竜と踊れば
春風シオン
第1話 いつか旅立つ日のために
「さあ。そろそろ行こうか、ヴェル。」
青年はひげを軽く伸ばしながら相棒に声を掛けた。
ヴェルと呼ばれたその
日時計は20時を指していた。あと4時間で荷物をカーの村まで届けなければならないのだ。
リオが手綱をしっかり握って合図を送るとヴェルは助走をつけて風に乗った。
ここはエゲイア。ねずみびとと竜が生きる、太陽の沈まぬ世界。
リオがカーの村についたのは約束の時間からさらに1時間ほど後のことであった。
「ともあれ、無事に荷物が届いてなによりだよ。」
魔法使いミト。カーの村の長でリオの祖父。彼はずいぶんな高齢でひげもハリを失い毛も白髪混じりだ。しかしその魔法の腕は確かである。
「どれ、少し試してみようかね。リオはそこに座って待っていなさい。」
ミトは孫が届けた荷物を開いた。中から鮮やかな青の宝石を取り出し、祭壇に据え付けられた台の上に置く。そして何やら呪文を唱えている。すると宝石の中に格子状に光が走り、祭壇は唸りをあげる。そのうち祭壇に置かれた器には見る間に液体に満たされた。
「飲むといい、疲れに効くぞ。」
「ありがとう。」
ほっほっほと笑う
「さて、と。」
酒を飲み干し、自慢の飛行帽を手にとった青年を老人は引き止める。
「まあまあ、今日はゆっくりしていきなさい。
「悪いね。来るたびに泊めてもらって。あんまり甘やかすと居着いちゃうかもよ。」
「ははっ、毎日孫の顔が見れるのか。そりゃいいわい。」
「変わらないな、爺さんは。」
「そりゃ年季が違うからな。お前さんの生まれるずっと前からこうだ。」
「そうだね。じゃあもう寝るよ。」
「おやすみ。」
外の照りつける日差しをよそにリオはお気に入りのベッドに潜り込んだ。
ここに来るとリオはいつも思い出す。昔、祖父にしてもらった寝物語を。
世界の終わり、黄昏の森のさらに向こう側。世界の果ての果ての果て、太陽のない濃紺の空にたくさんの宝石が散りばめられた世界があるという。空を飛ぶ鯨に燃える大地。1列に並んで駆ける鉄の獣。永遠に消えない銅の松明が照らす街の、毛のない湿った肌の奇っ怪な住人たち。
だが、そんなものが本当にあるのだろうか?
リオは確かめたかった。もちろん爺さんには内緒だ。反対するに決まっている。
だが、いつか旅立つ日のために彼はこうして運び屋をしているのだ。
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