ショウの専属侍女の1日 中編 その2

 勢いよく外に出られたショウ様でしたが、すぐに気を落とされたようで残念そうな顔をなさりました。


 「如何されたのですか?」

 「ゆきが、つもってない…」

 「あぁ、残念ながら我が国は雪は珍しいものですから、積もることはないのですよ」

 「あっ…うん…そっか」


 レイス様に教えられてショウ様は納得したようです。この物分りの良さは母親譲りでしょうか。そういえば


 「スズカ様の故郷はこの時期、雪が積もったらしいですよ」

 「そうなの?」

 「はい。子供のころはよく『雪だるま』なるものを作って遊んだそうです」

 「へぇ~。ゆきだるまかぁ~。ぼくもいちどでいいからつくってみたいなぁ」

 「ええ。機会があったら一緒に作りましょう」

 「ははうえのこきょうか…。どんなところだろう?」

 「とても独特な風習があるようで、主食はパンじゃなくて『米』というものだったらしいですよ」

 「えっ!?」

 「また、食器もフォーク等ではなかったと言っていた気がします。レイス様は訪れたことがおありですか?」

 「1度だけ、子供のころに行ったことがあります。あそこは確か2本の棒を器用に使ってものを食べていましたね。…ショウ様、どうかされましたか?」

 「…いや、ちょっとね。いってみたいなぁ、ははうえのこきょう」

 「…ほんとうですか?」


 あれ?意外にもレイス様がショウ様の発言にすぐには賛成しませんでした。珍しいことがあるものですね。


 「うん、ほんとうだよ」

 「…そうですか。考えておきます」

 「?よろしくね」


 ショウ様もどこか疑問に思ったようですが、気にせずに足を進めていきます。


 すると、これまた珍しい御方に出会いました。


 「おはようございます、きゃんう゛ぇらさま」


 この国の第二王妃、キャンヴェラ様です。私も昔からあまりお会いする機会がありません。


 「えぇ、おはよう」

 「おくれましたが、ごかいにん、おめでとうございます」

 「あぁ、そうね。とりあえず礼は言っておくわ」

 「きょうはまたいちだんとひえますが、おからだはだいじょうぶですか?」

 「心配されなくても大丈夫よ。私はそんなに軟な鍛え方はしていないわ」


 誤解を生みそうなので申しますと、王国の上位階級の人間は仮令、女性であっても一般教養として武術や魔導を習得します。キャンヴェラ様も四大貴族の者として十分に鍛えられたのでしょう。


 「そんなことより、あなたはこんな朝からお散歩とはずいぶん余裕ね」

 「ははは、きょうはゆきがふっていたので、ごごからべんきょうすることにしました」

 「ふん。そういうところはあなたの母親にそっくりね。言っておきますが、そのように感情だけで物事を進めるのはやめなさい。王族の恥じ晒しです」

 「…はい。すみません」

 「あなたが王族の一員でありたいのならば、誰よりも苦しんで励みなさい」

 「はい。しょうじんします」

 「口は達者なようね」


 キャンヴェラ様はそのままどちらかへ行ってしまわれました。相変わらず、あの方の言葉は厳しいものです。前にお会いした時もショウ様が朝食を他の王族の方々と召し上がらないことをご指摘されていました。


 それにしてもショウ様の応対は素晴らしいものです。


 「大丈夫ですか」

 「うん、だいじょうぶだよ」

 「あまり気になさる必要はございませんよ」

 「ううん。たしかにきょうはすこし、おとなげなかったよ」


 レイス様がショウ様にお声を掛けますが、ショウ様は自分の行動を反省なさっていました。


 人の意見を素直に聞けるその純真さは素晴らしいものだと思います。

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