ちょっとした嫉妬事情

なつのみ

変わった?

「真里ー隼人とは最近どうなのよー」


日曜日の晴れた午後、私と茜は駅前のカフェでおしゃべりをしていた。

真里とは私のことで一緒にいる茜はちょっと勝気な幼馴染。

高校2年生でもうすぐ夏休みに入る。

今日の午前にメールが来て一緒にお茶をしようと言われた。


「どうっていつもどうりだよー」


私と会っても去年から茜は私の彼氏の隼人の話ばかりする。

そう、いつもどおりの隼人の話。


「だって日曜日なんだから私なんかよりも彼氏の隼人くんと一緒に遊園地とか行ってくればいいじゃないの」


口を尖らせ拗ねたように茜はコーヒーのストローを回している。

これもいつものこと。

ここに誘ってきたのは茜の方なんだけどね。

話を合わせるんだけどそれがわかってるのかわかってないのかさっぱり。


「そうだなぁ・・・最近隼人から誘ってくれる機会が減ってるかなー」

「えぇ!?こんな可愛い彼女ほっておくほど何かすることでもあるって言うの」

「ちょっと、大きな声でやめてよ。それにそんなに可愛くないってばー」


茜のジト目の視線が鋭く刺さる。

別に自分に自信があって隼人くんに告白したわけじゃないとはおもいつつなんだかんだ照れてしまう。


「真里ぃ・・・あなた彼氏が出来たことない私からすればあなたがどれだけ羨ましいことか。しかも相手が隼人くんだなんて」

「隼人は普通の男の子だもん。それに茜だってかわいいからすぐにいい人見つかると思うよ!」

「・・・別にいい人は見つからなくていいんだよ」


ふてくされてぶっきらぼうに言う。

あれ?先月は「いい人を見つけてたら真里とこんなはなししてないよー」とか言ってたのに。


「どうかしたの?」

「あ!そうだー暇つぶしに隼人にちょっかい出してみない?」


茜は手をたたいてそんなことを言う。

ちょっと乗り気ではない。

隼人は今日、なにやら忙しいことがあるみたいで昨日以降連絡がなかった。


「うぅん・・・私は嫌だなぁ・・・」

「なによー少しくらいで関係崩れたりしないって!ちょっとだけ!」


顔の前で手を合わせて片目をちらっと覗かせている。

茜も私も暇なんだけど隼人くんはそうじゃないかもしれない。


「邪魔にならないかなぁ・・・」

「もうっじゃあ私が電話する」

「えーちょっと茜ぇ」


正直隼人くんが何をしているのか気になっている。

茜はわがままだけど私も子供っぽいかな。

隼人くんと付き合って半年くらい。

茜に付き合ったことを話したときは泣いて喜んでくれたっけ。


「ちょっといまかけてるから、静かにしてて」

「も、もうっ」


茜とは小学生の頃からの仲良しで昔も今も変わっていない。

だからこう頑固なのは知ってる。

一度決めたら譲らないのは仕方ないけどこういう時は困るよ。

私は茜には力で勝てないからおとなしくしてるしかないんだけど。


「あーもしもし隼人くん?調子はどう?」


携帯からかすかに隼人くんのような声が聞こえる。

少し声が高いような気がするけど気のせいかな。

何を話しているかはわからない。


「そうそう、いま真里と一緒なんだけど代わろうか?」


茜はにやにやしながら私の方を見ている。

ムスッとしていた私だったけどつられて笑ってしまう。


「え?いいの?代わらないでいい?」

「え・・・」


うそ、なんで?

「あーうん。それはごめんって。んー戻らないよ。だってそれはあんたが悪いんだもん」

「なに?どうしたの茜」


私は隼人くんが私と通話するのを拒んだことにひどく絶望した。

なんでだろう。

風邪をひいているから?

確かに電話の向こうの彼は声が少し高い。

何を話しているのかは聞こえないけどあまりいい雰囲気の会話ではない。


「うん。わかった。じゃあ切るわね」


ふう。と茜はため息をついた。


「ねぇ、なんだったの?」

「隼人くんが電話じゃなくていますぐ直で会いたいってさ」

「そんな話ししてたの?」

「それだけだよ。早く愛しの隼人くんに会いに行ってあげなよ」


茜はニコニコしている。

たぶん喧嘩ではないんだろうけど隼人くんが心配になってきた。


「うん。きょ、今日は誘ってくれてありがと・・・」

「こちらこそーなんか来たばっかりだけどまた誘うからね」

「うん」


私は店を出て隼人くんの家へ急いだ。


インターホンをならす。

ピンポーンと呼び鈴がなったあとすぐに声がする。


「はーいどなたですかー?」

「あの、柊 真里です。隼人くんに用があってきました」


ドアが開いて隼人くんのお母さんが顔を出す。


「いらっしゃい真里ちゃん。隼人からはなにも聞いてないんだけど呼んだほうがいい?」

「え?うーんと・・・お願いします」

「はいはいっと」


隼人くんのお母さんは笑顔ですぐ近くの階段を登っていった。


「あがってきてってさ。なんかあの子今日は顔見せてくれにのよ。あとでお茶もっていくわね」

「ありがとうございます。おじゃまします」


軽く会釈をして階段を登る。

隼人くんの家には一ヶ月前に来て初めてを捧げた。

それ以来だから変わっていない。

コンコンと隼人くんの部屋をノックする。


「入って・・・」

「え、う、うん・・・」


妹がいるって聞いてないけど・・・女の子の声がした。

まさかとは思うけど。


「お邪魔します・・・」

「ひぐっ・・・」

「え?ひゃぁっ!」

「真里ぃーーーー!」


私よりも小さい女の子が抱きついてきた。

お腹に顔をうずめている。

髪の毛は短かく服はヒラヒラしたワンピースを着ている。

しかもこの部屋は隼人くんの部屋。


「ちょ、ちょっとあなたは誰?」


ガシっと抱きつく力を強められた。

震えてる?

「わたし・・・は・・・」

「わたしは・・・?」

「わたしは隼人・・・」

「隼人くん!?」


まさかと思っていた。

喋り方は弱々しいからわからないけど隼人くんだとすると髪の毛の長さは確かこれくらい。

服の大きさも恐らくこれくらいだと思う。

でも、信じられない。


「真里ぃ、信じてくれる?」


うずくめていた顔が私の方を見上げる。

その女の子は中学生くらいの幼い顔立ちをしていて隼人くんの面影を残していた。

妹がいればこんなかんじみたいな。


「うーんと・・・隼人くんの妹に見えるなー」

「わたしに妹はいない・・・」


涙目。

声が震えていて情緒が不安定なのかな。

隼人くんと確認が取れる情報・・・。


「私の誕生日は?」

「3月3日だよ」


知ってる人多そうだなぁ・・・。

でも覚えてくれているのは嬉しい。


「隼人くんの人に言えない性癖は?」

「・・・天然巨乳女子大生」


あっ。


「隼人くんだ・・・!」

「ちょっと!!」


怒った。

かわいい。

たぶんだけど隼人くんだこの子。

ちっちゃくなっちゃったなー。

なんて以外に冷静な自分。


「それよりどうしたの?その格好。」

「あれ?案外普通に受け入れるんだねこの現状」

「だって隼人くんの話は信じたいし」

「性癖で確定されるのも悲しいな・・・」


そういうもんなの?

あ、なんで女の子になってるのか聞きたい・・・。


「それでこれはどうしたの?」

「う?・・・実は昨日変な夢を見てね・・・」

「夢?」

「夢だと思う。あんな怪奇な現象夢に決まってるよ・・・だけど」

「だけど?」

「さっき茜から電話が来たんだよ。真里も近くにいたんだから知ってるよね」

「うん。それがどうかしたの?」

「それが・・・どうやらわたしがこんなふうになっているのは茜のせいかもしれないんだよ」

「え・・・どうして?」

「電話で話していて確信した」

「茜と何を話してたの?」


これも気になっていた。

先ほどのやり取りは喧嘩なのかな。

茜と隼人くんに接点があったのなんて知らなかったけど。


「夢のような昨日の夜、茜から電話が来たの」


隼人と茜の電話の内容


学校の中間テストが二週間前を切ろうとしていた。

今日の俺は彼女の真里とは出掛けずに塾へ足を運んで試験対策をしていた。

ほどほどの学力をキープして内申をとっておけば入りたいところは受かりそうだ。

進学先が男子生徒率が高いため真里にはおすすめしたくないし真里には好きなところへ行って欲しいから彼女から決めるまでは俺は進学先を教えないようにしている。

家に帰り先程まで電源を消していたスマホをカバンから取り出す。


「真里からと・・・んーっと、めずらしく茜からLINE来てんな。」


真里:お勉強お疲れ様ー(´∀`)明日どこか行く??

