第35話 ACT10 集解3

「ところで北條さん」


 ホテルの一室。

 憮然とした表情で椅子にかける北條に、姫緒が声をかける。

 レンレン、風小、そして綾子が、姫緒の指示で集められた新潟のホテル。

 姫緒はその部屋に入ると、思い思いにくつろぐ、待ち合わせた面々を見渡し、その中に鎮座在します予定外の人物を発見し眉をひそめた。


「何故、あなた様がここにいらっしゃるのでしょう?」


 姫緒はレンレンから綾子の部屋にあやかしが実体化し、傀儡が発動したことを聞いていた。

 収拾はついたようだが、当然、北條を謀っていたということは、ばれているに違いない。

 それでなくとも、北條は自分が策略によって利用されまくったと言う事実を姫緒の口から聞いて知っている。

 だが、だからと言ってそれに対して、恨み言や辛みごとを相手に向かって主張するような、そんな熱くはなれない男のはずだった。

 しらけた性格の、物事の面倒には関わりたがらない。そんな男だと姫緒は認識していた。

 今回の一件には腹を立てていたはずではあったが、ならば尚の事、金輪際自分達とは関わりを持ちたくない。

 むしろ、招待したところで逃亡するような勢いでも可笑しくない筈だった。そんな男が何故?姫緒にとっては純粋な疑問。


「責任とれ!」


 とげとげしい言葉使いとは裏腹に、威圧と言うには程遠い、泣き出すのではないかと思われるほどの震える声で、北條はそう言いうと姫緒をすがるように見つめた。

 姫緒は、露骨に不快な顔をして視線をそらし、そのまま視線を巡らせ、ベッドに腰掛けているレンレンを見る。


「何があったの?」


「事故」


 姫緒と目を合わさぬよう、顔をそむけたままレンレンがボソリと呟く。


「レンレン」


 姫緒にたしなめられて、しぶしぶ視線を戻す。


「えーとねぇ。じつはぁねー……」


 風小が北條を殺し損ねて、あやかしの上書き状態になっているという顛末を、彼女はかいつまんで姫緒に説明した。


「事故ね」


 話を聞き終わった姫緒がきっぱりと言い放つ。


「でしょう?不幸な事故よねぇ。よくあることよねぇ」


「そんなわけあるかぁ!」


 話を決着させようとしている二人に、北條が割り込んで叫んだ。

 姫緒が大きくため息をつく。


「わかりました、北條さん。責任は取らせます」


 そう言ってレンレンに向き直る。


「頼むわね」


「およっ?」


 レンレンは、自分の後ろに誰もいないことを念入りに確認した後、自分を指差して再度姫緒に自分で間違いないかを確認する。


「やってくれるんでしょう?」


「も、もちろんよぉ」


 口元をひくつかせた笑いを浮かべながらレンレンが答えた。


「じゃ、まあ、準備もあるしぃ。後でゆっくりィ……」


 はぐらかす様にレンレンが座りなおすと、姫緒にすがるような北條の視線が一層強くなった。


「鬱陶しいからさっさと連れてって!」


 北條を指差しながら姫緒が癇癪を起こす。


「はいはい」


 レンレンはしぶしぶと立ち上がり大きく伸びをする。


「もう一部屋取ってあるから、そっちでやって頂戴。廊下を出て左側404号室よ」


 姫緒がそう言うと、不満げに何度も何度も頷きながら、レンレンがドアへと進む。


「じゃ、行くわよー」


 北條にそう声をかけ、いつの間にか姫緒に寄り添っていた風小を手招きする。


「手伝ってよん。さっさと片付けるからぁ」


 言われた風小は、一瞬、姫緒の顔色を伺い、彼女が小さく頷くのを見ると、レンレンの後に続いた。


「た、たすかったぁ」


 北條がよろよろと椅子から立ち上がる。

 三人が部屋から出て行こうとすると、姫緒が肩越しに口を開いた。


「404号室には人を待たせてあるの。行ったついでにこの部屋に来るように伝えてほしいんだけど」

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