第18話 上毛傀儡新聞 ―誤報記事誕生の真相―

 第11話「上毛新聞社側の提案」において言及したが、上毛新聞は取材を行わず、個人へのインタビューのみを頼りに記事を仕立てることがままあるようだ。

 その事実は、母が何度か上毛新聞に通うことで明らかになったことだ。個人的な体験談、たとえば空襲や震災などのインタビューというのはどの新聞にも共通して載るものだが、上毛新聞が異質なのは、壊滅的な戦災や震災などと違い、取材をすればその過ちに気づくようなことを、なぜか無取材で世に出してしまうことである。


 一面焼け野原で、書類も建築も何もかもなくなってしまった空襲なら、もはや人に聞く以外の取材方法はない(それでもまっとうなメディアなら複数人に聞き取りを行うだろう)が、今回の火事には目撃者は大勢いるし、警察や消防も調査をしている。何よりただ延焼に巻き込まれた我が家族もいるというのに、何を錯覚したのかT記者はk氏以外への取材を行わず、あの記事を出したのであった。


 母は上毛新聞社が記事を作成する一つの方法を、抗議を通して明らかにしたわけだが、その過程において、2016年2月13日(土)の誤報記事が誕生した背景をも同時に明らかにした。


 発端は、本作においても何度か取り上げた2016年1月10日(日)の火事を伝える速報記事である。この記事は、多少気にかかる部分はあるが、即日出た記事としてそこまで問題はないように思えた。「全半焼」というのもわが家が全焼、k氏工場が半焼(k氏宅は炙った程度だが)と考えれば納得がいく。現場を見た人は、おそらくある特定の集団を除いてこの記事を誤ってるとは言わないだろう――、

 

 結論から言ってしまえば、ある数人から成る集団が、この1月10日の真っ当な記事に抗議をしたため、2月13日の誤報記事が出されることになった――というわけだ。

 ある集団というのはもちろん、この記事の記述を批判する数少ない集団であるk氏たちのことである。上毛新聞社の記者によれば、k氏は「工場から出火した」という部分は、未だ警察の調査によって火事の原因が明らかになってないのだからと主張し、上毛新聞社へと抗議を行ったという。


 つまり、上毛新聞はk氏のでたらめな主張に完全に迎合し、媚びへつらうかの如く2月13日の誤報記事を仕立て上げたのである。k氏の妻に至っては「k氏の工場と我が家の間から火が出た」などと主張しているらしい。我が家で最初に燃え尽きたのは本や紙類、木製の家具と洋服くらいしかないはずの私の部屋であったが、どうやらk氏の妻は、多くの機械類や原料となる金属、工業用の油の存在するk氏工場と、台所から程遠い、私の部屋かその下の部屋から発火する確率が同等であると信じているようだ。

 そんな主張を信じるのは世に上毛新聞くらいのものであろう、記事の該当部分を改めて見てみたい――、

「出火時、家にいた正江さんが外に炎が上がっているのを発見して。慌てて119番通報したが「早く来て」と叫んで住所と社名を言うのがやっと。家庭用ホースの放水では歯が立たず、熱気にあおられ避難した」

 ――「外に火が上がってるのを発見して」と、k氏の主張通り火元に関する記述がぼかされているのが解る……、しかし、明らかにおかしくないだろうか、k氏の妻は「早く来て」と自分の住所と社名を告げ、「しばらく顔のやけどにも気付かなかった。そのまま1週間入院した」とあるように捨て身で消火活動を行ったわけである。

 …………どう見ても自分の敷地が燃えはじめた時の対応ではないだろうか。

 そもそも私の父が避難し始めた時には、我が家は煙に巻かれた程度で燃えてなかったのだから、正常なら間違いな気付きそうなものに思えるが、群馬一番の新聞はk氏の主張に従ったようだ。



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