第59話 The Last Another View:Dear My Sister
今日はその、なんとなくだけど、手紙を書いてみることにしたの。姉さんも私の近況が気になるかもしれないと思って、一応ね。
今時、直筆の手紙なんて古いかもしれないけど私は好き。このインクの匂いが、そして紙の匂いが。これが、なぜか心を落ち着かせてくれるの。
みんなもこう思っているから、未だに紙とペンは存在しているのかな?
そんなことよりも、たくさん友達ができたのよ。姉さんが知ったら驚くかもね。歩のグループの人だけじゃなくて、他の医療工学科の生徒とも友達になったの。
あ、言うのを忘れてたけど実は転科したんだ。もちろん、代表選は辞退したわ。歩と試合をして気がついたの、やっぱり私は研究が好きだって。
だから今更だけど、戻ってきちゃった。姉さんはどう思うかな? 喜んでくれるかな?
でもやっぱり辛いことも多くてね。毎日毎日大変だよ。昨日だって、紗季がね・・・・・・
「葵、今日は僕の方の研究を手伝ってくれよ。人手が足りないんだよ」
「もう! またなの!?? これで3回連続じゃない! 私も忙しいのに!」
「また、歩の昔話をするからさ。ここは頼むよ」
「そ、それなら仕方ないわね・・・・・・・」
最近は紗季とすごく仲良くなったの。
姉さんも知っているように、あの世界的に有名な人よ。
でもいざ付き合ってみると、すごいわがまま! もう、本当にいつも困ってるの。
だけど、手伝うと歩の話をしてくれるし、食事もおごってくれる。そこは嬉しいかな。いざ、友達ができるとちょっと戸惑うこともあるけどやっぱり楽しいわ。
姉さんとの時間も楽しかったけど、友達はまた違った楽しさがあるみたい。これからは楽しくやっていけそう。
紗季にはいっつも、文句を言うけど本当は感謝してるの。紗季は私があんなに歩に迷惑をかけたのに何も言わない。歩を大切に想っているのはよく知っているから、何か言われるのは覚悟してたけどそこはあっさりしてたわ。
「あのさ・・・・・・・」
「何だい? そんな顔をして。疲れたなら、ベッドで休むといいよ。葵専用の部屋をせっかく作ったんだし、くつろいでくれよ」
「いや、それはありがたいけど・・・。紗季はさ、歩の事が好きなんでしょ? あんなに迷惑かけた私に怒ってないの?」
「そんなことか。全然怒ってないよ。君が自分の意志で、周りのことを考えずにそうしていたなら、少しは思うことはあったけど。実際は、精神干渉を受けていたんだ。そこまで器が小さい人間ではないよ、僕は。あと、歩の件だけど。僕は未だによく分かっていないんだ。彼のことは心配さ。でも、交際をしたいとか、結婚したいとか、キスをしたいとか、セックスをしたいとかは思わないんだ。今は仲の良い友人ってとこかな? それより、葵はどうなんだい?」
「わ、私は・・・・・・。以前はすごい燃え上がっていたけど、今はよくわからない。ちょっと気になるかな? ってぐらい。好きなのは好きなんだけど、私も何か違う気がして」
「はははははははは!!! そうか、そうか! 僕たちは一生処女かもしれないね! 相手がいなかったら、僕と結婚するかい? 今は同性婚もできるし、LGBTには住みやすい世界だ。きっと、うまくいくと思うよ?」
「もう! 紗季は本当そういう事になるといつも楽しそうよね! からかわないでよ!」
「おや? 心なしか顔が赤くなっていないかい? すまないが、僕は同性には恋愛的にも性的にも関心がないんだ。すまないね、葵。強く生きてくれよ?」
「だから! これは怒って赤くなってるの! それに私フラれたし! 告白してないのにフラれるのって、同性でもちょっとショックなんだけど!」
「はははははははは!!!! やっぱり葵は面白いね!!! あはははははははあはは!」
「もぅ! 笑いすぎだから!」
紗季はいつもこんなことを言ってからかってくるの。そりゃあ、楽しいのは否定しないけど・・・・・・・。ちょっと複雑な気持ち。姉さんならこんな時どうするのかな?
