Kanon

@shortA

第1話:ある日、カノンという人がいました

 魔封研修学校。そこは世に蔓延った魔物を退治する高等学校クラスの専門学校。今や世界の中心の学校で、そこから卒業するだけで将来が保証されるという名門校。

 私、神奈木レンカは、とうとうそこに入学することが叶いました!

 しかし不思議なことに、入学式が無事に終わりました頃、呼び出されてしまったのです。本当に不思議なことです。

 呼び出されるや、こんなことを言われました。

「神奈木レンカ、お前、なぜ呼び出されたか分かるか?」

 そんなの、分かるわけがないでしょう。とりあえず私は「いいえ、分かりません」とだけ答えておきました。

 この教師はおそらく教頭先生でしょう。なんか他の先生と離れて全体見渡せる位置にいますし。

 しかし、教頭先生は「そうか、分からないか。分からないのか……」と軽く挑発じみた言葉を吐いてきました。ムカつきます。

 教頭先生は若い女の人であるにも関わらずオジサンくさい口調で言いました。

「お前、アンケートの将来の抱負になんて書いた?」

「アンケート?」

 入学式前に教室でアンケート用紙を配られました。そこには今さらながらの志望動機やら何やらのことが書かれていて、最後に将来の抱負が書いてありました。

 なんて書いた? ですって?


「この学校の全生徒を虜にすることです」


「バカかお前は」

「んなっ……!」

 バカ? バカと言いましたかこの女教師……。私の夢をバカにするなんて……!

「何がいけないんですか!」

「お前の頭だ」

 私の頭? 分かりました。次回から別の髪型で登校します。なんていうボケを脳内で繰り広げ、堪忍袋の尾に傷つけないようにした。

「まったく、なんで今年の生徒は初日からバカやるヤツが二人もいるんだ?」

 うなだれる教頭先生。

「二人?」

 なんか同志がいました。一体誰でしょうか?

「お前みたいに誰に対しても敬語で、銀髪の少年だよ。あとチビ」

「……誰ですかそれ」

 すごく目立つキャラではありますけど。

「その私の同志さんも、全生徒を虜にしようとしてるんですか?」

「いや、アイツの場合はお前よりもっとタチが悪い」

「私はタチなんか悪くありません」

 失礼な人ですね。まあそれはともかく「どんなことを書いたんですか?」と訊いてみた。

「この学校を支配する」

 支配する……。

「ぅわあ……」

「全生徒を虜にしようとしてるヤツが引いたよ」

 あれ? ちょっと待ってください? となると、私の全生徒虜計画に支障をきたすことになる……。

「許せません……」

「ん?」

「私の全生徒虜計画を邪魔するなんて……!」

「あー。いやまあ、同志がいるって時点で気づこうな」

「そんな野望、私は認めません! 先生、私は断固としてその野望を打ち砕きます」

「ああ。できればお前の野望も打ち砕いてほしいんだがな。おのれで」

「銀髪のチビですね! さっそく奇襲を仕掛けてきます!」

「おい、まだ終わってな……!」

 何か言いかけたのが聞こえましたが、それを無視し入学生が集まっている大ホールへと駆け込みました。




   ☆




 見つけました! あの子ですね!

 銀髪のチビ……。教頭先生が言っていた通りです。ただ……。

「……ちょっと可愛いかも」

 童顔で髪を伸ばし後ろを結んでいる。男子高校生というより女子中学生です。DKというよりJC。その可愛さに免じて、奇襲はやめてあげましょう。いや、別の意味で奇襲しましょうか?

 ……まあとりあえず詮索からですね。

 私は銀髪のおチビさんに話しかけた。

「こんにちは~」

 銀髪のおチビさんこちらに気づいたらしく、目がパッと開く。

「こ、こんにちは」

 声を聞けばなんとなく男の子ってことはわかりますけど、これでスカートでも履けば分からない自信があります。

「あなた、教頭先生に呼ばれていましたよね?」

 とりあえず単刀直入に訊いてみました。するとこの銀髪のおチビさんは予想外な反応をしました。

「え? ああ、君も呼ばれたんですね」

 と、屈託のない笑顔で。

「ええと……」

 どうしてバレたんでしょう?

