです。また是非来てくださいね! きっと椿や桜も喜びますから」

「うん、ありがと!」


 笑顔が交わされる時間が、この東條家にたくさん流れる。騒がしいときだって多々あるが、最後には皆笑って屋根の下で過ごしている。

 凛や夏蓮にも支えられている喜びも、決して忘れてはいけない。一人でできない訳ではないが、真摯しんしに協力してくれること、何よりもそばにいてくれること、そんな平和で幸せな一時が、今では長女の菫にとって原動力になっている。


「……それにしても、東條さんたいへんだよねぇ。四人の面倒見てるなんて、わたしには真似できないよ」

「まぁ最初は苦労しましたけど、今は苦だと思ってませんよ。あたしは家族のことが、大好きですから」


「家族が大好きかぁ~。なかなか言えないことだよね」

「そう、ですかね? あたしはよくチビたちには言ってますよ。ちゃんと伝わっていれば良いんですけどね……」


 家族のことが大好き。

 それは今も昔も変わることがない、長女の心に備えた、確かな愛。

 菫は再び、弟妹ていまいと凛たちが眠った和室の襖に焦点を置く。姿が見えずとも透視したかのように、四人と一人の穏やかな寝顔を思い浮かべる。



『――誰一人だって、欠けてほしくない……そう、誰一人だって、欠けてほしくなかったんだ……けど……』



「そういえば、東條さん?」

「は、はい?」


 ふと微笑みが消えかけたが、れた手をく夏蓮から目をすぐ合わされた。どうやら皿洗いが終わり、自身のハンカチを手に持ち近づいてくる。


「東條さんは今まで、何か運動部やってたの? ほら、この前ボール返してくれたとき、スゴく良いボールだったからさ」

「……え、いや、あたしそもそも部活動に入ったことないんですよ」

「えっ! 経験者じゃないのに、あんな良いボール投げられるの!?」


 驚きで手を拭く動作も止まった夏蓮に凝視ぎょうしされたが、部活動やクラブに入ったことが皆無な菫は戸惑って頬をく。


「ま、まぁ……運動とか体育は前から好きだったから、でしょうかね~」

「そうなんだぁ~! 運動神経が良いなんてうらやましいなぁ。はぁ~……それに比べて、わたしは……」


 小さな先輩はふとうつむき、自嘲じちょう気味に笑う。


「唯ちゃんみたいな力はないし、叶恵ちゃんみたいな足の速さもない。柚月ちゃんみたいに戦う頭脳もなければ、きららちゃんと美鈴ちゃんみたいな大声も出ない。“君はソフトボールや運動に向いてないんだ”って、ソフトボールの女神様に言われてる感じだもん……エヘヘ」

「清水先輩……」


 笑って誤魔化ごまかそうとした夏蓮からはどうも悲哀ひあいを感じた。自分自身全てと他者の良き一部を比べることは、個性という概念がいねんを抱く人間ではまさる訳がないというのに。



「……でも、そんなわたしでも、諦めたくないんだ」



 悲しんでいるだろうと心配していたが、向けられた夏蓮の瞳には温度が観察できた。情熱に燃えた真っ赤な炎までとは及ばぬが、誰かをそっと照らしてくれる、小さな灯火ともしびのように見て取れる。


わたしはね、ソフトボールが大好きだから」

「大好き……?」


 小首を傾げた菫に夏蓮はうなずく。



「――みんなとやるスポーツ……みんなといっしょに、同じ目線でいられるソフトボールが、わたしは大好きなんだ。確かに下手っぴで迷惑ばかりかけてるけど、みんなとソフトボールやってるときが、一番楽しく思えるからさ」



 部活動経験など今までなく、集団スポーツだって体育の短い授業時間ぐらいでしか覚えがない。義務化されたソフトボールではあるが、そこまで強い興味を抱いたこともない。

 しかし一方で、本日目前に現れてくれた小さな先輩には、自然と親近感がいていた。



『――そっか。清水先輩は、大切な誰かといっしょにいるときが、一番幸せだって感じられる人なんだ。あたしと、同じように……』



「何だかあたしたち、似てますね」

「えぇ!? わたしと東條さんが!? そんなそんな、理想のお姉ちゃんな東條さんと、おチビの一人っわたしが似てる訳ないよ~!」


 声を張り上げ否定されたが、笑顔を向け続ける菫は間違いなど思わなかった。

 見つけたからである。



――自分はたくさんの家族と、夏蓮はソフトボール部の仲間と、いっしょにいることが何よりの幸福だという共通点を。



 立場は異なるが、よく似た愛の形。おおやけにできない恥ずかしさなど感じる間もない、揺らぐことなき確かな愛心まなごころだ。


「……? そういえば清水先輩、まだおうちに帰らなくて大丈夫ですか?」

「へ……アァ~!! もうこんな時間なの!? 明日も朝練なのに~!」


 皿洗いを一生懸命やってくれた表れだろう。時間を忘れていた夏蓮はマズイマズイと声を荒げつつ、帰宅準備に取り掛かる。制服上着に手を通し、ほどいた青リボンを縛り直す。スクールバッグをさっとかつぎ、玄関先に向かった。


