死にたくて生きたくて

帆高亜希

第1話 早く死ねたらいいのに

ズキズキと左手首が痛む。


またリスカした、今度こそうまくいくと思ったのにオヤジに見つかった。

真夜中の2時半ごろだったし、爆睡してると思ったのに…。

だいたいせっまいアパートでオヤジと枕並べて寝てるってのがいけないよね、

こんなんじゃスグ気づかれちゃう。

カッターでシュッと左手首切ったとたん、それまで寝てたハズのオヤジがガバっと起き上がった。

あたしがリスカしてんの見つけ、「バカヤロー!」と大声で怒鳴った。

強引にあたしの手からカッター奪って、リスカした腕をとってそのまま応急手当。

消毒液をいっぱいぶっかけティッシュで押さえ、止血。

その間、オヤジはなにも言わなかった。

怒っているようにも見えたけど、涙目だった。

あたしのことなんて、ほっといてくれたらいいのに…。



「傷はそんなに深くないけど、一応包帯で押さえとくからな」



そう言って包帯を巻いてくれた。

カッターは没収された、100均で買ったばっかなのに…。

これで何個目だろう、リスカするたんびにオヤジに見つかって失敗してカッター取り上げられちゃう。

今日は真夜中だから大丈夫だと思ったのに…。


早く死にたくてしょうがないのに、なんでジャマばっかすんだろう…。

去年の夏まであたしのことなんてほったらかしだったくせに、なんで今ごろ?




朝になった。

あれから寝ないでオヤジが眠るの待ってたけど、ずっとあたしのこと見張ってた。

がんばって起きてたのに、いつの間にか寝てた。

住んでいるアパートは入り口にキッチンあって部屋あって…の一応二つ部屋あるけど、キッチン超せまいから、別々の部屋で寝らんない。

あれからオヤジは一晩中あたしが寝てるすぐそばで座って見張ってたっぽい、まじウザい…。



「おい起きろ、朝メシ食え」



気がついたら朝の7時。オヤジはいつの間にか服に着替えてた。

あたしはなにも言わず、トイレへ行く。

トイレのカギは、こないだオヤジにぶっ壊されたばっか。

あたしが自殺しないためらしい。

ここまでやるなんて、異常だろ!


トイレから出ると、布団が畳まれ折りたたみ式の小さなテーブルが出ていた。オヤジはちょうどその上にできあがった朝ごはん乗せようとしていた。目玉焼きに切っただけのキュウリとトマト、そしてトースト。

そして、コップになみなみと注がれたオレンジジュース。

朝からこんなにたくさん食べるの、オヤジと一緒に暮らしはじめてからだった。



「あのな、絵留美えるみ…」



トーストを半分食べたところで、いきなり話し出す。



「そのまま食べ続けていいから、よく聞け。つらいかもしれんがな、生きてりゃいいこともある、だから…」



ああ、またはじまった、うざ…。

あたしは聞き流してたんだがバレたのか、



「おいっ!聞いてんのか!?」



怒鳴りつけられる、だる…。

シカト決めこみたかったけど、あんまうるさいんでつい、



「あたしのこと13年間もシカトしといて、今さら父親ヅラすんじゃねーよ…」



つぶやいてしまった。

そう、このオヤジと一緒に暮らしはじめたのって最近で、まだ半年も経っていない。

いきなりコワモテのオトコが現れ父親だと名乗り出たもんだから、マジでビビった。



「13年間名乗り出なかったのは、ワケがあるんだっ!」



オヤジ、マグカップをテーブルにドンッと音を立てて置き、口のききかたが乱暴になる。



「なんだよ、ワケって?」



もう何度もオヤジがあたしをずっとスルーしてきたワケ聞いてる、

なのに、



「いずれ落ち着いたら話すから」



こればっか。



「ホントはワケなんてねーんじゃねーの?」



…今日はじめてツッコんでみる、ずっとこれが言いたかった。



「あ・る!今のオマエに言えないだけだ」



オヤジも強情だ。

スゲー怖い顔であたしを睨みつける、さすが元ヤン…。



「ウソつくんじゃねーよ!」



「ウソつくか!いいからさっさとメシ食って支度しろ!」



…今日もきっとオヤジが働く老人ホームでボランティア、

マジ行きたくねー。

なんで年寄りの世話なんかしなきゃなんないの!?


逆らいたくても、怖くて逆らえない。

オヤジ、元ヤンなだけあってキレるとガチでヤバい。

一度逆らって脱走しようとしたとき、鬼のように速くダッシュで追いつかれ、すんごいチカラで車に押し込められたからなぁ…。


やだやだ、この状況から逃げるには、死ぬしかないんだよね…。



朝ごはん食べ終わったあたしは、のろのろと着替えた。

メイク道具は一緒に暮らしはじめたときに「いらないだろう」と、

勝手に捨てられた。

どんだけ横暴なんだよ!?

でもまぁ、老人ホームはジジババばっか・職員もダサいヤツばっかだし、

ノーメイクでも生きてける。

メイクしなくなったぶん、朝の支度が早くなったけど、



「おい、いつまで洗面所使ってる?」



こう言われんのも、お約束。


鏡見る。

半年前まで金髪だったあたしの髪、今は真っ黒けっけ。

でも日に当たると、染めてたってのがわかる。

ああ、髪を黒以外にしたい…。

あたしは髪の毛をテキトーにシュシュでまとめた。



「ほら、行くぞ」



オヤジはむりやりあたしのリスカしてないほうの手を引いて、車に乗せた。
















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