エル・ガナンド三世の即位より十六年、炎月十七日

(質素な便箋に殴り書き。相当急いで書いた模様)



 ケアリへ


 ケ アリ、すっげえことが起きやがった。

 ア ン・ナグ大尉が基地の埠頭に様子を見に行った。

 リ ン・ドン軍医も一緒にすっとんでいった。

 俺 がいつものネタなし三行でおまえに手紙書こうと思った矢先にだ。

 も う烈に疑り深い村のみんなへ、この手紙を自慢しまくってくれ。

 う るさくて鼻持ちならねえ村長に胸張って言えるぞ。

 ダ メ男って仰るけど、あたいの彼氏はほんとに海軍少尉よ、って。

 メ ン玉飛び出るぐらい驚いて地団太踏むだろうな、あのクソジジイ。

 だ いたいオヤジが前科者だからって、息子まで差別するこたないよな。

 今 から書く事件が、俺がルーク諸島海軍基地にいた証拠になる。

 か ん潔に書いちまうと、基地の埠頭にうちの船が突っ込んできた。

 ら ん干を掃除させてたんだよな。うちの水兵に。そしたら軍艦が来たって

 俺 の所に報告が来た。見れば「早風」って砲門なしのうちの物資運搬船。

 は ?なんかあれ、尻から煙出てねえか?

 こ んな辺境の基地に炎上船?おそらくボヤでも出して緊急事態なんだろう。

 ロ ープが甲板でなんかぐるぐる回ってるけど…なんだありゃ?

 さ っと双眼鏡で見てみれば、細身の美少女が太いロープを片手で振り回してる。

 れ っきとしたファンランド王国の軍艦の上で。大砲なしの船だけどな。 

 ル ーク諸島にこの船が来るなんて連絡はまったく来ていない。

 さ っそく大尉が水兵を集めた。美少女の持つロープの先にゃ……

 よ くあんな重いものブンブン振り回せるわ。艦長らしき奴が引っ付いてやがる。

 な かば感心しながら俺は基地の防御に回った。なんだかやばい。

 ら ん干にまで美少女が迫ってきて、艦長を振り回してる。すげえ破壊力。

 ア ン・ナグ大尉が人間モーニングスターに弾き飛ばされ、海に撃沈。水兵全滅。

 い くらなんでも疲れただろうと、さらに水兵投入。すぐに全滅。

 し んじられねえ。なんだあの女は。胸出すぎ……いや、腕力強すぎ。

 て んで歯がたたねえ。船の尻から大爆音。同時に女どもが出てきた。

 ル ーク諸島第一海軍基地、存亡の危機ってやつだ。大丈夫だケアリ。

 ぜ ったい俺が、守ってみせるぜ。俺は英雄になる。じゃあな。


                      炎月十七日 アル・ティン

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る