魔界4

 魔界に着いた位置からすぐ、赤黒い沼の畔にひっそりと建つ小屋、小屋だ。案内された家は悪魔の住処と言われても信じられないような貧相な小屋。本当にここがアクシーさんの家なのだろうか。

「ちょっとショボいでしょ?」

 ちょっと?

「誰かさんのせいで、二万七千年の間収入ゼロなのよ。それまでは順風満帆だった私のトップ悪魔としての生活は落ちぶれ、先日、私の最後の財産だった屋敷も土地も、ぜーんぶ差し押さえられちゃったのよねぇ」

その誰かさんはといえば、私の隣で死にそうな顔をしている。

「だから、さっさとリベルには死んでもらいたいのよねぇ」

「今死んでも、魂を回収できないからアクシーさんとの契約を解いてからの方が私の都合がいいんですけど」

「別に私はリベルの魂はいらないから、魂の所有権をあんたに譲る契約を新たに結んであげてもいいわ。契約の枠さえ空けばどうとでもなるからね」

「いいんですか?リベルの魂は質がいいんでしょう?」

「いいのよ、私のできる契約はいつの時代も引っ張りだこだし、回転率はいいの。だから契約枠さえ空けばそいつ一人分の稼ぎなんてすぐよ。失敗をなかったことにできるってのは人間にとってとっても魅力的みたいなのよねぇ」

 失敗をなかったことにできるってのはいいですよね。私もなかったことにしたい失敗はいくつもあります。

「じゃあ両者同意ってことで、契約しましょう」

「契約するのはいいとして、悪魔の契約は望みと魂の取引にしか使えないよ?何か魂の所有権を譲渡できるような契約の形式はあるのかい?」

 魂の所有権というのは自由に譲渡できるものではないので、高位の魔術等を用いた特殊な契約を用いる必要があるのです。

「ありますよ。「天命の契約書」です」

 この契約書を介して契約を結ぶと、その契約は契約の神の元へ送られ、絶対のものとなるのです。神の力を利用することができる割にありふれた物で、現世でもいろんな書類の間に挟まっていたりするそうで、よく見つかるようです。噂では契約の神様が暇だから仕事がほしいって理由で地上に撒いているとかなんとか。

「それなら大丈夫ね」

 契約の文は「悪魔アナクフィスィは、不死者リベルの魂を得た場合、不死者リベルの魂を死神テロリカへ譲渡するものとする」という感じでいいでしょう。

 こうして、二人ともサインをし、ついでにリベルにもサインをさせ、リベルが死んだ場合の魂の所有権は私のものとなったのでした。

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