隼人:おう、ミスドでもいくかー


こんな感じで返信。

付き合って日が経ったが女の子との会話にやっと慣れてきた感じがするな。

クラス男子グループなんかエロい話ばっかだもんな。

真里に比べて気兼ねなく話せるからいいなんて思った時もあったっけ。

付き合い始めは気の使い方とかわからないもんな。


茜:隼人くん、話したいことがあるから暇があったら電話してくれない?

その点茜みたいにクラスの男らと普通に話せるあいつにアドバイスもらったり助かってたんだっけ。

さて、特にすることもないから茜に電話してもいいけど・・・なんのようだろうな。


茜に電話をかける。

ひとことラインで電話するとか言っておけばよかったか。


「もしもし、茜か?」

「あ、隼人くん・・・」

「なんだー?いつもの茜らしくないぞ?」


いつもの茜は活気があってこんな弱々しい口調ではない。


「あ、あたし聞いちゃったんだよね」

「ん、なにをだ?」

「隼人くんと・・・真里がきっ・・・きすしたっていうの」

「あーしたよ、付き合って長いあいだ経ったししてもおかしくないとも思うがそれがどうかしたのか?」

「あたし、もうだめなの、抑えられない。初めて見た時からも今も隼人くんのことがす・・・」

「おいおい、ほんといつもの茜っぽくないってば」

「隼人くん!あなたのことが好きだったの!!」


耳元でめっちゃさけばれた。

すごい声がわれたが何を言っていたのか理解できた。


「俺のことが好き?」

「・・・うん。初めて見た時から」

「そんな、俺には真里がいるから無理だっていうしかないぞ」

「そう、なんだけどさ・・・あたしもう我慢できなくって。真里に隼人くんの全部を持っていかれるような気がして」

「俺は友達だと思ってるよ。真里とのあいだで色々アドバイスくれたじゃないか」

「あれは隼人くんとおしゃべりしてるだけで心が洗われたっていうか、近くにいたかったっていうか」


正直驚いた。

こんな女の子らしい茜と話しているいまが現実ではないようだ。

もっと男勝りで恋愛なんて単語が似合わないといっちゃかわいそうだけどそんなイメージは沸かなかった。

俺はどう反応すればいいんだ?

「だ、だがな・・・」

「わかってる。真里がいるからあたしと付き合うなんて無理。しかも隼人くんには真里のことが好きだって気持ちもある。だからこうするの」

「こうするって・・・?」


キーーーーンと近くで高い機械音がきこえた。


「うっ・・・」


いきなり頭がぐらんと揺れたように意識が飛びそうになる。

強い眠気か?

