第12話 ※番外編2 郷土研究に見る上毛新聞の誤報

 みやま文庫という叢書(本のシリーズ)がある。群馬県に関係する研究や著作を扱う叢書で、こういった郷土を扱った出版物には珍しく会員制という形を取り、年四回の配本によって良質の本を群馬県内の会員を中心に世に送り出している。


 平成15年から一般発売(会員価格よりは高いが)が開始されたため、昔ほど手に入りづらいものではなくったが、群馬県内の限られた場所でしか手に入らないので現在でもその希少価値は高いと言えるだろう。去年の三月、教えを受ける先生から大量に本を頂くことがあり、その中の一冊にみやま文庫『戦争と群馬―古代~近代の戦場と民衆―』が含まれていた。


 興味のある古代と中世の箇所を読んだあと、しばらく置いておいたこの本であるが、火事から数日経過し、取り敢えずの放心状態から立ち直り震災や戦災関係の本に救いを求めた際、再び手に取ることになった。

 

 必然的に共感しやすい時代である近代の部分に注目したのだが、そこに問題となる記述があった。菊池実氏によって書かれた「第四章近代の戦争、四節中島飛行機太田製作所に対する米軍艦載機空襲」という節である。


 この節では、1945年(昭和20)2月16日、米海軍機動部隊の空母搭載艦(艦載機)による太田市の中島飛行機製作所空襲が扱われている。民間人や工員に甚大な被害をもたらしたこの空襲だが、足利の渡良瀬川中州付近において行われた対空射撃によって米軍機を二機撃墜したという。

 『上毛新聞』(1945年2月18日)は、この対空射撃によって撃墜された機体を「グラマンF6F」と報道したそうだが、菊池氏が実際に種々の文献と米軍報告書を照らし合わせた結果、撃墜されたのは第84雷撃飛行隊のグラマンTBMアベンジャー1機(乗員3名)であることがわかったという。

 

 この記述を読んだ時、上毛新聞はまだ例の致命的な誤報を県下へ発信してはいなかった。私としても『全半焼』という記述にひっかかりはあったが、まだ良く知った地方新聞社程度の認識であったため、あくまで本の一文として捉え、「戦時下であればこのような誤認は仕方がない」といった感じで納得したのを良く覚えている。


 しかし、僅か数瞬間後に、この時読んだ記述を鮮烈に思い起こす出来事が起きた。2月13日の上毛新聞の誤報を知った数瞬の後、自然とこの文章が脳裡に浮かんだのであった。


 昏迷を極めた戦中であれば、このような米軍機の種類程度の誤認は、あるいは仕方がない事なのかもしれないが、あらゆる伝達手段が発達しきった平成28年において、先日のような誤報が起きるとはやはりどうしても考えづらいのである。

 この70年間、上毛新聞は進歩することはなかったのであろうか。いや、前回の番外編で挙げたように、かつては優れた記事を県民に発信したこともあったはずだ。

 しかしながら、長きにわたる寡占が今回のような過ちと、過ちを決して認めない増長を招いた面はある。上毛新聞の誤報に巻き込まれなかった群馬県民は、今後もこの新聞を盲目的に購読し続けるのだろう。





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