あ、あとは歩の他の友達と妹さんも紹介してもらったのよ。
「ほら、葵。隣に座りなよ」
「う、うん」
その時はみんなでファミレスに来ていて、一緒に食事をしたの。大人数で食事をするのは初めてで、とても楽しかったわ。
「ふーん。やっぱりお兄ちゃんと仲良くなったんだね、葵さん。まぁいいよ。今はお兄ちゃんの隣を譲るよ。ね、彩花さん?」
「椿の言う通りよ。葵、今は譲ってあげるわ。あなたも色々とあったようだしね。でも、今だけよ? 今だけだからね?」
「ははは、ありがとう二人とも・・・・・・」
どうやら、歩の妹の椿ちゃんと友達の彩花は歩のことが好きみたいで私をとても敵視しているみたいだったわ。
でも椿ちゃんは妹よね? まぁ、お兄ちゃんが大切なだけよね? ちょっと一線を超えてる気がするのは気のせいよね?
私はそう思ったけど、そこで考えるのをやめたわ。姉さんも昔言ってたけど、触らぬ神に祟りなしってことをここで痛感したの。
二人とも目が本気だったしね・・・・・・
「そんなに気にするなよ、長谷川! 堂々としてればいいんだよ!」
「そうだ。歩さん直々のご指名だ。きにすることはない」
そうえば、
男の子の友達はなかなか慣れないけど、いろんな人と話せるのは素直に嬉しいかな?
「うん、ありがとう。二人ともそう言ってくれるなんて優しいね」
「まぁ、詳しくはしらねぇが色々あったみたいだしな」
「うむ。女性に優しくするのは当たり前だとも。歩さんにもそう言われているからな」
相良くんは大きな体をしてるけど、人の心を読むのが上手いみたい。それで余計なことを言ったりもしてるけど・・・・・・・。彩花によく叩かれているのを目撃しているからね・・・・・・。
水野くんは凄く歩のことを尊敬しているみたい。弟子入りもしているみたいだし。
以前の彼は知らないけど、すごい変わったらしいわ。
でもちょっとわかる気がする。以前の記憶はところどころ欠落しているけど、歩に関することはまだしっかりと覚えている。
歩との試合でいろんなことを感じたの。だからこそ、水野くんがあそこまで敬意を払うのはちょっとわかる。まぁ、ちょっとだけね。さすがに、私は歩に敬語を使おうとは思わないわ。
それと水野くんは私のことをすごい評価してるみたい。
先日だって・・・・・・
「おい、長谷川」
「ん? どうしたの水野くん」
「お前の論文読んだぞ。歩さんに言われて読んでみたが、流石だ。俺はいたく感動したぞ」
「え? あれって英語でしか発表してないと思うんだけど・・・・・・・」
「歩さんにクリエイターとして本当に強くなりたいなら、知識も必要と言われてな。情報を集めるなら英語は必須だ。すでに論文程度ならば読むことができる」
「え・・・・・・。それって普通にすごくない? 前は全然できなかったんでしょ?」
「あぁ。文法もさっぱりだった。だが、歩さんに効率の良い方法を教えてもらってな。今は第二言語習得、SLAが発達しているからな。おかげで死ぬ気で頑張って、なんとか読むことはできるようになったんだ」
「へ、へぇ」
水野くんはすごい努力家みたい。歩に出された課題は絶対にやるし、自己鍛錬もずっと続けてるって聞いたの。歩に負けず劣らずの努力家の彼は、きっと強くなると思うわ。姉さんもそう思わない?
「それでだが、ここの記述について質問なんだが・・・・・・」
「あぁ。そこはね・・・・・・」
それからは少しだけ彼に特殊派生型VAの理論について教えたけど、すごい理解度だったのよ! もう驚いちゃった! 武芸科とは思えない知識量で思わず尋ねちゃったのよ。私が自分から人に話しかけるなんて想像できないでしょ? でも、最近は会話も普通にできるのよ。ふふふ、すごいでしょ?
