異世界で世界構築ライフ!
くれはちづる
第一章 異世界訪問!
第1話 異世界と現実世界
今日も俺は、鏡に向かって念を込めた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「コネクト」
目を瞑り、手を前にかざす。
少し不思議な感覚が、俺の体を襲った。
立ちくらみのような感覚。
そのまま、体も意識も空間に任せ、俺は吸い込まれるように意識がなくなった。
☆
「あ、ようやく来た。待ってたんだけど?」
気が付くと、上から女の子が俺の顔をのぞいていた。
俺はなぜか床に座っていて、彼女を下から見上げるような形であった。
ここはこの世界の中心都市。
普通に人がにぎわい、店がたくさんある。
中心都市はこの世界で最も人口が多く、最先端を貫いている。まぁ日本でいうところの東京であろう。この異世界を象徴する建物、文化の中心地。
現実世界からこっちにくると立ちくらみが生じる。
俺は女の子の手を借りて、立ち上がった。
「今日はちょっといろいろあったんだよ」
「ふーん、いろいろってなに? 彼女でもできたの?」
少し馬鹿にするような笑みを浮かべて、まじまじと顔を見られる。
その整った顔を1週間前ほどから見ているのだが、やはり緊張する。最初の方は話すことも目を見ることも、あまつさえ姿を見ることさえできなかった。今でもこう近くで見られたら、目をそらしてしまう。
「なんで目をそらすのよ……」
「ご、ごめん」
エメラルドブルーの輝きを放つ瞳が、少しだけ伏せられた。
こいつは一度機嫌が悪くなったらしばらく戻らない。というより、子供みたいにずっと何言ってもすねているのだ。
「リリアレット、機嫌なおしてくれ。お詫びに何か奢るからさ」
さっきの哀愁漂う姿はどこへやら。
瞳は大きく開き、頬は紅潮し、手は胸の前で組んでいる。
「ほんとにほんとにほんっとに!? じ、じゃああれ買って!」
興奮したように飛び跳ねるリリアレット。
「何だ言ってみろ」
「そこのスイーツ屋さん! “La Feve”っていうお店なんだけどね」
「んー……所持金いくらだっけなぁ」
空中に手をかざすと、透明な矩形のウインドウが現れる。
名前:佐藤 響
性別:男性
職業:魔法師Lv.2
魔法:火の魔法、炎の魔法
所持金:15万テール
資格:未取得
15万テールか……ちなみにこの世界の通貨はテールと呼ばれている。1万テールで千円、10万テールは1万円である。ということで俺は、1万5千円しか持っていない。足りるかな……
「まぁ行こうか」
「やったぁ、ありがとう!」
ニコッと笑うその顔がまぶしくて、俺はやっぱり目をそらしてしまった。
自分と、住む世界が違うような気がする。
「歩いてすぐそこなの」
きめ細かな肌に通った鼻。エメラルドブルーの瞳は、どこか不思議な雰囲気を放っていた。海のような、それでいて空のような色彩。
髪の毛はスカイブルーの髪。胸元まである髪の毛は、風になびいていた。おそらく、こいつのことだから念入りに手入れしているのだろう。髪をおろしていても、重苦しさを感じさせない雰囲気を持っていた。
大人びた容姿のくせに、中身は子供みたいな奴。
「ほら、ここだよ。早く早く」
「……っ、おう」
腕を引っ張られ、ずんずんと進んでいく。
ここはちょっとドキっとするシーンかもしれないが、まぁそりゃドキっとはしたけどさ……力が強かった。リリアレットらしくてちょっと笑えた。
「これとこれとこれとこれと……」
「……」
「これとこれとこれが食べたいなぁ」
シュークリーム、ショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキ、フルーツタルト、モンブラン、抹茶ムース。
「あ、あとこっちのショートケーキも2つ追加で!」
馬鹿みたいに注文するリリアレットを後ろから見ていた俺だが、ついに我慢できなくなって頭を軽く叩いた。
「いったぁ、なにすんのあほヒビキ!」
「あほじゃねぇよ!! 頼みすぎだばか!」
痛いという目でにらみ、頭を押さえて暴れまわるリリアレット。
これがお嬢様なんてありえない……
「だってだって奢ってくれるって言ったし!」
「……それはそうと頼みすぎだろ」
「私が大食いなの、あんた知ってるでしょ」
まぁ、確かに。
リリアレットは一応“お嬢様”である。今は魔法師、として勉学に励んでいるのだが、彼女はお嬢様のかけらもなかった。黙っていればお嬢様に見えるのだが、口を開けばマシンガントーク、スキンシップも多いし、大食い。俺より食べるんじゃないか? あきらかに一人前の量を食べているところ、見たことがなかった。
「合計45000テールです」
「あ、まだ足りるわね。じゃあ次はレストランにでも連れて行ってくれるかな」
「は!?」
とりあえず懐から45000テールをとりだした。
店員さんは少し苦笑いをしていた。ていねいによくわからん注文を聞き、正確にケーキを箱に入れていく。こんなやつのケーキなんて適当でいいのに。
「ありがとうございましたー」
ケーキがたくさん入った箱を2つかかえ、幸せそうな笑みで話し始める。
「ありがと、ヒビキ! すっごい美味しいそう」
「そ、そうか……」
こんなに嬉しそうにされたら、悪い気がしないわ……
やれやれ、こいつはやっぱ憎めない。そんな気がする。
「はい、持って」
「は、持たせるのかよ」
こいつちょっと笑顔が可愛いとか思ったけど、やっぱり我儘な奴……。
強引に2つ箱を押し付けられて持たされた。ケーキが崩れないように斜めに持たず、地面と平行を意識する。彼女は「早くケーキ食べたいなぁ」なんて恍惚とした表情でよだれを少し垂らしていた。汚いなぁ、まったく。
「じゃあ次は高級ステーキレストランね!」
「は!? やだわもう所持金の3分の1使ったからいいだろ……」
「ちぇ、けち」
ぷっくりとした唇を尖らせ、頬をぷうと膨らませる。
そして、上目使いでこちらを見た。
「じゃあ、私がおごってあげる!」
「……はあ?」
我ながらアホ顔だった。
こいつ奢ってほしいからステーキ食べに行くんじゃ……?
