第二編
わらえれば 01
0
アナタはイマ、笑えていますか?
アナタはナゼ、笑えていますか?
ソレを考えたことは、ありますか?
1
「ひゃっほおおおおーい!」
と、そんなこの世のものとは思えない、ついでに理性ある人間が発したものとも考えたくない雄叫びを上げて全力疾走ののち結構な高さからジャンプとかいう、もはや理解しがたいという状態すら通り越した行動を僕自身が実行している、その、ほんの少しだけ前。
僕は──人生最大の勝負に臨んでいた。
2
「なあ、これ、ホントに大丈夫なんだろうな……」
季節は春、5月某日のことである。
場所は砂浜、波打ち際から3メートル。春の穏やかな海が、それでも波の音を絶え間なくこちらに向かって飛ばしてきている。入学式のころより若干火力を取り戻して、ここぞとばかりにワイシャツ越しに軽く肌をあぶってくる、空に輝く春の太陽と、ぱちぱちと時折爆ぜながら燃える炭の音の中。
僕は、その物体と対峙していた。
「大丈夫大丈夫。ほら、あれだぞ、採りたてだぞ?」
「火も通してある、から。死にはしない、と思う」
仲間たちは口々にそう言い、僕にそれを摂取することを促してくる。
「そうですよ
後輩までそんなことを言って、軽快な口調とは裏腹な不器用な笑顔とジェスチャー付で僕の背中を後押す。
というか物理でぐいぐい網の上で焼けているそれに近づけようとしてくる。
「いや、そういう問題じゃなくてだ。これは火を通したぐらいで食えるようになるモノなのか、ということをだな……」
僕の視線の先にあるそれはなにせ、黒いブヨブヨメインに、白い硬質がそれを覆っている、長さ十センチ、直径五センチの謎の物体である。ほらあれだ、見るからに磯の生物って感じ。
「あー、ったく、つべこべうるせーな。さっさと食えよ、
「一応聞くが、
「うん? 無毒化」
「やっぱ毒あるんじゃねーか!」
「ふう……。冗談だぜ?」
「なあそのやれやれ、みたいなジェスチャー止めてくれないか……心、折れそうだ」
「「「……ふう」」」
「三人同時か!」
一斉に放たれる心理攻撃。やれやれポーズ──両手を肩の高さで広げて首をふるアレの同時炸裂で、僕の心は折れるどころかもう粉々である。再起不能、うん、精神的に。
ていうかお前らこういう時だけ息ぴったりだよな! そんなに僕をいじめるのが楽しいか!?
「もういっそ、肉体的にも再起不能、とか。どう?」
「おいこら、
18年近い付き合いでもやっていいことと悪いことがある。ていうか出来ていい事と悪いこと、か? なんというかこう、人類的に。
「ねえ、
「……なんだ、後輩」
そしてお前はそんな北欧はフィンランドあたりにいそうなカバっぽいあの生物を呼ぶときのニュアンスで僕を呼ぶな。うんまあ、ご要望にお答えしてそっち向いてやるけどさ。
「別に、私としては毒があっても無くても先輩がダメージを受ければそれで満足なんですけれどね……」
「うん今お前さらっと酷いこと言ってるからな?」
「肉体的でも精神的でもなんでもいいですし、欲を言うなら両方セットで、さらに神経系あたりにダメージを負うと、その朴念仁な性格が少しでも改善されるかもしれないからいいかも、とか思ってるんですけど」
「なぜより細かくエグイ希望を提示した!?」
翔講館生徒会ニュース速報。会長たる僕のささやかな
心の中でそんなニュースを捏造して平静を保とうとする僕に関係なく、友香は続ける。
「でも、一つだけ言わせて貰うなら」
「言わせてもらうなら……なんだよ?」
僕はゴクリと息をのみつつ、恐る恐る尋ねてみた。
「──ごちゃごちゃ言うのもいい加減にしやがってくださいね?」
返ってきたのは、ニッコリ笑顔と裏腹に実にドスの効いた声だった。そして、内側に光のない、濁った瞳が僕を映している。
「怖いな!? そしてなんだ、お前ホントに僕の後輩か?」
なんだ。この十五分足らずの間で僕たちの間に何があった?
「いいんですよ先輩。だって──勝ったのは私ですから」
自身に満ちた声と表情で、友香はそんな言葉を口にする。
「ああ。そう、だったな……」
自然、思い出す。つい先刻の、あの陰惨な戦いのことを。
そう、彼女は勝利したのだ。
それに勝利した者は、あらゆる条件の下その権力の絶対を許される。
普段先輩と後輩の間柄、会長と副会長の関係だろうがなんだろうが、そんなものは関係ない。
勝者は敗者の上に立つ。
それがあらゆる勝負の摂理であり、こと今回の戦いにおいてはそれはさらに揺るぎのない現実となる。
なぜなら──
「「「王様の言うことは──絶対」」」
それが、この
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