第6話 模擬戦 1
帰宅した歩は、自分の部屋であることを考えていた。
(今日クラスメイトのCVAとVAはひととおり頭にいれたけど、やっぱり有栖川さんは別格だな。特にVAの方がいまいち確信が持てない。広範囲型かもしれないし。まぁ、感知タイプって分かっただけでも良かったか)
そうすると、突然チャイムが鳴った。デバイスを通じて、歩はそれに応対する。
「はーい、どちらさまですか?」
「お荷物の配送の際に手違いがありまして、直接お届けに参りました」
「お、あの本が来たのか。それにしても直接配達とは今時珍しいな」
そう考えながらも歩は玄関へ向かい扉を開けた。
――瞬間。
彼の右目に鋭い針のようなものが迫る。
「!!!!?」
すぐにCVAを展開し、戦闘態勢に入り避けたが、相手の攻撃は右目の横をかすめ皮膚と髪を切り裂いていく。
(あれは、レイピアか? でも、この近距離はワイヤーじゃ分が悪い! 距離をとる!)
そう決断し、歩は目の前の男に突進を試みる。躱されるが、なんとか相手の後ろをとった。
そして、数本のワイヤーを相手に放つ。ワイヤーがかなり速度で相手を逃がさないように全方位を囲むように迫っていく。
しかし、相手は右手のレイピアでそれを全て凌ぐ。それをみて歩はひとまずワイヤーを戻す。
「……お前は七条歩か?」
男がそう言うが、歩は答えない。
(くそ、VAは疲労が激しいから使いたくないんだが……)
しかし
「仕方ないッ!」
そう叫び、歩は目を緋色に変化させ、
(まずは分析をしたいし、あまり出力をあげたくない。両手と武器だけロックするか)
歩の緋色の目がせわしなく動いたと思ったら、ピタッと止まりロックが完了する。
「ふぅ……それじゃ、やりますか」
歩は両手のワイヤーを針金のようにピンとまっすぐにすると、それを針のようにして相手の両腕に向けて投げつける。
そして、1秒も経過しないうちに再びワイヤーで作った針を両足に放つ。
「ッチ!」
相手は目障りだと思いながら腕と脚に放たれた針をはじき飛ばす。
しかし、その間に男は両足をワイヤーによって絡めとられていた。そのまま、身体をワイヤーで拘束し歩は相手の帽子を取ろうと近づいていく。
「その顔、よく見せてもらおうか」
そのまま相手の攻撃を警戒しながら、じりじりと近づいていく。
だが、そうしていると相手は右足を渾身の力で振り上げる。ワイヤーで拘束している為、アユムはその勢いで上空へと吹き飛ばされてしまう。
(強化系のVAか、
仕方なく相手の拘束をとき、そのまま回転しながら着地。
そして、次の手を考えていると相手がなぜかCVAを解除する。
「……また来る」
それだけ、言い残して男は去っていった。
「何だったんだ一体?」
そう呟くと、さっきまでの騒がしい雰囲気は消え静寂さだけが残った。
次の日、昨夜の出来事は何だったのかと思いながら歩が駅を歩いていると人とぶつかってしまう。
「ッキャ!」
「ごめんなさい! ちょっと、ぼーっとしていたので。ほんとすいません!」
「いえいえ、あたしもよく前を見てなかったのは事実ですし、全然いいですよ」
彼女は軽く微笑みながらそう答える。
「そういってもらえるとこっちも気が楽です。あ、あれ? そうえば同じクラスのひと? 昨日のタイムアタックで3位だった。」
「あ、うん。そうだよ。でも、七条君と有栖川さんにはかなわないよー。点差も10ポイント以上だし」
「いやー、でも俺の場合はあのタイムアタックに適したCVAとVAだったし。たまたま相性がよかっただけだよ」
「またまたー、謙遜しちゃってー。あ、そうえば自己紹介がまだだったね。あたしは
「おれは七条歩。こちらこそよろしく」
自己紹介をした後は二人で一緒に教室へと向かっていく。
「おい、歩はいきなり女子と仲良くするとはやるな」
席に着くなり雪時が声を潜めて話しかけてきた。
「ただ、朝ぶつかって謝った人が同じクラスの人だっただけだよ」
歩はデバイスでなにかを検索するようにタイピングしながら、作業の片手間にそう返事をする。
「なんだ、それだけか。つまんねーの。てか、なにしてんだ?」
そう言われると歩はタイピングする手を止めた。
「あー、過去のクリエイター関連の事件を探してるんだ」
「事件? 事故じゃなくて? てか、事件とか何年前の記録だよ。データとか残ってるのか?」
「いや、ふつーに検索する限りでは残ってないね」
「おまえまさか襲われたりしたのか? なんつってなー、アハハハハハ……は?」
図星をつかれ歩は思わず黙ってしまい、それによりそれが真実だと悟られてしまう。
「おい、まじかよ。警察にはいったのか?」
「いや、行ってない。まずは自分で情報を集めようと思って。世界的なニュースになっても困るし」
「なにか力になれることがあったら言ってくれよ」
「あぁ、ありがとな」
そして、担任が入ってきて今日の演習場所を言い一日が始まるのだった。
「よし、じゃあ今日は対人戦でもしてもらおうか」
「よっしゃー、そういうの待ってたんだよね!」
「じゃあ、お前有栖川とな。よろしく。残りの組み合わせは昨日の順位を参考にして組むから」
「エーッ!? 昨日の2位歩じゃん! 何で俺なんですか!? 先生!」
「いや、お前楽しみっていってたじゃん。だから強いやつと組ませてやったのに不満か?」
「不満しかないですよ! 変えて下さいよ!」
「いや、無理。気分じゃない。というわけで頑張って」
