夕日がとける頃

夕日がとける頃

「しゃっくり、止めてあげるよ」

放課後、友人の裕也(ゆうや)と二人、教室で他愛もない話をしていると、急にしゃっくりが出て止まらなくなった。しゃっくりってどうやったら止まるんだっけ。びっくりしたり、息を止めたりしたら止まるんだったっけ。なんて、色々考えていたとき、裕也がそう言ったんだ。

「お、ヒック、お願い」

「分かった」

すると、裕也の顔が近づいてきて。鼻と鼻がくっつくかと思ったとき、唇に柔らかい感触が。と、生温かく濡れた何かが唇を割って口腔内に入ってきた。え、今、僕裕也にキスされてる……? なんで、と理由を考えようとしたけれど、酸素が足りなくて頭が回らない。結局僕はぎゅっと目をつむって、与えられる快楽に身を委ね、裕也の唇が離れるのを待っていた。


「しゃっくり、止まっただろ?」

しばらくして、ようやく裕也は僕を解放してくれた。

「と、止まったっぽい、けど」

僕は学ランの袖でぐいっと唇を拭った。

「なんでこんなこと……。嫌がらせかよ!」

キッと裕也を睨み言い放つ。

「嫌がらせって思うなら、どうして突き飛ばさなかったんだよ」

「そ、それは……」

かあっと顔が熱くなる。気持ちよかったから、なんて口が裂けても言えない。

「そんな顔されたら期待するだろ」

裕也は少し悲しそうな表情を浮かべ言う。なんでそんな顔するんだよ。泣きたいのはこっちだ。ファーストキスを男に奪われたんだから。

「……俺、帰るわ」

と、裕也は自分の鞄を持ち、歩き出す。そして、ドアを開けると、僕の方に振り返り

「好きだよ」

そう言い放って、走り去っていった。

「なんなんだよ」

友達としか思ってなかった人に告白されたんだけど、どうしよう、なんて話を聞くたび、友達としか見れないって言って振ればいいじゃんって思っていたけれど。実際自分がその立場になってみると、そう簡単な話じゃなかったんだと気付いた。断ったら友達でいられなくなるんじゃないかとか、付き合うのも同情のような感じがして嫌だとか色々難しい。僕の場合はそれに加えて同性ということもある。

「どうするのが一番いいんだろう……」

夕日は山の向こうに沈もうとしていた。

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