「あ、私が連れていかれるところ、見ました?」

「いえ。そうでしたら、呼ばれたんですね、なんて言い方じゃなく、呼ばれてましたよね、と言うでしょう」

「あ、そっか」

 では、どうしてわかったのでしょう。

「そんな引っ張ることでもないですよ。単純に、教頭先生って呼んでたからです。誰が教頭先生か分からないはずなのに教頭先生に、なんて言ったら実際に教頭先生に会った人じゃないと言えないですよ」

「あ、なるほど」

 確かに、そんな引っ張ることでもなかったですね。入学式では先生紹介おろか、教頭先生まで分からなかったですものね。

 ……って! 浮かれてる場合じゃない! 全生徒を虜にしようとしているこの私が、入学早々(直後)に先生に呼ばれたなんてことがバレてしまったら……、威厳がなくなる……! 下に見られてしまう……! ただ、この子相手に誤魔化しはきかない……。

 私は耳打ちしました。

「そ、そのことは誰にも言わないでくださいね……!」

「? 何故ですか?」

「全せ……、が、学校一に立つはずの私が入学初日に先生に呼ばれたことが知られたら、立つことが難しくなるじゃないですか……!」

「……なんか悪いことでもしたんですか?」

「わ、悪いことはしてませんけど……! で……も…………」

 ……あれ? この子、私が問題をおこして連れられたとは思ってない……?

「あの……」

「何か手伝ってほしいとかで呼ばれたのかと思ったんですけど、もしかして悪いことして呼ばれたんですか?」

「……いやー……」

 バカバカバカバカ私のバカ! 勝手に勘違いしてたんじゃない! それにしてもこの天然子、恐ろしいわ!

 いやもしかして、今ならまだ誤魔化せるかも……。

「ち、違いますよ~。お、お手伝いとして呼ばれたんです」

「あの……、ハンカチ、いりますか?」

「へ?」

 気づいたら、私は汗だくでした。

「感情が表に出やすい人なんですね」

 ニッコリ。男の子ですけど、天使がいます。

「いやー、お恥ずかしい……」

 天然ではありますけどバカではないんですね。私はハンカチを受け取り、汗を拭かせて頂きました。

「それで、君はなんで呼ばれたんですか?」

 話を切り替えてくれました。核心の方に。

「えーと、あなたと同じです。将来の抱負についてです」

「へえ。なんて書いたんですか?」

「全生徒を虜にすることです」

「……と、とり…………?」

「鳥じゃないです。虜です」

 全生徒を鳥にしたいってどんな抱負ですか。

「いや、分かってますよ。なんで虜に……?」

 私は人差し指で天井に指さす。

「私がこの学校のアイドルになるためです!」

「……そ、そうなんですか」

 あ、引いてる引いてる。

「あなただって、この学校を支配したいとかいってるじゃないですか。それはどうなんですか?」

「あれは半分冗談ですよ」

 なーんだ。冗談だったのか。そういえばたまにいますよね。ああいうアンケートで適当なこと答えて先生に怒られるの。ははは。

 あー。でも半分か……。

「半分は本気ってこと?」

「まあほどほどに」

 「まあほどほどに半分本気」で支配できたらぶったまげますね。

「まあ、お互い頑張りましょうね」

「……バカにしてますよね」

 バカにさせたのはあなたです。

 そうこう話しているうちにアナウンスが流れました。

『新入生のみなさん、時間になりました。第二校舎へ向かってください』

「それでは向かいましょうか」

 銀髪のおチビさんが先に歩き出しました。その後ろ姿は完全に女の子でした。

 その時、ふと目に入ってしまった。


 銀髪の中に、一本だけ黒髪があったことに____。




   ☆




「あのー」

「はい?」

 第二校舎に向かう途中、銀髪のおチビさんから話しかけられました。

「これから何するか知ってますか?」

「え? 逆に知らないんですか?」

 そこでその質問するということは、なんでこの学校に入学したのかと同じレベルになる……。

「これから武器を授かりに行くんですよ」

「武器を?」

 本当に知らないみたいですね。なぜ??

「あなた、やっぱり本当は女子中学生なんじゃないですか?」

「え……、ボクのこと、そんな風に思ってたんですか?」

「え?」

 あ、しまった。さっきまで口に出さなかったのに、いきなり「やっぱり」なんて言っちゃった……。

「そ、そんなこと……」

「……顔に出てますよ」

 ですよね。

「ごめんなさい。でも勘違いしないでください。私はショタコンではありません」

 「ではロリコンですか?」と訊かれると思いましたが、またまた直球ストレートが来ました。

「ショタコンってなんですか?」

「ぐはあぁ!!」

 ま、眩しい……!

 なんなんですか! 頭はそこそこキレるのに心はすんごい純粋! 何ですかこの生き物は! 今時は小学生でも知ってますよ!