「水野くん、すごい物知りだね。武芸科とは思えないよ。私の他の論文だけじゃないでしょ? 読んでるのは」
「もちろんだ。長谷川の論文も、綾小路の論文も、あらゆるものを読み漁っているところさ。今までは強くなるためにそうしてたんだが、最近は純粋に読むのが楽しくてな。身体を動かしていない時は、大体何かを読んでいることが多いな」
「へぇ〜。すごいね」
「俺なんかまだまださ。歩さんはもっとすごい。それに長谷川、お前もすごい。みんなすごいさ。俺だけじゃないんだ。だから俺は頑張れる。仲間がいるからな」
「うん、そうだね」
彼は定期的に私のところに来てこういう話をしてくれる。心配しているのかはわからないけど、とても嬉しいわ。こうして人と話せるのは。
「そうえば、研究はどうなの? 進んでる?」
「ちょっと大変だけど・・・・・・。なんとかやってるわ」
「今日時間あるし、手伝いに行こうか?」
「え。そ、それは」
みんなでご飯を食べた後に、歩がそう言ってきたんだけど。
彩花と椿ちゃんがすごく怖かったの。目がマジだったわ。
姉さんもあの二人を見たらきっと慄くと思う・・・・・・。
「今はいいですよ? 今はね? ねぇ、彩花さん」
「そうね。椿の言う通りよ。今はいいわよ。今はね」
「じゃあこの後は葵のラボに失礼するね。よろしく」
「え、えぇ。こちらこそよろしくね、歩」
この後は歩が私のラボに来て研究を手伝ってくれたのよ。以前だったら、舞い上がってたと思うけど今は感謝しかないの。
だって、あんな迷惑をかけたのにわざわざ手伝いをしてくれるのよ? 本当、歩って何なのかしら。
「おぉ。結構進んでるみたいだね」
「でも、ここの部分が難しくて・・・・・・。強化系は一通り大丈夫なんだけど、他のVAがね・・・・・・」
「そこは俺のVAの情報を使っていいよ。一応、何個か参考になるやつがあるんだ」
「本当に!! ありがとう! 助かるわ!!!」
歩ってすごいのよ? 研究者でもないのに、そこらへんの研究者よりも専門的な知識があるの。まさかここまでとは思ってなくて、知った時はもう唖然としたわ。
というか、私と同じレベルでVAについて語れるし、紗季の研究も問題なく手伝ってるし・・・・・・。
それなのに、あれだけ強いってどういうことなの? 年齢間違えてない? って何度も思ったわ。でも、彼はちょっと幼い感じが残ってて年を誤魔化してるとは到底思えない・・・・・・。
謎は深まるばかりだわ・・・・・・・。
「ふぅ。これでひと段落かな」
「ありがとう。おかげですごく進んだわ」
「それならよかったよ」
私はこの時、思い切って尋ねてみたの。なんでここまで私に良くしてくれるのか。あんなことがあったのになぜ友達でいてくれるのか。
「歩はさ、どうしてここまでしてくれるの? あんなにいろいろとあったのに、さ」
「う〜ん。なんて言えばいいんだろ。俺もさ、昔は友達が少なかったんだ」
「え、意外。ずっと人気者だと思ってた」
「ワイヤーなんてCVAだからね。友達を作る余裕なんてなかったよ。ずっと、ずっと努力してたんだ。仲が良かったのは、紗季と椿ぐらいだったよ」
「そうなんだ」
「高校に入る前までは、今の友人たちと会うまでは一人でずっと孤独に努力すればいいと思ってたよ。でも、友達は大事だ。それに気がついたんだ。お互いに切磋琢磨できる、互いに笑い合える、そんな友人は人生においてかけがえのないものだ。もちろん、強くなりたいし、もっと知識を得たいって気持ちもあるよ。でも、それでも俺は友人の大切さを知ったよ。人と人のつながりはきっと、めんどくさいことも色々あるかもしれない。でもきっとそのつながりは、自分の財産になる。なんでか分からないけど、そう確信してるんだ」
「そうね。私もそう思うわ」
「だからこそ、葵が手伝って欲しいならそうするよ。友達が困ってるなら助けるのが当たり前だろ?」