眠くはない。

しかし身体が自由に動かない。

近くにあったベットに倒れる。

がちゃっと目の前のクローゼットの扉が開く。


「隼人くん・・・」


まさかクローゼットの中にいたのか。


「ぐっ・・・不法侵入だぞ」


声は出るようだ。

しかし痺れたように身動きが取れない。


「あたし、隼人くんのことが好きなの。でもね電話でも話したように真里が邪魔なの」


横たわった俺の顔に手を添えてきた。


「あたしが報われるにはこうするのがいいの。優しい隼人くんならわかってくれるよね」


茜の手が光っている。

そこから照らされる頬のあたりがむず痒くなった気がした。


「かわいい。やっぱり元がいいとこうしてもかわいくなるんだね」

「なんのことだ、こんなことしてだだで済むと思うなよ」


いまは身動きが取れないが拘束のような痺れが取れたらすぐに通報して社会的に落としてやる。

友だと思っていたがこいつは少しおかしい。

俺のことを好きだたとしてもストーカーじみたこの行動は行きすぎだ。


「そんな強気なとこもあたし好きだよ。でもね、男のままじゃまだ真里と離せられないんだ。まずはゆっくりと変えていってやるよ」


光っていた手から優しい温もりが直接脳に送られているような感覚。


「な、なにをするんだ?なんだか怒りが勝手に収まるようなこれは茜の仕業なのか?」

「もうちょっとかな」

「なにがもうちょっとなの?あ、あれ?大きな声が出せない・・・叫ぼうとしたのに」


なにがもうちょっとだ!と威嚇しようとしたが弱々しい言葉しか出せない。

なんなんだこれは・・・。


「女の子みたいに喋ってみて?」

「やだよ、なんだよいきなり」

「・・・無理やり送られるよりいいでしょ・・・お願いだから素直に従って」

「は?さっきからほんといみわからないよな。ほんとにどうしちまったんだよ・・・」

「・・・もういいや、めんどくさくなっちゃった」

「え?」


さきほどの感覚がすごい速さで脳に流れてくる感覚。


「ごめんね隼人くん。でもね、あなたが悪いんだよ」

「な、なにこれっおかしくなりそう!!」

「もうあたしの知ってる隼人くんはいらない。真里から隼人くんを奪えるだけでいい。あたしに優しかったはやとくんなんてはじめからいなかった」

「な・・・何を言ってるの?あかね・・・」


ムニっと胸のあたりの服を押すようなかんじがあった。


「おっぱいがふくらんだ」

「え?俺に胸が・・・?」


体が動けず視線を動かすことしかできなかった。

そしてしたを向くとそこには乳首が尖って服に出っ張りを作り柔らかそうな肉の塊の形に服が盛り上がっていた。


「いっ・・・いたいっ!!」


関節がギシギシと軋む痛み。

ほんとうに何をされたのかわからない。


「女の子になるんだよ。これから。あたしが無理やり変えてあげたの」


痛みが強くなり目を閉じて歯を食いしばる。

とてつもない痛み。


「もう痛くてたまらないかもしれないけどいっかい気を失って目が覚めるまでには暗示をかけて生きやすくしてあげるから安心して」

「くるしい・・・」

「ほんとうに無理にしちゃったな・・・従ってくれないもんだからついかっとなって」


ゴキっと骨がなった。

女の子になるとか言ってたけどそれくらいでは済まなそうじゃないか?

死ぬんじゃないか?

そう思ったあと、大きな骨の音が頭の近くで鳴る。


そのあと朦朧としていた意識が完全に飛んだ。


「はぁ・・・はぁ・・・」


声がへんだ。

茜になにかされて・・・。


「女の子みたい」

「へ?」


茜が覆いかぶさっていた。


「ほら・・・」

「んっあっ・・・」


なんか背筋を撫でられて鳥肌が一斉に立った。


「敏感な部分のここも」

「きゃっ・・・え!?」


声が女の子のようで今のは喘ぎのような・・・?

「おまんこにしちゃったの、隼人くんの大事なところ」


本当のようだ。

感覚が無く触られた感触は男のそれとは違っていた。


「な、なんでこんなことを!?」

「それは真里から離してあたしのものにするため。わたしの妹のようにしちゃおうと思って」

「んぁっきゃぅぅ・・・」

「体も小さくしちゃった。小学生みたい。そして女の子に。心もだんだんと身体に馴染んでいくようにしたの」


男だった感覚がわずかしか感じられない。

茜が大きく見える。


「隼人くんは明日にはもう記憶はあるけど女の子みたいな思考に変わっちゃってるんだよ」

「いやだ・・・」

「ごめんね、でもあたしはどんなかたちでも隼人くんが欲しかった」

「ゆるさない・・・」

「そんな気持ちもいまだけしかできないの。あたしを実のお姉ちゃんのように慕う妹、そう記憶の根元に植え付けちゃったから」


俺はどうしてこうなったんだろう。

意思とは無関係に相手に体を変えられ、記憶や精神までも操作されて・・・。

呪うこともできないのか。

真里に対する気持ちが異性としての好きっていうのが思い出せなくて近所の優しいお姉さんのような。

これも書き換えられたのか。


「・・・」

「お勉強大変だたでしょう?今日はもうおやすみ、明日また会おうね」


一瞬の出来事だった。

時間は帰宅してこの部屋に入ってちょうど2時間経ったくらいか。

気を失ったのは本当に短い時間だったんだな。


おでこをぽんぽんと叩かれた。


茜おねえちゃんに言われたとおりわたしはもう寝ようかな。

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ちょっとした嫉妬事情 なつのみ @Natsunoming

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