第13話 襲撃

 


 割れた窓から複数の人間が入ってくる。全員武装しており、逃げ後れた人を捕らえているようだった。


 パニックになった人々は必死に逃げるが、テロリストと思われる人物達は全員クリエイターだったので、いとも簡単に人々を捕縛ほばくしていく。


「有栖川さん!! 逃げるよ!! 早く、急いで!!!」


 歩は逃げようとしない華澄に向かって叫んだ。しかし、華澄は逃げようとするどころかCVAを展開した。華澄が戦うつもりだと悟った歩は、彼女を冷静にさせる為にどうするか思考をめぐらせた。


(どうやら、テロリストと思われるやつらは人質をほっしているようだ。無差別に殺戮さつりくをするわけでもない。それより有栖川さんを何とか連れ出さないと、戦闘するにしても今はが悪い。隠れて作戦を練らないと)


 歩もCVAを展開し、華澄を出来るだけ刺激しないように説得を始めた。


「あら、七条君もやる気になったのね。じゃあいくわよ」

「いや今は逃げるよ」

「!!? あなた!! この状況で逃げろと言うのッ!!? クリエイターの風上にもおけないわねッ! いいわ、私だけで行く!」

「いや、戦闘をするのには賛成だよ。でも今は引くべきだ。相手は目視できるだけでも20人。加えて全員がクリエイターみたいだ。俺と有栖川さんの戦力を考えてもすぐには決着がつかないと思う。だから効率よく相手を戦闘不能にするには正面から削るんじゃなく、奇襲がベストだよ。だからとりあえずは隠れてよう様子を見よう。どうやら殺人じゃなくて、捕縛が目的みたいだしね」


 歩は早口でそう言った。

 華澄は少しキョトンとした顔だったが、どうやらすぐに理解したらしく歩の提案に賛成した。


「そうね。七条君の言う通りだわ。ごめんなさい、ちょっと興奮しすぎてたみたい」

「よし、じゃあ逃げるよ!!」



 そして歩と華澄は全力で逃げていった。華澄は少し後ろを振り向きながら心配そうな顔をしていたが、今やるべき事は別にあると心の中で切り替えた。


(七条君、流石に冷静ね。でもちょっと冷静すぎる気もするけど。まぁいいわ。いまはとりあえず、この状況をなんとかすることだけ考えましょう)




 しばらくして歩と華澄は10階に着いた。

 

 現在いる建物は全15階で先ほど襲撃があった場所は一階。構造はよくあるショッピングモールと同様に中央が吹き抜けになっている。そのためどの階からでも1階はよく見える。人質は1階の吹き抜けの所に集められており、何人かのクリエイターがテロリストと戦闘をしていた。



 歩はすぐさま複眼マルチスコープを発動。戦闘の様子を見始める。声は聞こえないが、見える人間の口を読んで何を会話しているかを理解できる。



「くっそ! 数が多すぎる!!」

「おい、どうするこのままじゃヤバいぞ!!」


 テロリストと勇敢にも戦っている5人の男達は劣勢になり、思わずそう口にした。さすがに20対5人では分が悪すぎたようだ。


「おいおい、大丈夫か? もう少し人手がいるんじゃないか?」


 テロリストのリーダーらしき男は相手をあおるように言葉を発した。

 風貌ふうぼうは30歳前半と思われる容姿。身長は約180センチほど。右手にはレイピアのCVAを構えている。

 現在は後ろの方で戦闘を観戦しているようだった。


「お前達!! なぜこんな事をするんだ! クリエイターなら一般市民を守るべき立場だろ!!」


 ある男は戦闘で勝ち目が無いのを悟ったのかは分からないが、相手にそう言った。


「あ〜〜、まぁいい機会だ。俺たちの事を話しといてやろう」

「竹内さん、いいんですか? 話してしまっても」

「あ? あぁ、いいだろう。別に知られてヤバい事は話さねぇよ」


 



(なるほど、リーダーは竹内と言う名前か。デバイスで検索をかけてくおくか)


 歩はデバイスから表示されているモニターに素早くタイピングする。華澄とも情報を共有できるようにモニターは非公開から公開設定にしてあるようだった。


 一方、華澄はおとなしくその様子を見ている。自分に今出来ることは歩からの指示を待つ事だと理解しているからだ。


「!! なるほど、有栖川さんこれ見て」


 歩はデバイスで得た情報をモニターに拡大表示し、華澄に見せた。


「これは!! この人が主犯なの? 七条君」

「あぁ、間違いない。あの名前と容姿とCVAは昔プロだった選手だ。名前は竹内たけうち直継なおつぐ。CVAはレイピア、VAは加速アクセラレイション。戦績もそんなに悪くない。プロの中でも中堅どこだね。いまは引退してるけど、見てる限りまだまだ現役と変わらないみたいだ」

「どうして元プロのクリエイターがテロなんかを起こしたのかしら?」

「わからない、全く見当もつかないよ」


 考え込む二人、しかし答えは出ない。


 歩はさらに情報を得ようと、再び慎重に下のフロアをのぞき始めた。






「そのまえにちょっと動かなくさせてもらうわ」


 竹内がそういうと加速アクセラレイションを発動させた。

 5人の男達は竹内が消えたように見えた。慌てて周囲を見渡すが、どこにもいない。


 次の瞬間、5人から一斉に悲鳴が上がる。


『ぐあああああああああああああッ!!!!!!』


 5人全員後ろに回り込まれ、脚をレイピアで刺されていた。文字通り、目にも止まらぬスピードであった。


 CVAでの戦闘はシンプルなCVAとVAであればあるほど強いとされている。複雑な能力のものを発現してしまうと、逆に能力の方に振り回されてしまう事が多いからだ。その点で言うと、この竹内のCVAとVAはかなり相性がよく制御もしやすい。故に彼はプロでも中堅でいる事が出来たのだ。


 その彼が本気を出せば、並のクリエイターでは対処する事は出来ない。


 5人にはもはや戦う意志はなかった。それほどまでに目の前にいるクリエイターに圧倒されてしまったのだ。




「んじゃ、話してやるよ。意識はあるだろ? よく聞いとけよ」


 竹内は語り始める。自分たちが何をしにきたのかを、そしてこれから何をするのかを。

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