「まじすか……」
雪時はあまりのショックに、その場に崩れ落ちてしまう。
うわーよかった。まだ有栖川さんとは戦いたくなし。ありがとう、君の犠牲は忘れないよ。
歩がそう思っていると誰かに肩をたたかれる。
「やっ! 七条君の相手は私だね! よろしくね!」
「そうか、3位は不知火さんだったね。こちらこそいい試合にしよう。よろしくね」
握手をし、彼女と別れてから試合の準備をしていると雪時がまだ落ち込んでいるようなので、仕方なく声をかける。
「おい、雪時。大丈夫か?」
「これが大丈夫に見えるのかよぉ! ほんとはお前と有栖川さんだったのに! 口は災いの元ってのを痛感したぜ……」
「まぁ、善戦してこい。骨は拾ってやるよ」
「負ける前提かよぉ! まぁ、頑張ってくるぜ……」
そのまま、とぼとぼと雪時はフィールドへと進んでいく。
CVAがスポーツ化し対人戦では相手を戦闘不能にすることは上級者でないと時間がかかりすぎるので、高校ではHP(ヒットポイント)制が採用されている。
頭から足にかけて全身(顔も含む)を覆う透明なスーツを着る。するとそのスーツは身体に溶けるようになじみ、全く違和感なく普段通り行動できるようになる。
唯一の違いは、右上にHPのバーが見えるようになるということだけだ。HPは設定でいくらにも変更可能だが、国際ルールでは200が最大と決まっており、0になると負けになる。
HPは本人だけのものだけでなく、相手のものも視覚化されるようになり、お互いに確認できる。
そして、対人戦はCVAにある属性攻撃も使用可能である。
CVAで使用できる属性は火、水、氷、雷の4つ。
また、属性攻撃はなにもただ火、氷、水、雷、が単純に発生する訳ではなく、本人の創造次第で多彩な攻撃が可能。例えば、剣に炎を纏わせるだけでなく実際に炎を投げつけるなど。属性攻撃もまた創造力が問われるのである。
そして、第一試合
開始した瞬間、華澄は先手必勝とばかりに積極的に攻める。彼女は、始まって1秒も経たないうちに攻撃圏内に入る。
「はやすぎでしょッ!!」
雪時は相手が
なるほど、強化系。それも腕に特化したVA。これは普通のハンマーと思わない方がいいわね。
華澄はそう考え、再び攻める。
互いの武器が交錯することで火花が飛び散る。
彼女の攻撃は双剣で手数が多いにもかかわらず、雪時はそれをハンマーで
しかし、捌ききれない攻撃もあり、HPの削れ方は雪時の方が大きく、残り170となっていた。それに対して華澄は200。
このままでは
そう思った、雪時は奥の手に出る。
「
そう叫ぶと、ハンマーが一気に炎に覆われる。
そして、そのままハンマーを上に掲げ渾身の力で地面に叩き付ける。すると次々と炎の柱が地面からあがり、華澄を襲う。
「ッく! 防ぎきれないッ! ……なんてね」
そう言う彼女はすでに雪時の後ろに回り込んでいた。
それは物理的な速さというよりは、先読みしたような動きであった。
彼女は感知系のVAじゃないのか? それとも、複数のVAをもっているのか? でも、強化系にしては感覚が鋭すぎるし、やっぱり感知系だろうな。あれぐらいのスピードはハイレベルなクリエイターなら不可能でもないし。
歩がそう分析している間に状況は進んでく。
「それを待ってましたぁ!!」
瞬間、華澄の腹部にハンマーが叩き込まれものすごい勢いで飛ばされていく。彼女は双剣を地面に突き刺しながら勢いを殺し、ふわりとやわらかく着地する。
雪時はあらかじめ彼女の行動を読んでいたのだ。属性攻撃は
そして、彼女のHPは一気に120も持っていかれ、残りは80。
しかし、華澄は相手がそれなりに強いと分かり思わずニヤリと笑ってしまう。
「正直なめてましたよ。ただの脳筋ハンマーと思っていた自分が恥ずかしいです」
「まぁ、正直脳筋だけどそれなりに考える力はあるぜ!」
「でも、それもここまでです。しょうがないですけど私のVAを使います」
使う? てことは今までは使っているというより、無意識にあそこまで感知していたのか?
やっと彼女のVAが見られるとさらに集中して戦闘を見ようとしたとき、状況は動いた。
「では、いきますよ?」
彼女は笑いながらそういうと、雪時に向かって歩いていく。
「歩いてていいんですかい!!」
隙だらけとみて、雪時はトップスピードで相手に
クリエイターでさえ消えたと感じるぐらいの素早さで、彼女は彼の隣に立っていたのだった。
「……ええ、いいんですよ」
彼女の声に気づいたとき、時は既に遅かった。両手の剣から繰り出される攻撃を防御する間もなく受け、雪時はそのまま吹っ飛び壁に叩き付けられてしまう。
HPは残り10。もう彼になす術はなくなっていた。
「ここまで
ちょうどそのとき5分が経過し、試合が終了した。
(そうか! あれは未来を感覚的に予知できるVA、
「ふぅ、やっぱり強いね有栖川さん。試合楽しかったよ」
「いえいえ、こちらこそ久しぶりにVAも使えて楽しかったです」
ふたりが互いの検討をたたえ合いフィールドから出てくる。周りの生徒はレベルの高い試合を生で見れたと感動し、ふたりに拍手を送った。
そんな中、次の試合をする二人はそんなこともする余裕もないほど緊張感のある雰囲気をまとっていたのだった。
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