第7話

「……過去へ行く? 本気で言ってるの、父さん?」

 呆れ果てた娘の顔を前に、レクスはにこやかな顔で頷いた。

「勿論だとも。せっかく作ったタイムマシンだ。使わなければ、もったいないだろう?」

「もったいないって……タイムマシンを作ってから、何年経ったと思ってるの? 何で今になって……」

 スフェラの顔が、呆れた物からいぶかしげな物になった。

「い、いや、その……ほら、夢に母さんが出てきたんだよ。それで、使わないのなら最初からそんな道具を作らないの、と怒られてしまってね」

 かなり苦しい言い訳だが、母の話を持ち出されるとこの娘は途端に語気が弱くなる。仕方が無いと言う顔をして、スフェラはため息をついた。

「それで……いつの時代に行こうと思っているの? 言っておくけど、十年以上前に戻って生きている母さんに会おう、なんてのは駄目よ。行くならせめて、私や父さんの事を知っている人間が一人もいない時代にしないと大騒ぎになっちゃうわ」

「あぁ、それなんだがね、スフェラ。三千年前に行こうと思うんだよ」

「三千年前? 何でまた、その時代に?」

 スフェラの顔が、またもやいぶかしげなものになってしまった。何とかごまかそうと、レクスは苦笑しながら用意してあった理由を口にする。

「ほら、スフェラは大学で歴史を専攻しているだろう? 折角だから、多少マイナーでテーマパークでは体験する事ができない時代に行って、父さんに色々と解説をしてもらおうと思ってね。それに、三千年前と言えば、魔法使いが生きていた時代だ。魔法使いには、前々から興味を持っていただろう? 生で見てみたいと思わないかい?」

 心が揺れ動くのが、ありありとスフェラの顔に浮かんだ。これで良い、とレクスは思う。

 これで、スフェラを幸せにしてやる事ができるのだから。

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