「清水先輩。ホントに今日は、何から何までありがとうございました」


 見送ろうと玄関に訪れると、革靴を履き終えた夏蓮が笑顔で振り向く。


「ううん。わたしの方こそ、反って迷惑掛けたと思う。だからありがとね、東條さん」

「いえいえ……また是非、来てくださいね」

「うん。じゃあ、またね」


 ドアが開けられ、訪問者の制服姿が東條家から消えていく。一つの音が無くなっただけで、さっきまで本当にいたのか疑わしくなるほど静けさが拡がった。


 菫の瞳には、明るく前向きに去った夏蓮の笑顔が焼き付いていた。歳上の先輩とはあまり接した経験もないだけに、本日は新鮮な一日だったと身に染みる。


『清水夏蓮先輩か……きっと先輩がいるソフトボール部、とても楽しいんだろうなぁ。一人一人が大切で、家族みたいな感じかなぁ』


 一度しか見たことがない笹二ソフト部のイメージをかたどり、玄関ドアに背を向けてリビングに向かう。もうすぐ共働きの両親が帰ってくる頃だと、緑のシュシュを外してポニーテールを解放し、テーブルに二人の晩御飯を準備する。



『――笹浦二高女子ソフトボール部……いいなぁ』



――ガチャッ。


――「「ただいまぁ~」」

「あ、お父さんお母さん、お帰り。お勤め御苦労さま」


 再びドア音が鳴り響いた瞬間、菫は陽太と養波の帰宅を早速玄関先で迎え入れた。二人共同じ職場で働く同士で、揃って黒のスーツを身に纏っている。


「あら、凛ちゃんも来てるの?」


 ふと養波が足元に置かれた小さな革靴を見つけると、嬉しいままに頷く。


「今日も手伝ってくれたんだ。もう寝ちゃってるから、泊めてあげていいでしょ?」

「もちろんよ。ねぇお父さん?」

「あぁ。いつものことだし、ぼくらは大歓迎だよ」


 家族の一員として扱われている凛をすぐ受け入れ、両親は部屋着に着替えてテーブルへ向かい、菫の前に座って食事を始めた。


「相変わらず、今日も美味しいなぁ」

「うん。菫ったら、また上手くなったわね」

「いやいや~」


 照れくさく頭を掻いて応答したが、これも東條家にとってはいつもの日課。朝から晩まで仕事で忙しい両親のため、家事全般は基本的に菫が任されている。弟妹の四人もまだまだ幼いだけに、子たちの世話面倒まで。


「……あ、あのさぁ……」


 ふと下を向いた菫に、食事中の二人が微笑んで目を向ける。


「どうしたの?」

「……あのさ、別に決まった訳じゃないんだけど……」

「何かあったのか?」

「……その、さ……」


 晴れぬもどかしい表情が継続する。二人には見えないテーブル下で制服スカートを強く握り締めていたが、菫はダメ元でと思いながら、固唾かたずを飲み込む。



「もしも……もしもだよ? あたしが、部活をやりたいって言ったら、二人はどう思うかな~って……」



 せっかく上げた面を再度下げてしまう。が、両親の暖かな視線を感じとり、上目遣いで窺うと。


「ぼくは大歓迎だよ。やりたいことあるなら、是非やれば良いじゃないのかな」

「ほ、ホント……?」

「あぁ。母さんはどうだ?」

「わたしも反対はしないわ。ただねぇ……」


 意外過ぎた答えに漠然ばくぜんと聞き返したが、養波は言葉尻に和室の襖に横目をる。



「――あの子たちの面倒は、やっぱり優先してほしいかなぁ……」



「……そ、そうだよね! ハハハ。ごめんね、変なこと言って……」


 苦笑いで済ませたが、弟妹たちを優先したがる母の気持ちも察していた。

 彼ら彼女らがまだまだ幼いことが理由だ。ヤンチャな椿と桜から目を離したら何するかわからないし、遊び盛りな百合やオムツの取り換えもある蓮華だって同じだ。


 まだ自立にはほど遠い弟妹たち。しかし菫は、四人に家内を散らかして欲しくないからと懸念している訳ではない。


 “何をするかわからない”――つまりそれは“何が起こるかわからない”ことを意味するため、ひたすらに心配しているのだ。



『もう、誰一人も失いたくないから……部活なんて、やってる暇なんかないんだ……』



「ゴメンなさいね、菫。あなたには本当に、いつも感謝してるわ」

「気にしないで、母さん。あたしだって、母さんと同じ気持ちだからさ……」


 陽太からも悩ましい視線を受けた。静かにリビングから退出し、とある一階の小さな小部屋に向かう。

 一人部屋としては十分な広さで、フローリングが敷かれた室内のドアを開ければすぐに目的物が視界に入る。今日も線香の煙が沈黙の中で舞うが、そこでは闇夜の中でともされた小さな顔写真が鮮明だ。



『今度はあたしの番なんだ。妹から、姉になった者として……』



 覚悟を保った凛々りりしい微笑みで、顔写真の娘と目を合わせる。



『――今度は、あたしがみんなを護らなきゃだもんね……苺お姉ちゃん』



 菫が見つめる先には、“東條苺”と記された女子小学生の顔写真が、仏壇で静かに笑っていた。

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