まったく女子の気持ちはわからん。
さっきの表情は、幸せそうな笑顔に変わっていた。
「私、そういえば明日お給料もらえるからさ」
「それなら明日奢るのが普通じゃ……?」
リリアレットは、齢17――同い年にして正式な魔法師である。俺は一応魔法師ではあるのだが、まだこの世界に来て一週間ほど。魔法師見習い、としてリリアレットのもとで修行させてもらっている(?)身分である。いや、なんで俺が下なんだ。まぁ確かにリリアレットは強い。あ、力がバカ力ってわけでは……
「口に出てますよ」
「ひぃっ!?」
半眼でにらまれる。
リリアレットはお嬢様という枠にとらわれない、実力の持ち主であった。魔法師歴一年。きっと相当学んできたのだろう。こいつからは全然そんな感じはしないがな。むしろ余裕綽綽といった感じで、少しイラっとすることもあるが。
ちなみに、魔法師のレベルは5までである。
俺はまだ2だが、リリアレットは4という強者。本当に同い年なのか。
「お前はほんと実力だけはすごいよな」
「いやいや、そんなに褒めなくてもいいんだよヒビキくん」
リリアレットはにんまりとしたやらしい笑みで、まぁまぁと手を振っている。まったく、天皇みたいな手の振り方しやがって。……まぁ実力は上なので何とも言えなかったりするのだが。てか褒めてない。
「私、機嫌よくなったから奢らなくていいよ」
「ならいいけど、これからどうするんだ?」
「そうね……普通に食事しましょうよ」
「結局食べ物か……で、このケーキ共はどうするんだ」
両手がふさがっていてなにもできないではないか。
正直ケーキが崩れないように神経使って持っているから、疲れる。
彼女は俺の持っている箱を見て、「あー持たせてたごめんごめん(笑)」とわざとらしく舌をだす。
「もー男の子なのに頼りないなぁ、しょうがないなぁ」
「別に持てないわけじゃないんだが」
「ふー」
一息、彼女は息をついて、手をケーキの箱にかざした。
「レシーブ」
1節呪文。
この世界では1節呪文が主流のようだった。自分がこっちにくるときは「コネクト」の1節呪文だし、呪文の書物があったけれど、それもほぼ7割くらいが1節呪文だった気がする。
この呪文で得られる効果は、見ての通りだった。
リリアレットの手の平から異空間が出現した。それにワンテンポ遅れて、俺の手からケーキの箱が離れ、宙に浮き、そのまますうっと異空間の中に飲み込まれてしまった。これが、この呪文で発動した効果。
この異空間はこれまた不思議なもので、例えるならば、水面に石を落した際に、波紋が広がるだろう。その波紋が手の平から放たれているようだった。また、その波紋は別空間への入り口、みたいなものらしいから異空間と名付けている。
異空間は万能であった。
物や人などをどこかへ送りたい、と強く思えばその対象物を移動させることが出来る。移動魔法に入るのだが、呪文は固定されていない。このように自分の物をなおす場合などは「レシーブ」、送る場合は「センド」、人を送る場合は「センド・オブ」の2節呪文。
「っと、これでケーキたちは私の冷蔵庫にしまわれたわ。あとでゆっくりいただこうかしら。午後のティータイムにでもいいわね」
「いや絶対お前夜食で食うだろ、太るぞ」
太る、というキーワードに反応したのか、地団駄を踏み、顔を赤くして叫んだ。
「一つ、女の子の言われてうれしくないセリフ『太るぞ』『太った?』『ぽっちゃり』!! ほんっと最低、これだからあんたみたいな男は!」
「はいはい、あー耳痛い。うるさいなぁ。女の子はもっとお淑やかなんじゃないかなぁ。あー地面が揺れる」
我ながら煽ってる。
さらにリリアレットは憤怒の表情を浮かべ、まくしたてた。
「女の子が声小さいなんて決まってないし、そもそも太ってなんかないんだから地面揺れないわよ! てか揺れてないから!」
「あーはいはいわかりました」
「なにそのあしらい、冷たい!」
周囲の人に見られてるってのに、羞恥心ないのかよ……まぁいつもこんな感じの日常。あっちにいる時より、断然楽しんでいることを自覚している。
「女の子の気持ち考えてよね!」
「あれ、リリアレットって女の子か?」
「ひっど!」
冗談めかして言う。
お互い冗談なの分かっているから、リリアレットはぷっ、と笑った。それにつられて、俺も少しだけ笑った。
――うまく、笑えているのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます