凪波学園情報部

JOKER

「やっぱり最初は肝心だよね」「既に崩壊してるだろ」

 学園内のある1室、黒髪長身の少年が複数人に囲まれ椅子に座らされていた。彼の脳内ではある言葉が繰り返し流れていた、ちなみに今ちょうど記念すべき100週目を迎えたところである。おめでとう。


 そしてその数えるのがめんどくさくなるほど繰り返されたその言葉、それすなわち





ど う し て こ う な っ た






 発端は本日―4月の下旬の午前8時頃、時期的には部活動の勧誘もとっくに終わり、大多数の生徒が部活動に精を出し始めているであろう時期である。


 そんな時期に凪波なぎは学園高等部2年生の彼―静寂鷹谷しじまたかやは逆に部活を退部した。いや、別に自分の才能に限界を感じたとか人間関係怠い、そんなことよりオフトゥンにダイブしたい←(?)とか思ったとかそういうことではない。ただ少し、事情があるのである。


 今重要なのは「凪波学園高等部2年生の静寂鷹谷という男子生徒が諸事情により部活(ボクシング部)を退部した」という事実だ。ちなみに彼は今ボクシング部の顧問に退部届けを提出してきたところでこれから教室へ戻ろうしていた


「あ!鷹ちゃん」


「……なんだよ」


 不意にかけられた声に不機嫌―もといいつものテンションで彼は答える


「あれー?そっけないねー?まさにいつも通り~」


「喧嘩うってんのか?香かおる」


 香―花岸香はなぎしかおる、鷹谷の幼なじみでクラスメートで悩みの種である。その口調は明るくハイテンション、不機嫌さの極みといつものテンションが=で結べるよ!!!!やったね☆な鷹谷とはまさに正反対と言える。茶髪のふわっとしたセミロング(あとアホ毛)に可愛らしい顔立ち、比較的小柄な体躯をセーラー服につつんでいる。これまた重い黒髪の寝癖頭に凶悪かつ不機嫌そうな表情(あくまで表情、顔立ちは整っている方)、長身の体躯に学ランを着た鷹谷とは正反対だ


「まっさか~、そんなわけないでしょ」


「そうか、どけ」


 まさに正反対である


「嫌だ、もう少し喋ってても時間あるじゃない♪」


「そうだな、どけ」


 まさに正反対である


「そういえばテストどうだった?」


「中の上、どけ」


 まさに正反t((ry


「………crazy…」


「それはお前だろ、どけ」


 まさn((ry


「ところでどうしたのこんな時間に?今って朝練の時間でしょ?」


「ちょっと事情があってな、部活を辞めてきた」


 ようやく鷹谷が答えた。不機嫌なように聞こえるがあくまでいつもの調子、そこまで部活に執着は無かったようだ


「ふ~ん……」


 香が相づちを打つ。しかしその表情になにかを企む笑みが浮かんでいることに鷹谷は気づかなかった


「だいたいお前何なんだそれ」


 鷹谷が香に人差し指を向ける


「何なんだって……何が?いつもの通りだよ?」


「そうだな、そうだろうよ。いつも通りだよな、だから問題なんだよ」


「問題?」


 鷹谷の口調に本日はじめての感情らしきもの(ストレス)が入荷された


「あぁ、問題だ、何で―」


 溜めるように深呼吸すると鷹谷は香に『いつも通りの』一言をぶつけた




「何で男なのに女の格好してんだよ!!!!!!!!!!」

「面白そうだからだよ!!!!」




 これが鷹谷の言う問題、それすなわち―「外見が女性的な感じの幼なじみ(それ以外は普通の男子高校生が)ただ面白そうだからと毎日女装して登校してくる」ということだった。鷹谷の悩みの種たる所以ゆえんである。何なんだこいつは何で遊びでこんなことを毎日するような奴なんだ。何でこんなになるまでほっといたんだ。そもそも何時からこうなったんだ。等々疑問は尽きない。


 そんな鷹谷の心中を察することなく香はおしゃべりを続行していたようだ


「―って感じでさ……鷹ちゃん、聞いてる?」


「聞いてねーよ……………何の話だよ」


 先程入荷されたストレスは既に品切のようだった。テンションがいつもに戻っている


「もう、ちゃんと聞いてよ!僕が赤点とって補習さぼってたら担任に怒られたから腹いせにそいつのカツラを焼却してきたって話だよ!!」


「あいつカツラなのかよ!!!!」


 違う、そっちじゃない


「本当に何の話してんだよ!!!!つーか何してんだお前!?馬鹿かよ!」


 ストレス再入荷のお知らせ。工場が頑張ったようだ。何はともあれ香はこういう奴である。面白そうだからと女装して登校やら担任のカツラを焼こうぜキャンペーンやらそんなことを何のためらいもなくやっちゃうようなcrazyなのである。そして毎回鷹谷がその尻拭い、そろそろ給料を貰ってもいいのではないだろうか


「あ、そろそろ本題に入ろっか」


「おいまて、今までのは何だったんだ」


「ただのおしゃべり、雑談」


 ……………おい、ストレス生産工場のエンジニア、今までのストレスは全て無駄だったようだぞ。ついでに担任のカツラも無駄な犠牲だったようだ。哀れだ(担任がとは言っていない)


「それで鷹ちゃん?」


香が本題を切り出す



「鷹ちゃん…………ホントに部活辞めてきたの………?」


 香が浮かべる怪しさを極めた笑顔。ここに来てようやく鷹谷は香が何かを企んでいることに気付いた。バカの癖にいらないアイデアはポンポン思い付くようなヤツなのだ


「あ?あぁ……そうだが?」


 鷹谷、やや警戒し、後ろへ下がる。しかし―


「逃がしませんよ」



 聞き覚えの無い第三者の声、次の瞬間、鷹谷の意識は闇に投げ入れられた

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