そう言う彼の顔はすごく良かった。なんか、人の温かさが溢れたそんな表情をしていたわ。
本当、歩には多くのものをもらっているの。
あと彼に今抱いている気持ちは好きなのか何なのかよくわからない。
今は、あの時みたいに求める気持ちはないみたい。ただ、こうして二人で些細なことを話すだけで嬉しいの。これが幸せなのかな? よく分からないけど、私は元気でやっているよ。
最近の話はこんな感じかな? 様々な人と出会って、そして好きなことをして、とても充実してるのよ。辛いこともないわけじゃないけど、それすらもちょっと楽しいの。
あ、別にマゾってわけじゃないよ。ただそう言う辛さも生きがいかなと思ってね。
時々、姉さんの最期を思い出すわ。あの時はしっかりと見届けたのよ。なぜか目をそらしてはダメだとあの時は思ったからかな?
正直、すごいショックだった。あんなに優しくしてくれた姉さんが、私に精神干渉していたのもそうだけど、目の前であんな死に方をするなんてすごい悲しかった。
でも、それでも私はあの時の言葉を覚えてるの。
「葵、さよならは言わないわ。ありがとう」
姉さんはどうして、さよならを言わなかったの? どうして、ありがとうと言ったの?
私は未だによくわからない。
それと昔から私に優しくしてくれたのは、私を操作しやすくするためだったの?
私はそうは思わない。あれだけひどいことをされたけど、あの時の姉さんの気持ちは本物だったんじゃない?
確信はないけどね。
いつも姉さんは言ってたよね? 葵は可愛い妹だって。私は妹だからこそ、わかる気がする。姉さんが本気で私をめちゃくちゃにしたかったわけじゃないって。
まぁ、でもこれは都合のいい後付けかもね。だってもう姉さんにそのことを聞くことはできないんだから。
それでも、あれだけのことをされても、私は姉さんに感謝しているわ。一番辛い時によく励ましてくれたのは姉さんだけだったから。
あれが偽物だとしても、私はあなたのおかげで何とか生きることができたの。ありがとう。本当にありがとう、姉さん。
最期に姉さんもありがとうって言ってたけど、私は何か与えることができてたのかな?
もし、私と過ごした日々が楽しくてそう言ってくれたのなら本当に嬉しいわ。こんな私でも誰かに楽しさを与えることができてたのなら、それはとても意味のあることだと思うの。
今は私が友達にそうしてもらってるからよくわかるのよ? すごいでしょ? 私も進歩してるのよ?
これからはVAの研究を続けていくつもり。みんなのおかげで進行ペースも速くて、卒業までにはまとまった論文を発表できるかもしれないの。
そのあとは、姉さんがしていたようにCVAの研究、その中でも
歩が渡してくれたんだけど、姉さんはなんで私宛にデータを残してたの? これは最期の手向けだったの?
どうせ残すなら一言くらい添えてよ! データだけなんてよくわからないよ!
でも、まぁちょっと頑張ってみようかな。CVAのことは全く知らないけど、たくさん勉強して姉さんの研究は私が完成させるよ。
長谷川小夜と長谷川葵の姉妹コンビで完成させるんだからね!
あ、ちょっと書きすぎちゃったみたい。そろそろ終わりにしようかな。
姉さん。私は今とっても幸せで元気にやっています。見ていてください。私はもう大丈夫です。自分の足で、自分の意志で進んでいけます。
今までありがとうございました。
私も、姉さんにさよならは言わない。またどこかで会いましょう? 私はきっといつか、また姉さんに会えると信じているわ。それでは、姉さんも天国でどうかお元気で。
――第2章 Rapport-Love Addiction- 終了。
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