CREST~7つの紋章編~
館山理生
プロローグ
真っ赤な炎が燃えていた。
ただただ、赤い。赤、赤、赤、赤。
床には、原型を留めぬ黒い物体がいくつも転がっている。
そこに私は一人、立ち尽くしていた――――――――――
♪
灰色の空見上げて 僕は無機質に笑う
いつから空は青さを忘れ 見えなくなっていたんだろう
息苦しいこの世界は ぽっかりと穴が空いていて
いつもそこから嘘や混沌が 溢れ出ることをやめない
非力で、無力な、僕だけれど
変えたい「願い」は きっと誰にも負けない強い力
いま動き出す たった一人で
手を差し伸べて たった二人で
何を変える? 何が変わる? ちっぽけな存在でも
ただひたすらにもがいてやる 空を青に染めるため
真実も嘘も全部向き合って歩いてこう
♪
夕暮れ染まる放課後の教室で、私は一人歌っていた。灰色から赤に変わる空を見上げながら――。
必ず変えてみせるんだ。この歪んだ世界を、私の手で。だけど、所詮私の存在などは浅はかでちっぽけで。私が死んだら、世界の人口の何割が悲しんでくれる?
きっと、一割にだって満たないだろう。その程度の庶民でしかもまだ幼い中学一年生に何が出来るというのだろうか。答えはいたって簡単だ。私が大人になって総理大臣にでもなればいいのだ。
だが、現実はそう甘くないことぐらい、この年にもなれば分かるというもの。そして私は前述のとおり庶民で、大金なんて持たなければ政党に立候補することすら適わない。そんな私に果たして何が出来ようか。
今はただ、この日本の法に縛られ守られながら、義務教育を受け、ひたすら勉強することぐらいだった――――
私の家は、極々一般的な核家族であった。
養子として拾われたわけでもなく、両親が離婚したわけでもなく、片親が亡くなったわけでもなく、児童虐待を受けているわけでもなく、それらを「不幸」と呼ぶのなら、私の家は「幸せ」な家庭なのだろう。その上、緩すぎず厳しすぎずの家庭ルールで、これといって不便だった記憶はない。テストの成績だって常に上位。それを褒められたことはないが、疑問を感じたこともなかった。
それが私の当り前なのだ。強いて挙げるなら、高校に入るまで携帯電話の所持が許されないことが気に食わないぐらいだろうか。そんな私が、この世の格差社会や学歴社会を嘆くのは「不幸」な人間からすればただの同情でしかないのだろう。
日本は平和だ。確かにそうかもしれない。連日内戦続きというわけでもなく、貧困が目立つ様子もないし、先端技術も日々発達している。むしろ国民のほとんどが平和ボケしていて他国の戦争を他人事だと思って見向きもしない。本当にそれでいいのだろうか?
日本人にはどうも、他人に同調する性格の人間が多いらしい。尤も、この日本で上手く世渡りするためには社交性やコミュニケーション能力といったものは必要不可欠だが、どうも私はこうした「広く、浅く」の人付き合いが気に入らない。本当はどこか妥協しているのではなかろうか、などとよく思ってしまう。無論、表面上だけでも上手く人と付き合うことは大切なことだけれど。
そういったステレオタイプの多い日本人からして、私のような異端者は除け者にされる。自分の意見を持ち、それを相手に伝えようとしているだけというのに、それを「押し付ける」などと考えてしまうから除け者にしてしまうのだろう。
平和な国だからこそ、歪んでしまった思考回路。別に戦争を促すわけではなく、こういった歪んだ人間が政治をしていることに腹が立って仕方がないだけである。
よく巷で耳にする、「フトコロに」は事実なのだろう。実際この目で確かめたわけではないが、毎年増えていく国債データを見れば一目瞭然である。フトコロがなんらかの権力集団を揶揄している可能性もある。国民が集めた募金はどこに行く? 国民が信じた未来はどこへ向かう?
国が悪い、政府が悪い、そんな愚痴を言ったところで何も変わらない。誰かが行動を起こさない限り、何も起こらない、何も始まらない。
違う。
何かが始まる前に、消されているのよ――――
ああ、なんて平和な世界だろう。誰も文句を言わない、優しくて明るい世界。
ああ、なんて醜い世界だろう。誰の文句も聞かない、隠匿で強情な世界。
――もしもの話。国のお偉方すら屈服してしまうような力があったなら。この世界はもう少し穏やかになるかもしれない。世界を変えられるかもしれない。
今こそ、革命のとき……なーんて、子供の戯言に過ぎないよね。
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