 私は笑いをこらえながら微笑んで答えました。

「あなたはまだ知らなくていいですよ」

「バカにしてますよね」

 バカになんかしてません。少しお姉さん気分を堪能しただけです。……ですからショタコンではありませんて。

「で、武器ってなんですか?」

 そうですね。楽しむのはここまでにしておきましょう。

「そもそも、この学校は何なのか知ってますか?」

 ……ちょっとバカにしすぎてしまいましたか。ムッとした顔をされてしまいました。これはこれで可愛い。

「知ってますよ。この世に蔓延った魔物を殲滅するんですよね」

「はいそうです。ですが、生身で戦ったら間違いなく私たちは負けます。そこで武器です。しかし、ただのアナログ武器では効率よくないです。そんなときに発案されたのが、魔力の込められた武器、いわゆる魔武器です」

「魔武器……」

「はい。ただ、魔武器を選ぶのではなく授かるのです」

「誰からですか?」

「……神様?」

「神様……」

「いえ、今のは方便です。少し魔力の話をしましょうか。魔力はこの時代の人はみんな身体に備わっていますが、その魔力の性質はみんなそれぞれによって異なります。DNAみたいなものですね。魔武器はその人の性質に合った武器ということです」

「……具体的には?」

「とにかく熱血の人はメリケンサックだったり、心配性の人は僧侶だったり、もしくは単純にサポートが得意な人は魔法使いだったり、その人の性能・性格が有形化するんですよ」

「有形化……、なるほど」

「ただ、ごくたまに無形の人もいるらしいです」

「無形? 武器が出てこないってことですか?」

「いえ、その人の身体のどこかに変化がある、らしいです」

「身体の変化……」

「ただ、その人はハズレですね。身体のちょっとした変化よりも魔武器の方が相当使えますからね。まあでも、無形だった人は過去に一人だけしかいなかったので、そんな心配する必要ありませんよ」

 なぜ無形という現象が出るのかは未だ解明されていない、とされている。

「ま、武器の説明はこんな感じですね。で、今からその魔武器を授かりに行くわけです」

「なるほど。理解しました」

 あ、急に緊張してきました……。私は一体どのような武器が授かれるのでしょうか。

「その武器で私は、全生徒を虜にしてみせます!」

 口に出してみました。




   ☆




 祭壇室___。

 あたりは暗く、先ほどの教頭先生と戦闘警備員が立っていました。

「来たな、神奈木レンカ」

「来ました、教頭先生」

 洒落っぽく返します。

「アイツは見つけたのか?」

「はい、銀髪のチビでした」

「だろう?」

 教頭先生は鼻をフンと鳴らした。

「アイツには注意しておけ」

「はい?」

「忠告はしたぞ。二度は言わん」

 話を紛らわすように奥を顎で指した。

「あれが、魔力有形化壺だ」

 その名のごとく、それは壺でした。怪しげな模様をしており、壺に入っている魔水は紫色をしていました。雰囲気出てますねえ。

 とうとう、この時はやってまいりました。小学生からの悲願が、今ここで達成の有無が決まる……!

「さあ、手を」

「はい……!」

 手を、肘の辺りまで壺に突っ込んだ。

 ……しばらく何も起こらず、

 ……ずっとそのまま。

 ……。

 …………。

 ………………………………。

「ぅぐう……!」

 急に手に痛みが走った。

「どうだ? 何か掴んだか?」

「いえ……、まだ何も……!」

 にもかかわらず、手の痛みはさらに激しさを増していく___。

 突如、魔水が沸騰し始める___!

「う、あああぁあぁああぁ……!!」

「いかん! 神奈木、手を離せ!」

 教頭先生が私の腕を強く引っ張った。勢いで魔水が飛び散る。手はまだ痛いまま。

「はぁ……はぁ……。……先生……」

「……神奈木……」

 教頭先生は辛い顔をしていた。

「戦闘警備員、緊急研究室へ」

「はっ!」

 そして私は、そこへ連れていかれた。




   ☆




「先生、私……」

「落ち着け、神奈木」

「私、もしかして……」

「神奈木」

 緊急研究室に着きました。そこはとても広く、何もなく、そして、白い。

 警備員に担がれていた私は、ゆっくりと下された。

「立てるか?」

「はい、なんとか」

 私は立ち上がる。

「神奈木レンカ、まだ決まったわけじゃない。身体全体に魔力を行き渡らせろ」

「……はい」

 集中……。魔力を行き渡らせる。

 ……なにやら手に違和感が。

「教頭先生、出ました」

 この研究室に新たに研究員らしい人物が入ってきて、手に持っていた紙を教頭先生に手渡しました。

「…………」

「……あの、教頭先生?」

「……神奈木」

「はい……」

 教頭先生はペンを取り出す。そしてそれを私に差し出す。

「これを握り、手に魔力を込めろ」

 やはり、手に何かが……。でもこれって……。

「……教頭先生」

「いいから」

「……はい」

 私はペンを受け取り、手に魔力を込めた。

 その直後、ペンは消えた___。

「え……?」

 あまりの出来事に少し混乱した。

「そのままもう一度、手に魔力を込めろ」

「はい……」

 もう一度、込める。

 すると、ペンが出現した。

 決まった。いや、終わった……。


「お前の能力は、物質を消し、再出現させる能力、無形武器だ」


 私の全生徒虜計画が、幕を閉じた___。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Kanon @shortA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