レイス

 私はレイステッド・K・セントオール。このヴィグリーズ王国の四大貴族であるセントオール家の次男であり、以前は第三王女であったスズカ・F・ヴィグリーズ様の、現在はその子供で第三王子のショウ・F・ヴィグリーズ様の護衛兼従者だ。


 四大貴族というのは、この国で王族の次に地位と影響力の高い家系である。またこの世界にある八大魔素の中から人間が一般的に使える火・水・風・土のいずれかにそれぞれが優れており、代々、優秀な魔導師を輩出している。


 私の主であるショウ様は、順調に成長されて今年で3歳になる。母であるスズカ様に瓜二つと言っていいほどよく似ており、力に溢れんばかりの翡翠色の目。絹のようなきめ細かな白い肌。そしてショウ様の希望で長いままであるが、少しでも微風でも吹こうものなら流れていくほど繊細な淡い桃色の髪。


 スズカ様を思い出させるそのお姿は懐かしさを感じさせてくれる。しかし、同時に不安を私にもたらしている。


 それは髪についてだ。


 異なる魔素をもった二人が子をなした場合、多くは、より濃度の濃い方の魔素が子供に伝わる。しかし王族であるヴィグリーズ家の血を持つものは必ず雷の魔素を持つ。理由は雷が火・水・風・土の上位に位置するからだと言われている。だからヴィグリーズ家は王族であり、雷の魔素は王族が管理している。ただ歴史上何度かそのことによって苦しんだ王族がいる。


 雷の魔素が少ない者たちだ。彼らには十分な魔素がない。しかし子供には雷の魔素が引き継がれるため、その者たちの子孫は魔素の濃度が薄い者になる。


 誰がそのような者たちを敬い、取り入ろうとするだろうか。貴族の世界に政略のない結婚は限りなく0に近い。


 王族の者たちにはその高位である雷の魔素の影響を受けて、1つの身体的特徴が生まれる。それが髪である。


 王族の血を持つ者は皆、程度差があるが直毛になる。男性の場合は特に影響が強く剛毛になる。


 だからショウ様をみると不安が生じる。ショウ様は魔素が少ないのではないだろうか。


 もしそうだとしたらショウ様の味方となってくれる者が僅かとなるだろう。ただでさえ第二王妃のにらみがあるというのだから、これは重大な問題だ。


 幸いなのは、ショウ様は類まれなる天才ということだ。


 生まれたときから余り手がかからず、まるでこちらの事をお考えになっているかのような気がした。生後半年が経って、普通はまだ早いがショウ様ならあるいはと思い、『はいはい』の前段階である『ずり這い』の練習を初めてみた。お座りのときもすんなり出来たのでこちらも期待したが、いざやってみるとショウ様は少しもお動きにならなかった。


 侍女のセレナと乳母のクレランにも呼び掛けてもらったが、こちらに意識をお向けになり、少し困った顔をなさるだけだった。


 やはり無理だったのだと、失礼ながら無意識にもショウ様に理不尽な失望を少し感じてしまった。


 それでも練習することは必要なのでそのまま続けていた3日後に、ショウ様は私達を驚かした。いきなり『はいはい』をし始めたのだ!まだ筋力が足りないのだろう、手足はふるふる震えており、何回も倒れこんだりしたが紛れもなく立派な『はいはい』だった。


 やはりショウ様は天才だったのだ。


 他にもショウ様の才能の片鱗は何度もあった。知識は一度か二度教えれば大抵のことを覚える。さらに身体能力はおそらく王国最大のものを秘めていると考えている。この間、連れ立っていた侍女のセレナが躓き倒れそうになっていたところを、見え辛い位置である斜め前からすっと彼女の横に立って支えていたのだ。3歳の子供がである。


 流石、スズカ様の子供だと言えるだろう。


 ショウ様は私が必ず守って見せよう。それが私が尊敬し、忠誠を誓ったスズカ様の最後の頼みなのだから。

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