Everlasting On-line 2

 「まさか、シフォンさんがこんなに若いとは思わなかったっす」

 「あはは、クロガネ…さんは…も、想像とは違ったので驚きましたよ」

 「言っていいっすよ、思っていたより年寄りだなって」

 「いえいえ、そこまでは」


 思っています。


 現在、私とクロガネ…さんはギルドの集合場所に選んだ東の広場に向かって歩いている。


 「あの、タメ口でいいですよ」


 私がギルマスと知って少し驚いた後から普段の体育会系後輩キャラ口調になっていて、違和感が倍増した。


 「気にしなくていいっすよ、上の者には相応の敬意が必要っすから」

てしまっている

 だからって、それにしなくても。


 「それに、この口調こっちのほうがプレイしやすいんっすよ」


 あぁ、なるほど。


 なぜか私は受け入れてしまっているが、普通はこんな短時間で受け入れられるものではないだろう。


 「シフォンさんもいつも通り呼び捨てでお願いするっす!」


 「は、はい…」



 そうこう話している内に広場に着いた。


 広場にはまだ時間にはなっていないが、結構な人数が居た。


 大学生の自分よりも年上のプレーヤーも多い。


 ま、現実はこんなものなのだろうな。


 私は民家の屋根上に2段ジャンプ…はレベル制限で出来なかったので、木箱を台に上った。


 「皆さん!聞いてください!!」


 大きな声を上げたので、その場の全員が私の方を向いた。私は自分のステータス画面を見せながら話す。


 「私はギルド『天地雷鳴』のギルマスをしているシフォンです。まだ時間にはなっていませんが、行動を開始したいと思います」


 まず始めること、それは


 「まずはメンバーを全員、ここに集めます。このゲームは初期設定で通知がOFFになっているので、まだ私からのメールに気付いていないメンバーがいます。エリアはこちらで確認できるので、私も向かいますが他のメンバーのところにも誰か向かってください。ここに残っている人たちは見た目が変わっていると思いますので互いを確認し合っておいてください」


 必要なことを言い切る。現実で人前に立つのは苦手だが、何とかやり切った。


 メンバーだと思われる人たちの方を見ると、皆の顔には困惑、不安の顔が映っていた。何か失敗しただろうか?


 クロガネ…がこちらまで上ってきた。


 「突然すいません、クロガネっす!!自分も最初は驚いたっすけど、シフォンさんの言っていることは筋が通っているっす!確かに若くて不安に思うのもわかるっすが、この状況でこれだけ落ち着いて行動できるこの人を自分は支持するっす!!それでも信じられないって言う人は、文句は言わないんでギルドから抜けてください」


 あ、そっか。確かに本当はどんな人かも分からない若者に、自分の命を任せられるかと訊かれたら、私だって否と言うだろう。ギルドとして成り立っていることを前提として物事を考えてしまっていた。


 「すみません、私も皆さんの気持ちまで考えが到りませんでした。…その上で、お願いがあります。ギルドを抜けるのは8時のギルド集会が終わった後にして貰えないでしょうか。お願いします!」


 私は頭を下げる。横にいるクロガネも下げてくれた。


 皆が一応だが納得してくれたのを確認して、屋根から降りる。


 「ありがとうございます、クロガネ」

 「いや、ああなることは判っていたんで、大丈夫っすよ。あと口調もいつも通りがいいっす」

 「…わかったよ」

 「今は何とかなっているっすけど、これからが大変っすよ?」

 「はい…あぁ、とりあえずは集会開始までの40分この時間でメンバーを全員集めよう」

 「全部で何人っすか?」

 「えっと…9人。でも大体は似たような場所にいるから集めやすいだろうただ1人、ちょっと離れた場所にいるな」


 ギルマス専用マップを開いて確認する。ギルマス権限でメンバーの状況が通常より詳しく表示されるため助かる。向こうではあまり使用しなかった機能だ。


 1人だけ、町の西側からでた草原エリアのにいる。レベルも7と私よりも上だから、おそらく今の状況デスゲームに気付いていないのだろう。


 「すまないが、残りの8人を頼めないだろうか。私は町の外にいる1人を連れ戻しに行ってくる」

 「8人…多いっすね。どこっすか」

 「町の北に2人、西に1人、南に5人。いや、西の1人は私が行った方がいいか」

 「顔が分からない中、40分で6人…まぁ、やるっすよ!!」


 「あ、あの!!」


 早速向かおうとしていたところで呼び止められた。そちらを向くと中高生っぽい若者…少年少女達が5人いた。


 「俺たちも手伝います!」


 そういえば、この子たちの頃って大学生が大人に見えたなと思いつつ、手伝ってくれることをありがたく思う。


 「わかった。ありがとう。先に名前を訊いてもいいかな」

 「ケイタです」

 「ノヴェルです」

 「鉄五郎です」

 「くー@とろろんです」

 「さつきです」


 あぁ、この子たちはβ版で困っている所をアドバイスして、それから一緒に行動するようになったギルド創設時のメンバーだ。年下かなとは思っていたが、本当にそうだったとは。あとくーちゃんの名前のインパクトがすごい。


 「わかった。では、北の方にいる2人をくーちゃんとさつき、南の5人をケイタ、ノヴェル、鉄五郎でお願いしてもいいか?クロガネは西の1人を確保したあとに南も頼む。私は町の外に出ている1人を連れ戻しに行ってくる」


 相手の名前を教えたりして時間を見ると残り35分。


 「女子2人は相手も女性だが単独行動は避けて、全員、何かあったらすぐチャットを飛ばすこと。それじゃあ行くよ!」


 民家の屋根を通る方法もあるが、向かい側の屋根まではステータス的に不安なのでまだ混乱している町を駆ける。


 早く、早く。


 町の外だ。手遅れになる可能性だってある。


 途中まで横を走るクロガネが話しかけてくる。


 「全員を集めた後の行動も考えなくちゃいけないっすよ」


 そう、それも考えなくてはいけない。


 この若造を信頼させる行動を。


 時間は少ない。

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