第5話 騒動の主、不法占拠の主



 ぐるっと建物内の案内をすませて、最後にオペレーター室へ足を踏み入れると、何やら慌ただしい様子だった。


 もしや、どこかでナイトメアが出現したのかと思ったのだが……。


 訳を聞いてみると、どうしようもない理由だった。


 オペレーター室を歩きまわるオペさん達の代わりに、その話を聞かせてきたのはなぜか、アルシェだ。


「やあ、久しぶり」

「アルシェ? お前引きこもってないで良いのかよ。溶けたりして知らないぞ」

「僕を引きこもりの吸血鬼みたいに言わないでくれるかな」


 喋りながらも無線マウスをカチカチカチ。

 かなりせわしなく動かしていた。


 オペさん達の代わりに、業務でもしてるのかと思ったら、見慣れない英語?文字?みたいなのが飛び交う画面を見ながら、パソコンを操作している。


 時折警告文みたいなフレームが出現しては、ぱっと消えての繰り返しだ。

 なんかそれヤバくね?


「そういえば、お兄さん。僕の部屋の扉開けたでしょう。それで閉め忘れだよ」


 アルシェが言うのは、視聴覚室の事だ。

 ああ、確かに開けた。

 開けっ放しにしてたな。


「あそこは視聴覚室であって、お前の部屋じゃないけどな」

「それより、僕のロボット知らない?」

「ロボット?」


 それが、扉の開け閉めとどう関係あんの?


「視聴覚室に無断で入って来た人間を撃退するやつだよ。でも扉だけ開けたもんだから動作不良起こして、どっか行っちゃったんだよね」

「そりゃご愁傷様って言いたいとこだけど、不法占拠してるお前が悪い。それが何の関係があるんだ?」


 俺のせいだって言うのは若干申し訳なくもあるんだが、それだったらそもそもそんな所に引きこもるなと言いたい。


 俺の不満なんて知ったじゃないとでも言わんばかりに、目の前の、アルシェは思案気だ


 で、ちょっとだけ言いにくそうにしながら喋り続ける。


「いや、ね……。結構大変な事してくれたんだよ兄さん。あれって実は小さな動くパソコンみたいなものなんだ。普段なら動画再生したり、音楽再生したりするだけなんだけど。たまに任務で端末からデータ吸いだす時にも使うから」


 え、そんな大ごとだったん?


 まてまてまて。

 つまりあれか。


 画面の中で、殺気からやけにファイルコピーの作業が平行して進んでいると思ったら……。


「もしかして、そのロボットが部屋の中に紛れて、オペ室の情報吸いだされそうになってんの? そういうオチ?」


 バックアップとりながら、防いでたってワケか。

 それでアルシェがパソコンで何やらやってると。


「話が早いね。そういう事。だから手伝ってよ」

「お前なぁ」


 そういう手間がかかる少年だったとは思わなかった。

 呆れるけど、俺が部屋開けっ放しにしてたのもあるしな。


 仕方ないから、付き合うことにした。


 そう決めたら、隣で自体のなりゆきを見守っていた近藤さんも、協力を申し出てくれた。


「わ、私もお手伝いしますよ」

「おう、ありがとな近藤さん」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る