第14話 理想(アイディール)


 竹内はレイピアを右肩に担ぎながら話し始めた。


「始めに言うが、俺たちの組織は理想アイディールって名前だ。どうせ、この騒動そうどうの後に公表されるから先に言っとくぜ。で、単刀直入に言うが俺たちの組織はクリエイターだけの世界を目指している」


 5人の男達に戦慄せんりつが走る。

 それもそのはず、クリエイターは世界の中でも希少な存在。そのクリエイターだけの世界と言う事は他の人間はどうするのかと考えたからだ。


「あ? いやもちろん旧人類のやつらは皆殺しにはしねぇぜ? でも無能な奴は切り捨てだな。有能な奴は使ってやるけどな」


 そう言うと竹内はどこか遠くを見ながら再び語り始めた。



「正直な、もううんざりしてんだよ。俺はこれでも元プロでやってきた。でもいい成績が残せなければ用済みだ。で、それを決めるのは旧人類の奴らだ。あいつらに俺らクリエイターの何が分かるんだ? たかが守られる存在がよ。あいつらは俺らに何をしてくれんだ? 何にもできないくせに言う事だけはでかくてもう我慢の限界だ。クリエイターが誕生して70年も経つ。そろそろ整理する時だろ。人口も増え過ぎだ。無能の多い世界はいつか破滅する。だから俺たち理想アイディールが整理してやるんだよ、この腐りかけの世界をな」


 話し終わると、倒れている男が声を出した。脚をレイピアで刺されたが何とか声を出す程度には回復したようであった。


「お前ら、そんな暴挙ぼうきょが本当に許されると思ってるのか……? 世間が黙っちゃい無いだろ……自分たちの勝手な正義感を押し付けるなよ……」


 男は竹内の戦闘力には屈したが、考え方は認めるわけにもいかなかった。この考えを認めてしまえば、世界はどうなってしまうのか。男はそれがとても恐ろしかった。


 自分もクリエイターだからその意見に賛成すべきか否か、多少の迷いが生じていたのだ。この考えは極論だが、クリエイターが酷使されているのは事実として存在する。だからこそ、自分もその事に思うところがある男の心は揺らいでいた。


「正義だと? お前らにとっての正義っては大多数マジョリティの意見だろ。世間が正義と言えば正義、悪と言えば悪。お前達は世界に操作されてんだよ。歴史上の戦いでも勝った方が正義になってるだろ? 俺たちがこの理想りそうを成し遂げればそれは正義なんだよ」


 竹内ははっきりとそう告げる。男の方もこれ以上は反論ができないのかあるいは認めてしまったのか、下をうつむいて黙ってしまった。



「そういうことだ、これからはクリエイターの世界が来る。お前達も乗り換えるなら早くした方がいいぜ」



 竹内がそういった瞬間、目の前でうつむいていた男がCVAをもって突撃した。

 話している間ずっとすきうかがっていたようで、ここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。


「バレバレなんだよ」


 次の瞬間……。


 突撃した男の右腕が空中に舞い上がった。レイピアを右腕に連続で突き刺し、その穴を繋げるようにレイピアを横にいだのだ。



 切断された事に気づいた男は痛みで声を上げる。周りに血が溜まっていく。致死量とまではいかないが、かなりの量を失血し男はその場に倒れ込んだ。すでに意識はないようだった。



「は〜〜〜あ、やっちまった。まぁいいか。いい見せしめになったしな」


 周りにいた人質とクリエイターたちは青ざめていた。中には涙を流す者もいた。この空間は圧倒的な恐怖に支配されたいた。


 一方、竹内と残りの部下と思われる人物達は顔色を全く変えずにいた。彼らにはこの程度の事はなんでもないといったようにも見えた。



「さてと、じゃあ本命をやりますか。おーい、10階にいる二人降りてこいよ!! いつまでも見てるだけじゃ楽しくないだろ?」


 竹内は上を向いて声を張り上げた。




「気づかれていたのか。くそッ、ろくに作戦も練れなかった。相手の話しに集中しすぎたか」


 歩は後悔しても遅いと分かっているが、そう言わずにはいられなかった。


「いいわ、七条君。相手が来いといっているのなら行きましょう。有栖川家の一員として彼らのすることは見過ごせないわ」


 歩を通じて、先ほどの下の会話を聞いた華澄はそう言うとCVAを展開させた。


「だね。とりあえず、有栖川さんはあのリーダー格の男を相手しといて。後で加勢するよ。残りの奴は俺が全部始末する」

華澄かすみでいいわ、戦闘中その方が呼びやすいでしょ?」

「ならこっちもあゆむで言いよ、華澄」

「えぇ、じゃあいくわよ歩」



 二人はそのまま10階から1階へと飛び降りていく。二人とも脚を強化しており、着地してもダメージがないようにしていた。


 そして、歩と華澄は20人の相手と向き合う。


「やっときたか、じゃあ俺は後ろで見てるからお前ら頼んだぞ」

「「はいッ!!」」


 竹内の部下19人がそう言うと一斉にCVAを展開する。


(全員、近接系のCVAか。ユニーク系はなし。あとはVAが問題だけど、華澄と俺のVAがあればなんとかなるだろう。でも油断はせず、臨機応変に戦っていこう)


「相手が気をきかせてくれたみたいだね。じゃあ、いこうか華澄」

「ええ、この戦いは負けられないわ」



 こうして、理想アイディールとの戦闘が始まる。



 2120年6月、特殊組織、理想アイディールが初めて表舞台に現れた。この事によって世界は大きな転換期てんかんきむかえる。


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